コロナ後遺症に対してもワクチン接種は有効なのか?
ワクチン接種はCOVID-19の重篤な症状を予防することが多くの研究結果から示されています。COVID-19罹患後状態(PCC)またはlong-COVIDの患者については、COVID-19ワクチン接種が症状の進展、免疫応答、ウイルスの持続に及ぼす影響について充分に検証されていません。
そこで今回は、PCC患者を対象にCOVID-19ワクチン接種を受ける前後のPCC症状数、罹患臓器系、心理的幸福スコアについて評価した前向き観察コホート研究の結果をご紹介します。同時に全身性炎症のバイオマーカーと血漿中サイトカイン/ケモカインレベルについても評価されました。SARS-CoV-2抗原の血漿中および細胞内レベル、血液中のSARS-CoV-2抗原に対する免疫反応性が測定されました。
試験結果から明らかになったことは?
ワクチン接種前 | ワクチン接種後 | |
PCC症状数 | 6.56±3.1 | 3.92±4.02 P<0.001 |
罹患臓器数 | 3.19±1. 04 | 1.89±1.12 P<0.001 |
WHO-5ウェルビーイング指数スコア | 42.67±22.76 | 56.15±22.83 P<0.001 |
COVID-19ワクチン接種は、PCC症状数(接種前:6.56±3.1 vs. 接種後:3.92±4.02;P<0.001)および罹患臓器数(接種前:3.19±1. 04 vs. 接種後:1.89±1.12;P<0.001)の減少、世界保健機関(WHO)-5ウェルビーイング指数スコアの増加(接種前:42.67±22.76 vs. 接種後:56.15±22.83;P<0.001)を示しました。
PCC患者はまた、COVID-19ワクチン接種後、sCD40L、GRO-⍺、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)-1⍺、インターロイキン(IL)-12p40、Gコロニー刺激因子(CSF)、M-CSF、IL-1β、幹細胞因子(SCF)を含む、いくつかの炎症性血漿サイトカイン/ケモカインのレベルが有意に減少しました。PCC参加者はSARS-CoV-2に対して一定レベルの免疫反応性を示し、それはワクチン接種によって増強されました。
SARS-CoV-2のS1抗原は、ワクチン接種の有無にかかわらず、PCC参加者の血中、主に非古典的単球中に残存していました。
コメント
SARS-CoV-2感染者における、感染後のCOVID-19ワクチン接種の有効性が報告されています。具体的には、重症化リスクや再感染リスクの低減、症状悪化リスクの低減、新たなコロナ後遺症の発症予防です。しかし、いずれも検証中であり、再現性の確認も含めて更なる検証が求められています。
さて、前向きコホート研究の結果、COVID-19後遺症症状に関連した炎症性反応の高さが示され、全身性炎症を減少させることによってPCC症状を緩和するワクチン接種の役割の可能性が示唆されました。特徴的なのは、生化学検査などの客観的な評価も実施していることです。ワクチン接種により、いくつかの炎症性血漿サイトカイン/ケモカインのレベルが有意に減少しています。
COVID-19患者においては、サイトカインストームが引き起こされ、これが多臓器不全、各症状や後遺症リスクに関与していることが報告されています。サイトカインストームは特にデルタ株で報告されており、重症化リスクや多臓器不全リスクの増加を引き起こしているものと考えられています。オミクロン株が優勢になったことで、デルタ株と比較してリスク減少が示されているものの、依然として高齢者や免疫機能不全者など重症化リスクの高い患者においては、モニタリングが求められる重要な項目の一つです。ワクチン接種により、上記の炎症レベルを低下させ、重症化などのリスク低減が見込まれることから、COVID-19罹患後であってもワクチン接種が求められるものと考えられます。
ただし、本研究の症例数は83であり、さらに単施設での検証結果です。再現性の確認も含め、ほかの国や地域においても同様の結果が示されるか、更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅
根拠となった試験の抄録
背景:ワクチン接種はCOVID-19の重篤な症状を予防する。COVID-19罹患後状態(PCC)またはlong-COVIDの患者については、COVID-19ワクチン接種が症状の進展、免疫応答、ウイルスの持続に及ぼす影響は不明である。
方法:この前向き観察コホート研究において、PCC患者がCOVID-19ワクチン接種を受ける前後のPCC症状数、罹患臓器系、心理的幸福スコアを評価した。同時に全身性炎症のバイオマーカーと血漿中サイトカイン/ケモカインレベルを評価した。SARS-CoV-2抗原の血漿中および細胞内レベル、血液中のSARS-CoV-2抗原に対する免疫反応性を測定した。
結果:COVID-19ワクチン接種は、PCC症状数(接種前:6.56±3.1 vs. 接種後:3.92±4.02;P<0.001)および罹患臓器数(接種前:3.19±1. 04 vs. 接種後:1.89±1.12;P<0.001)の減少、世界保健機関(WHO)-5ウェルビーイング指数スコアの増加(接種前:42.67±22.76 vs. 接種後:56.15±22.83;P<0.001)がみられた。PCC患者はまた、COVID-19ワクチン接種後、sCD40L、GRO-⍺、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)-1⍺、インターロイキン(IL)-12p40、Gコロニー刺激因子(CSF)、M-CSF、IL-1β、幹細胞因子(SCF)を含む、いくつかの炎症性血漿サイトカイン/ケモカインのレベルが有意に減少した。PCC参加者はSARS-CoV-2に対して一定レベルの免疫反応性を示し、それはワクチン接種によって増強された。SARS-CoV-2のS1抗原は、ワクチン接種の有無にかかわらず、PCC参加者の血中、主に非古典的単球中に残存していた。
結論:本研究は、PCC症状に関連した炎症性反応の高さを示し、全身性炎症を減少させることによってPCC症状を緩和するワクチン接種の役割の可能性を提示した。また、ワクチン接種とは無関係にウイルス産物の持続性が観察され、これが非古典的単球を介して炎症の持続に関与している可能性がある。
キーワード:炎症;ロングCOVID;COVID-19後遺症(Post-COVID-19 Conditions, PCC);COVID-19急性感染後症候群(Post-acute sequelae of COVID-19, PASC);ワクチン接種;ウイルスの持続性。
引用文献
Vaccination after developing long COVID: Impact on clinical presentation, viral persistence, and immune responses
Maryam Nayyerabadi et al. PMID: 37717649 DOI: 10.1016/j.ijid.2023.09.006
Int J Infect Dis. 2023 Nov:136:136-145. doi: 10.1016/j.ijid.2023.09.006. Epub 2023 Sep 17.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37717649/
コメント