血糖値の急激な低下と糖尿病網膜症の早期悪化には関連性がありますか?
糖尿病治療において、血糖値の急激な低下による糖尿病網膜症の早期悪化(Early worsening of diabetic retinopathy, EWDR)が懸念されています。しかし、充分に検討されていません。
そこで今回は、プライマリ・ケアで受診する糖尿病網膜症患者の大多数を占める、軽度または中等度の非増殖性DR(nonproliferative diabetic retinopathy, NPDR)を有する2型糖尿病患者において、血糖値の急速低下とEWDRとの関連性について検証した試験の結果をご紹介します。
本研究は、2型糖尿病で軽度または中等度のNPDR既往のある対象者を対象としたレトロスペクティブネステッド症例対照研究です。SIDIAP(Sistema d’informació pel Desenvolupament de la Recerca a Atenció Primària)データベースを用いて、EWDR患者1,150例とマッチさせた対照者(EWDRのないDR)1,150例を抽出しました。
主な分析変数は、過去12ヵ月間のHbA1cの減少の大きさでした。HbA1cの減少は、急速(12ヵ月未満で1.5%以上減少)または非常に急速(6ヵ月未満で2%以上)に分類されました。
試験結果から明らかになったことは?
HbA1c低下率に有意差はみられませんでした(0.13±1.21 vs. 0.21±1.18;P=0.12)。HbA1cの低下は、未調整の解析でも、主な交絡変数である糖尿病罹病期間、ベースラインのHbA1c、高血圧の有無、抗糖尿病薬を含めた調整後の統計モデルでも、DRの悪化との有意な関連を示しませんでした。さらに、ベースラインHbA1cによる層別化を行ったところ、HbA1cが高値の患者ほどEWDRのリスクが高いという結果は得られませんでした。
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基礎研究の結果では、糖尿病の網膜において低血糖により低酸素環境になると、転写因子である低酸素誘導因子1α(HIF-1α)発現が増加し、血糖に対する正常な生理学的反応が損なわれ、網膜症を悪化させることが報告されています。しかし、実臨床における影響については充分に検討されていません。
さて、後向きコホート内症例対照研究の結果、HbA1cの急速な低下は軽度〜中等度の非増殖性糖尿病網膜症の進行とは関連しないことが示唆されました。
ただし、本試験はスペインのデータベースを用いていることから、他の国や地域でも同様の結果が得られるのかについては不明です。また試験デザインから、あくまでも相関関係が示されたに過ぎません。追加の検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ HbA1cの急速な低下は軽度〜中等度の非増殖性糖尿病網膜症の進行とは関連しないことが示唆された。
根拠となった試験の抄録
目的:糖尿病治療において、血糖値の急激な低下による糖尿病網膜症の早期悪化(EWDR)が懸念されている。本研究の目的は、プライマリ・ケアで受診する糖尿病網膜症患者の大多数を占める、軽度または中等度の非増殖性DR(NPDR)を有する2型糖尿病患者において、このことが重要な問題であるかどうかを評価することである。
研究デザインと方法:本研究は、2型糖尿病で軽度または中等度のNPDR既往のある対象者を対象としたレトロスペクティブネステッド症例対照研究である。SIDIAP(Sistema d’informació pel Desenvolupament de la Recerca a Atenció Primària)データベースを用いて、EWDR患者1,150例とマッチさせた対照者(EWDRのないDR)1,150例を抽出した。主な分析変数は、過去12ヵ月間のHbA1cの減少の大きさであった。HbA1cの減少は、急速(12ヵ月未満で1.5%以上減少)または非常に急速(6ヵ月未満で2%以上)に分類された。
結果:HbA1c低下率に有意差はみられなかった(0.13±1.21 vs. 0.21±1.18;P=0.12)。HbA1cの低下は、未調整の解析でも、主な交絡変数である糖尿病罹病期間、ベースラインのHbA1c、高血圧の有無、抗糖尿病薬を含めた調整後の統計モデルでも、DRの悪化との有意な関連を示さなかった。さらに、ベースラインHbA1cによる層別化を行ったところ、HbA1cが高値の患者ほどEWDRのリスクが高いという結果は得られなかった。
結論:HbA1cの急速な低下は軽度〜中等度の非増殖性糖尿病網膜症の進行とは関連しないことが示唆された。
引用文献
Rapid Reduction of HbA1c and Early Worsening of Diabetic Retinopathy: A Real-World Population-Based Study in Subjects With Type 2 Diabetes
Rafael Simó et al. PMID: 37428631 DOI: 10.2337/dc22-2521
Diabetes Care. 2023 Jul 10;dc222521. doi: 10.2337/dc22-2521. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37428631/
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