CYP2B6遺伝子多型がクロピドグレルに及ぼす影響はどのくらいか?
In vitro試験において、クロピドグレルの薬物代謝酵素としてCYP2C19、1A2、2B6、2C9、そして3A4/5が関与していると報告されています(Drug Metab Rev 37 (2), 99-, 2005)。CYP2C19遺伝子多形に関する報告は多いものの、クロピドグレルによる心血管イベント発生の予防効果への影響について一貫した結果は示されていません。
一方、CYP2B6(チトクロームP450サブファミリーIIBポリペプチド6)は、CYP2B6遺伝子によってコードされ、クロピドグレル代謝に関わる重要な酵素であるものの、実臨床におけるクロピドグレルへの影響についてはほとんど報告されていません。
そこで今回は、軽症脳卒中や一過性脳虚血発作における脳卒中二次予防のためのクロピドグレルの有効性とCYP2B6多型との関連性について検証したCHANCE試験の事後解析の結果をご紹介します。
本試験は、2009年10月から2012年7月にかけて、中国で行われたアスピリン+クロピドグレルとアスピリン単独を比較したCHANCE(Clopidogrel in High-Risk Patients With Acute Nondisabling Cerebrovascular Events)ランダム化比較試験に基づいて、軽度な脳卒中または一過性虚血発作患者に対するCYP2B6多型の役割やクロピドグレルの有効性を検討しました。
合計2,853例の患者が、CYP2B6-516G>T、rs3745274およびCYP2B6-1456 T>C、rs2054675の遺伝子型決定に成功しました。
本試験の有効性と安全性の主要アウトカムは、新規脳卒中と90日以内のあらゆる出血でした。
試験結果から明らかになったことは?
2,853例のうち、32.8%がCYP2B6-516 GT/TTまたは-1456 TC/CC遺伝子型のキャリア(保有者)であることが確認されました。
90日間の新規脳卒中発症率 | アスピリン+クロピドグレル群 | アスピリン単独群 | 調整ハザード比 (95%CI) |
CYP2B6多型のキャリア | 9.7% | 12.2% | 0.80 (0.54〜1.18) |
CYP2B6多型の非キャリア | 7.1% | 11.3% | 0.61 (0.45〜0.83) 交互作用のP=0.29 |
アスピリン+クロピドグレル群およびアスピリン単独群における90日間の新規脳卒中発症率は、非キャリアではそれぞれ7.1% vs. 11.3%、キャリアではそれぞれ9.7% vs. 12.2%でした。
アスピリン+クロピドグレルとアスピリン単剤の有効性は、キャリア(調整ハザード比 0.80、95%CI 0.54〜1.18)と比較して非キャリアで有意差は認められませんでした(調整ハザード比 0.61、95%CI 0.45〜0.83、交互作用のP=0.29)。
90日間の全出血の発生率 | アスピリン+クロピドグレル群 | アスピリン単独群 | 調整ハザード比 (95%CI) |
CYP2B6多型のキャリア | 1.9%(9件) | 0.7%(3件) | 1.11 (0.59〜2.09) |
CYP2B6多型の非キャリア | 2.2%(21件) | 1.9%(18件) | 3.23 (0.86〜12.12) |
アスピリン+クロピドグレル群およびアスピリン単独群における90日間の何らかの出血の発生率(n=51)は、非キャリアでは2.2%(21件) vs. 1.9%(18件)(調整ハザード比 1.11、95%CI 0.59〜2.09)、キャリアでは1.9%(9件) vs. 0.7%(3件)(調整ハザード比 3.23、95%CI 0.86〜12.12)でした。1年間の追跡調査でも同様の結果が観察されました。
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CYP2B6の発現量にはかなりの個人差があることが報告されており、これは遺伝子多型が示されていることになります。CYP2B6の遺伝子多型は50種類以上あることが知られており、最も多いのはCYP2B6*6、日本人の16.4%に存在することが報告されています(PMID: 12242601)。一般にCYP2B6*6(c.516G≧T および c.785A≧G)を有する人では、その酵素活性が低下しますが、使用する薬剤(基質)によっては活性が上昇することもあることが報告されています。
クロピドグレルの代謝には多くの代謝酵素が関与することが報告されており、CYP2C19、1A2、2B6、2C9、そして3A4/5が挙げられます。
さて、CHANCE試験の事後解析において、CYP2B6-516 GT/TTまたは-1456 TC/CC遺伝子型のキャリアと非キャリアにおいて、アスピリンとクロピドグレルを併用した場合の有効性に有意差は認められませんでした。
事後解析の結果であるため、ランダム化比較試験あるいはコホート研究のエビデンス集積が待たれるところではありますが、CYP2C19遺伝子多型ほどの影響はないのかもしれません。
続報に期待。
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