キネシオテーピング手法による効果比較
手根管症候群(Carpal Tunnel Syndrome, CTS)は、手首の手根管内にある正中神経が圧迫されることによって引き起こされる症状のことです。この神経圧迫により、手や指にしびれや痛み、感覚障害、筋力低下などが生じます。安静にしたり、手首や前腕のストレッチやエクササイズを行うことで、筋肉の緊張をほぐし、症状の改善が図られます。
キネシオテープは、弾力性があり、筋肉や関節のサポート、痛みの軽減、可動域の改善を目的とするテーピングテープです。通気性が良く、伸縮性があるため、自然な動きをサポートし、長時間の使用にも適しており、筋肉の疲労や関節の安定化、リハビリテーション、スポーツパフォーマンスの向上に利用されます。限定的ではあるものの、手根管症候群の治療やサポートに用いられていますが、そのテーピング手法については充分に検証されていません。
そこで今回は、手根管症候群(CTS)の治療において、エクササイズにI-テープとボタンホールのキネシオテーピング(KT)手技を追加した場合の有効性を比較することを目的に実施されたランダム化比較試験の結果をご紹介します。
(I-テープあるいはI-バンド)
(ボタンホール)
本研究は、前向きランダム化盲検比較試験でした。理学療法リハビリテーション外来クリニックで実施されました。試験参加者は、CTSと診断された患者計108人でした(N=108, 手首165本)。
介入は、ボタンホール法(Button hole technique Group, BG)、Iバンド法(I-band technique Group, IG)、エクササイズ(Exercises Group, EG)の計3群でした。
本試験の主要評価項目は、Visual analog scale (VAS)、Douleur Neuropathique 4 Questions (DN4)、Boston carpal tunnel syndrome questionnaire、Jamar dynamometerでした。正中感覚神経活動電位(SNAP)、複合筋活動電位(CMAP)、正中遠位感覚潜時(DSL)、正中遠位運動潜時(DML)、感覚伝導速度、運動伝導速度が記録されました。測定はベースライン時、3週目、12週目に行われました。
試験結果から明らかになったことは?
各群36例が組み入れられました。
ボタンホール法(BG)群とIバンド法(IG)群では、エクササイズ(EG)群と比較してVASスコアとDN4スコアに統計学的に有意な改善がみられました(P<0.05)。
IG群ではEG群と比較して、手の握力において統計学的に有意な改善がみられました(P<0.05)。
DMLレベルと運動伝導速度の有意な改善は、EGと比較してBGとIGで観察されました(P<0.05)。
感覚伝導速度はBG群で他の群と比較して有意な増加が認められました(P<0.05)。
コメント
手根管症候群に対しては、エクササイズ、薬物療法、手術などの方法が用いられます。エクササイズにキネシオテープを追加した場合の効果、テーピング手法による効果比較については充分に検証されていません。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、いずれのキネシオテーピング手技も、疼痛、機能性、症状の重症度、握力、電気生理学的観点から有効であることが示されました。特にボタンホール法は正中遠位感覚潜時、感覚伝導速度、複合筋活動電位振幅、正中感覚神経活動電位においてより有効でした。
小規模(かつ、おそらく単施設)での検証結果であることから、再現性の確認も含めて追試が求められます。また、抄録からは薬物療法や手術に移行した患者について明らかとなっていません。より長期間の検証において、患者転帰の変化に関する検証も求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、いずれのキネシオテーピング手技も、疼痛、機能性、症状の重症度、握力、電気生理学的観点から有効である。特にボタンホール法は正中遠位感覚潜時、感覚伝導速度、複合筋活動電位振幅、正中感覚神経活動電位においてより有効であった。
根拠となった試験の抄録
目的:手根管症候群(CTS)の治療において、エクササイズにI-テープとボタンホールのキネシオテーピング(KT)手技を追加した場合の有効性を比較すること。
試験デザイン:前向きランダム化盲検比較試験。
試験設定:理学療法リハビリテーション外来クリニック。
試験参加者: CTSと診断された患者計108人(手首165本)(N=108)。
介入:ボタンホール法(Button hole technique Group, BG)、Iバンド法(I-band technique Group, IG)、エクササイズ(Exercises Group, EG)。
主要評価項目:Visual analog scale (VAS)、Douleur Neuropathique 4 Questions (DN4)、Boston carpal tunnel syndrome questionnaire、Jamar dynamometerを用いた。正中感覚神経活動電位(SNAP)、複合筋活動電位(CMAP)、正中遠位感覚潜時(DSL)、正中遠位運動潜時(DML)、感覚伝導速度、運動伝導速度を記録した。測定はベースライン時、3週目、12週目に行われた。
結果:各群36例。BG群とIG群では、EG群と比較してVASスコアとDN4スコアに統計学的に有意な改善がみられた(P<0.05)。IG群ではEG群と比較して、手の握力において統計学的に有意な改善がみられた(P<0.05)。DMLレベルと運動伝導速度の有意な改善は、EGと比較してBGとIGで観察された(P<0.05)。感覚伝導速度はBG群で他の群と比較して有意な増加が認められた(P<0.05)。
結論:いずれのキネシオテーピング手技も、疼痛、機能性、症状の重症度、握力、電気生理学的観点から有効である。特にボタンホール法は正中遠位感覚潜時、感覚伝導速度、複合筋活動電位振幅、正中感覚神経活動電位においてより有効であった。
キーワード:手根管症候群、筋電図、陥入神経障害、キネシオテープ、正中神経、テーピング
引用文献
Comparison of the Effectiveness of 2 Different Kinesio Taping Techniques Added to Exercises in the Treatment of Carpal Tunnel Syndrome: Randomized Controlled Trial, Double-Blind, Parallel Groups
Muhammed-Azad Sahin et al. PMID: 38851555 DOI: 10.1016/j.apmr.2024.05.023
Arch Phys Med Rehabil. 2024 Jun 6:S0003-9993(24)01044-X. doi: 10.1016/j.apmr.2024.05.023. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38851555/
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