PCI実施のAMI患者におけるβ遮断薬の使用期間はどのくらいが良いのか?
急性心筋梗塞後の慢性心不全患者において、β遮断薬の長期的使用の有効性・安全性が報告されています。一方、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた急性心筋梗塞(AMI)患者におけるβ遮断薬の長期維持療法の有用性は充分に確立されていません。
そこで今回は、AMI後にPCIを受けた患者を対象にβ遮断薬の長期的使用の効果について検証したレジストリ研究の結果をご紹介します。
本試験では、韓国の全国的なレジストリを用いて、PCIを受けたAMI患者のうち、退院時にβ遮断薬を投与され、PCI後3ヵ月間にわたり死亡または心血管イベントを有さない計7,159例が解析対象となりました。
患者はβ遮断薬の維持期間によって次の4群に分けられました:1)<12ヵ月、2)12ヵ月〜<24ヵ月、3)24ヵ月〜<36ヵ月、4)36ヵ月≦。
主要アウトカムは全死亡、MI再発、心不全、不安定狭心症による入院の複合でした。
試験結果から明らかになったことは?
平均5.0±2.8年の追跡期間中、AMI患者の半数以上(52.5%)がPCI後3年を超えてβ遮断薬療法を継続しました。
β遮断薬の継続期間 | 主要アウトカムのハザード比 HR (95%CI) |
<12ヵ月 | HR 2.19(1.95〜2.46) |
12ヵ月~<24ヵ月 | HR 2.10(1.81〜2.43) |
24~36ヵ月未満 | HR 1.68(1.45〜1.94) |
36ヵ月≦ | Reference |
傾向スコアマッチングと層別化による傾向スコアの限界平均加重の結果、β遮断薬の継続期間と主要転帰のリスクとの間に段階的逆相関が認められました(<12ヵ月:ハザード比[HR] 2.19、95%CI 1.95〜2.46; 12ヵ月~<24ヵ月:HR 2.10、95%CI 1.81〜2.43; 24~36ヵ月未満:HR 1.68、95%CI 1.45〜1.94;Reference 36ヵ月≦)。
36ヵ月未満のβ遮断薬使用 vs. 36ヵ月以上 | |
主要アウトカム (全死亡、MI再発、心不全、不安定狭心症による入院の複合) | 補正後HR 1.59 (95%CI 1.37〜1.85) |
全死亡 | 補正後HR 1.88 (95%CI 1.56〜2.26) |
MI再発 | 補正後HR 1.57 (95%CI 1.09〜2.25) |
心不全 | 補正後HR 1.95 (95%CI 1.15〜3.30) |
不安定狭心症による入院 | 補正後HR 0.92 (95%CI 0.68〜1.23) |
心死亡 | 補正後HR 2.25 (95%CI 1.82〜2.79) |
3年間のランドマーク解析では、36ヵ月以上のβ遮断薬使用と比較して、36ヵ月未満のβ遮断薬使用は主要転帰のリスク上昇と関連していた(補正後HR 1.59、95%CI 1.37〜1.85)。
コメント
β遮断薬の長期維持療法の有効性については、PCIが主流となる以前に検証された研究結果で示されています。しかし、PCI後の維持療法におけるβ遮断薬の長期的な有効性・安全性の評価は充分に行われていません。
さて、韓国のレジストリベースの研究の結果、PCI後に安定化したAMI患者において、β遮断薬の維持療法が36ヵ月以上であることは、より良好な臨床転帰と関連していました。これらの所見は、AMI患者がPCI後36ヵ月以上β遮断薬療法を維持した場合、より良好な予後が期待できることを示唆しています。ただし、主要アウトカムは全死亡、MI再発、心不全、不安定狭心症による入院の複合であり、不安定狭心症による入院については差がありませんでした。一方、全死亡、MI再発、心不全、心死亡については、36ヵ月以上β遮断薬を使用することで発生リスクを低減できることが示唆されました。
あくまでも相関関係が示されたに過ぎませんが、急性心筋梗塞後にPCIを受けた患者においては、β遮断薬による治療を36ヵ月以上おこなった方が良さそうです。
続報に期待。
✅まとめ✅ PCI後に安定化したAMI患者において、β遮断薬の維持療法が長いこと、特に36ヵ月以上であることは、より良好な臨床転帰と関連していた。これらの所見は、AMI患者がPCI後36ヵ月以上β遮断薬療法を維持した場合、より良好な予後が期待できることを示唆しているのかもしれない。
根拠となった試験の抄録
背景:経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた急性心筋梗塞(AMI)患者におけるβ遮断薬(BB)長期維持療法の有用性は充分に確立されていない。
方法:韓国の全国的なレジストリを用いて、PCIを受けたAMI患者のうち、退院時にBBを投与され、PCI後3ヵ月間死亡または心血管イベントがなかった計7,159例を解析の対象とした。患者はBBの維持期間によって4群に分けられた:<12ヵ月、12ヵ月〜<24ヵ月、24ヵ月〜<36ヵ月、36ヵ月≦。主要アウトカムは全死亡、MI再発、心不全、不安定狭心症による入院の複合であった。
結果:平均5.0±2.8年の追跡期間中、AMI患者の半数以上(52.5%)がPCI後3年を超えてBB療法を継続した。傾向スコアマッチングと層別化による傾向スコアの限界平均加重の結果、BBの継続期間と主要転帰のリスクとの間に段階的逆相関が認められた(<12ヵ月:ハザード比[HR] 2.19、95%CI 1.95〜2.46; 12ヵ月~<24ヵ月:HR 2.10、95%CI 1.81〜2.43; 24~36ヵ月未満:HR 1.68、95%CI 1.45〜1.94;Reference 36ヵ月≦)。3年間のランドマーク解析では、36ヵ月以上のBB使用と比較して、36ヵ月未満のBB使用は主要転帰のリスク上昇と関連していた(補正後HR 1.59、95%CI 1.37〜1.85)。
結論:PCI後に安定化したAMI患者において、β遮断薬の維持療法が長いこと、特に36ヵ月以上であることは、より良好な臨床転帰と関連していた。これらの所見は、AMI患者がPCI後36ヵ月以上β遮断薬療法を維持した場合、より良好な予後が期待できることを示唆しているのかもしれない。
試験登録:https://www.clinicaltrials.gov, NCT02806102
キーワード:急性心筋梗塞、β遮断薬、臨床転帰、経皮的冠動脈インターベンション
引用文献
Comparative Effectiveness of Long-Term Maintenance Beta-Blocker Therapy After Acute Myocardial Infarction in Stable, Optimally Treated Patients Undergoing Percutaneous Coronary Intervention
Myunhee Lee et al. PMID: 37493020 DOI: 10.1161/JAHA.122.028976
J Am Heart Assoc. 2023 Aug;12(15):e028976. doi: 10.1161/JAHA.122.028976. Epub 2023 Jul 26.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37493020/
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