患者予後に対するエンパグリフロジン vs. ダパグリフロジン
エンパグリフロジンとダパグリフロジンは心血管リスクの高い2型糖尿病患者において心血管への有用性が証明されています。しかし、2剤間の比較有効性は不明です。
そこで今回は、2型糖尿病患者に対するエンパグリフロジンとダパグリフロジンの有効性について検証した標的試験エミュレート研究の結果をご紹介します。
本研究では、2014年から2020年にかけて、標準治療に加えてエンパグリフロジンとダパグリフロジンの投与を開始した2型糖尿病患者を比較する仮想的な標的試験をエミュレートするために、デンマークの全国的な人口ベースの健康登録が用いられました。
本研究のアウトカムは心筋梗塞、虚血性脳卒中、心不全(HF)、心血管死(主要有害心血管イベント)の複合でした。
研究参加者は、転帰、転出、死亡が発生するまで、開始後6年経過するまで、または2021年12月31日のいずれか早い日まで追跡されました。ロジスティック回帰により57の潜在的交絡因子がコントロールされ、治療の逆確率と打ち切りの重みが算出されました。Intention-to-treat解析では、6年調整リスク、リスク差、非心血管死の競合リスクを考慮したリスク比が推定されました。解析はアテローム性動脈硬化性心血管疾患とHFの併存により層別化されました。二次解析としてper-protocolデザインが行われました。
試験結果から明らかになったことは?
対象はエンパグリフロジン36,670例、ダパグリフロジン20,606例でした。
エンパグリフロジン開始群 | ダパグリフロジン開始群 | リスク差 (95%CI) | リスク比 (95%CI) | |
主要有害心血管イベントの調整後6年絶対リスク | 10.0% | 10.0% | リスク差 0.0% (-0.9% ~ 1.0%) | リスク比 1.00 (0.91~1.11) |
Intention-to-treat解析において、主要有害心血管イベントの調整後6年絶対リスクはエンパグリフロジン開始群とダパグリフロジン開始群で差がありませんでした(10.0% vs. 10.0%、リスク差 0.0%、95%CI -0.9% ~ 1.0%、リスク比 1.00、95%CI 0.91~1.11)。
(エンパグリフロジン vs. ダパグリフロジン) | リスクを有する人 | 有さない人 |
アテローム性動脈硬化性心血管疾患 | リスク差 -2.3%(95%CI -8.2% ~ 3.5%) リスク比 0.92(95%CI 0.74~1.14) | リスク差 0.3%(95%CI -0.6%~1.2%) リスク比 1.04(95%CI 0.93~1.16) |
心不全(HF) | リスク差 1.1%(95%CI -6.5% ~ 8.6%) リスク比 1.04(95%CI 0.79~1.37) | リスク差 -0.1%(95%CI -1.0% ~ 0.8%) リスク比 0.99(95%CI 0.90~1.09) |
この所見は、アテローム性動脈硬化性心血管疾患を有する人(リスク差 -2.3%、95%CI -8.2% ~ 3.5%;リスク比 0.92、95%CI 0.74~1.14)と有さない人(リスク差 0.3%、95%CI -0.6%~1.2%;リスク比 1.04、95%CI 0.93~1.16)、HFを有する人(リスク差 1.1%、95%CI -6.5% ~ 8.6%;リスク比 1.04、95%CI 0.79~1.37)と有さない人(リスク差 -0.1%、95%CI -1.0% ~ 0.8%;リスク比 0.99、95%CI 0.90~1.09)において一致していました。
エンパグリフロジン開始群 | ダパグリフロジン開始群 | リスク差 (95%CI) | リスク比 (95%CI) | |
主要有害心血管イベントの調整後6年絶対リスク | 9.1% | 8.8% | リスク差 0.2% (-2.1% 〜 2.5%) | リスク比 1.03 (0.80〜1.32) |
主要有害心血管イベントの6年リスクもper-protocol解析では差がありませんでした(9.1% vs. 8.8%;リスク差 0.2%、95%CI -2.1% 〜 2.5%;リスク比 1.03、95%CI 0.80〜1.32)。
コメント
SGLT-2阻害薬であるエンパグリフロジン、ダパグリフロジンは2型糖尿病患者における心血管リスクを低減することが示されていますが、薬剤間の比較検証は充分に行われていません。
さて、デンマークの人口データベースを利用した標的試験模倣研究の結果、エンパグリフロジン投与開始群とダパグリフロジン投与開始群では、アテローム性動脈硬化性心血管疾患やHFの併存有無にかかわらず、治療歴のある成人2型糖尿病患者における6年間の心血管アウトカム(心筋梗塞、虚血性脳卒中、心不全 HF、心血管死)に差はありませんでした。
個々の薬剤の心血管アウトカム試験では、エンパグリフロジンの方が有益である可能性がありましたが、実臨床における比較では差がないようです。どちらを使用するかは患者背景やコストなどを踏まえつつ、意思決定していくとよいかもしれません。
さらなる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ デンマークの人口データベースを利用した標的試験模倣研究の結果、エンパグリフロジン投与開始群とダパグリフロジン投与開始群では、アテローム性動脈硬化性心血管疾患やHFの併存有無にかかわらず、治療歴のある成人2型糖尿病患者における6年間の心血管アウトカムに差はなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:エンパグリフロジンとダパグリフロジンは心血管リスクの高い2型糖尿病患者において心血管への有用性が証明されているが、その比較有効性は不明である。
方法:本研究では、2014年から2020年にかけて、標準治療に加えてエンパグリフロジンとダパグリフロジンの投与を開始した2型糖尿病患者を比較する仮想的な標的試験をエミュレートするために、デンマークの全国的な人口ベースの健康登録を用いた。
アウトカムは心筋梗塞、虚血性脳卒中、心不全(HF)、心血管死(主要有害心血管イベント)の複合とした。
参加者は、転帰、転出、死亡が発生するまで、開始後6年経過するまで、または2021年12月31日のいずれか早い日まで追跡された。ロジスティック回帰を用いて57の潜在的交絡因子をコントロールし、治療の逆確率と打ち切りの重みを算出した。
Intention-to-treat解析では、6年調整リスク、リスク差、非心血管死の競合リスクを考慮したリスク比が推定された。解析はアテローム性動脈硬化性心血管疾患とHFの併存により層別化した。二次解析としてper-protocolデザインが行われた。
結果:対象はエンパグリフロジン36,670例、ダパグリフロジン20,606例であった。Intention-to-treat解析において、主要有害心血管イベントの調整後6年絶対リスクはエンパグリフロジン開始群とダパグリフロジン開始群で差がなかった(10.0% vs. 10.0%、リスク差 0.0%、95%CI -0.9% ~ 1.0%、リスク比 1.00、95%CI 0.91~1.11)。この所見は、アテローム性動脈硬化性心血管疾患を有する人(リスク差 -2.3%、95%CI -8.2% ~ 3.5%;リスク比 0.92、95%CI 0.74~1.14)とアテローム性動脈硬化性心血管疾患を有さない人(リスク差 0.3%、95%CI -0.6%~1.2%;リスク比 1.04、95%CI 0.93~1.16)、HFのある人(リスク差 1.1%、95%CI -6.5% ~ 8.6%;リスク比 1.04、95%CI 0.79~1.37)とない人(リスク差 -0.1%、95%CI -1.0% ~ 0.8%;リスク比 0.99、95%CI 0.90~1.09)において一致していた。主要有害心血管イベントの6年リスクもper-protocol解析では差がなかった(9.1% vs. 8.8%;リスク差 0.2%、95%CI -2.1% 〜 2.5%;リスク比 1.03、95%CI 0.80〜1.32)。
結論:エンパグリフロジン投与開始群とダパグリフロジン投与開始群では、アテローム性動脈硬化性心血管疾患やHFの併存有無にかかわらず、治療歴のある成人2型糖尿病患者における6年間の心血管アウトカムに差はなかった。
キーワード:心血管疾患、糖尿病、2型糖尿病、Na-グルコーストランスポーター2阻害薬
引用文献
Comparative Cardiovascular Effectiveness of Empagliflozin Versus Dapagliflozin in Adults With Treated Type 2 Diabetes: A Target Trial Emulation
Kasper Bonnesen et al. PMID: 39206550 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.124.068613
Circulation. 2024 Aug 29. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.124.068613. Online ahead of print.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39206550/
コメント