◆ はじめに:CKMスペクトラムにおける心房細動の予防は可能か?
心房細動(AF)や心房粗動(AFL)は、心血管・腎疾患や代謝異常(いわゆるCKMスペクトラム)における重篤な合併症のひとつです。こうした不整脈の発症は、心不全や腎機能悪化の予兆となりうるため、予防的介入が重要視されています。
今回ご紹介するのは、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)であるフィネレノンがAF/AFL発症を抑制するかどうかを検討した大規模な試験参加者個別データの統合解析の結果です。
試験結果から明らかになったことは?
◆ 研究の概要
- 目的:フィネレノンがAF/AFLの新規発症リスクを低下させるかを評価する。
- 解析対象:3つの大規模ランダム化比較試験(FIDELIO-DKD, FIGARO-DKD, FINEARTS-HF)から、ベースラインでAF/AFLを有さない14,581例。
- 追跡期間:中央値2.9年。
- 介入:フィネレノン群 vs. プラセボ群
- 評価指標:新規発症AF/AFL(専門委員会により前向きに評価)
◆ 主な結果
項目 | フィネレノン群 | プラセボ群 | ハザード比(HR) | P値 |
---|---|---|---|---|
新規発症AF/AFL件数 | 286件(3.9%) | 345件(4.7%) | HR 0.83 (95%CI 0.71–0.97) | 0.019 |
- 年齢、心不全歴、BMI、尿中アルブミン/クレアチニン比の高さが新規AF/AFLの独立した予測因子として確認されました。
- フィネレノンによるリスク低下は、CKM疾患の数や試験種別によらず一貫して認められた(交互作用のP>0.5)。
- 新たにAF/AFLを発症した群では、心血管死・心不全入院・腎障害のリスクも有意に上昇していました。
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◆ 解説:なぜフィネレノンはAF/AFLを抑制できるのか?
フィネレノンは、ステロイド性MRA(例:スピロノラクトン、エプレレノン)とは異なる構造を有する非ステロイド性MRAであり、線維化・炎症・酸化ストレスなどの多因子経路に作用します。
心房構造のリモデリングや線維化は、AF/AFLの発症メカニズムに密接に関与しているため、フィネレノンによるこうした病態修飾が、不整脈発症リスクの低下に寄与したと考えられます。
◆ 臨床的意義
この研究が示すポイントは以下のとおりです:
- フィネレノンは単なる腎保護薬ではなく、不整脈予防にも効果が期待できる可能性。
- AF/AFLの発症を抑えることで、心血管イベントや腎機能悪化の二次予防にもつながる可能性。
- CKMリスクを抱える患者に対して、より包括的な介入戦略の一部として活用できる可能性。
◆ 限界と今後の展望
- 本解析は事前に計画されたサブ解析ですが、主要評価項目はAF/AFLではなかったため、探索的性質がある。
- 新規AF/AFLの発症率は全体で4.3%とやや低く、より高リスク群での検討も必要。
- 今後は、AF/AFL発症を主要アウトカムとする前向き介入試験が望まれる。
◆ まとめ
本研究は、フィネレノンが心房細動・粗動の新規発症リスクを有意に低下させることを、CKMスペクトラム全体にわたって示しました。今後は、フィネレノンを心腎保護と不整脈予防を両立できる治療選択肢として、より広範な臨床現場で活用していく可能性が広がります。
とはいえ、仮説生成的な結果であることから、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 大規模試験3件のプール解析の結果、非ステロイド性MRAフィネレノンは、心臓・腎臓・代謝スペクトル全体にわたって心房細動/心房粗動(AF/AFL)の新規発症リスクを軽減した。
根拠となった試験の抄録
背景: ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、線維症や炎症などの心臓および全身の経路を調節し、心房細動(AF)または心房粗動(AFL)の発症に寄与する可能性があります。
目的: この参加者レベルの3つの大規模臨床試験の統合解析では、著者らは、非ステロイド性MRAフィネレノンが心臓・腎臓・代謝(CKM)スペクトル全体にわたってAF/AFLの発症に及ぼす影響を評価しました。
方法: 本解析では、慢性腎臓病および2型糖尿病を対象とした2つの試験(FIDELIO-DKD試験およびFIGARO-DKD試験)と、軽度低下または維持された駆出率を有する心不全(HF)を対象とした1つの試験(FINEARTS-HF試験)の参加者を統合した。患者はフィネレノンまたはプラセボに1:1の割合でランダムに割り付けられた。新規発症AF/AFLは、全試験において盲検化された臨床イベント委員会によって前向きに判定された。新規発症AF/AFLのリスクは、地域および試験別に層別化したCox回帰モデルを用いて評価した。
結果: 試験登録時にAF/AFLを発症していなかった14,581名の患者のうち、追跡期間中に631名(4.3%)がAF/AFLを新規発症した。AF/AFL新規発症の予測因子としては、高齢、HFの既往、高BMI、居住地域、尿中アルブミン/クレアチニン比の高値などが挙げられた。中央値2.9年の追跡期間中、フィネレノン投与群では286名(3.9%)、プラセボ投与群では345名(4.7%)にAF/AFLが新規発症した(HR 0.83、95%信頼区間 0.71-0.97、P=0.019)。リスク低減効果は、CKMの病態数(交互作用のP=0.87)および試験間で一貫して認められた(交互作用のP=0.57)。 AF/AFLを新規発症した参加者は、その後の心血管死、HFによる入院、および腎臓の有害事象のリスクが有意に高かった。
結論: 非ステロイド性MRAフィネレノンは、心臓・腎臓・代謝スペクトル全体にわたって心房細動/心房粗動(AF/AFL)の新規発症リスクを軽減しました。
キーワード: 心臓・腎臓・代謝、フィネレノン、心不全、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬。
引用文献
Finerenone Reduces New-Onset Atrial Fibrillation Across the Spectrum of Cardio-Kidney-Metabolic Syndrome: The FINE-HEART Pooled Analysis
Maria A Pabon et al. PMID: 40306837 DOI: 10.1016/j.jacc.2025.03.429
J Am Coll Cardiol. 2025 May 6;85(17):1649-1660. doi: 10.1016/j.jacc.2025.03.429. Epub 2025 Mar 17.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40306837/
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