炎症とコレステロールどちらがより適した患者予後の予測因子となりうるのか?
炎症と高脂血症(脂質異常症)は共にアテローム血栓症に寄与しています。スタチンによる集中治療を受けると、将来の心血管イベントリスクに対する炎症と高脂血症の相対的な寄与が変化する可能性があり、これは心血管治療薬の補助的な選択に影響を与えます。しかし、炎症とLDL-コレステロールのどちらが、より患者予後に影響しているのかについては明らかとなっていません。
そこで今回は、スタチン治療を受けている患者において、主要有害心血管イベント、心血管死、全死亡のリスクの決定因子としての高感度C反応性タンパク質(CRP)と低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)の相対的な重要性を評価した統合解析の結果をご紹介します。
本試験では、PROMINENT試験(NCT03071692)、REDUCE-IT試験(NCT01492361)、STRENGTH試験(NCT02104817)の参加者が解析対象であり、最新のスタチン投与を受けている動脈硬化性疾患患者またはそのリスクが高い患者の共同解析が実施されました。
ベースラインの高感度CRP(残存炎症リスクのバイオマーカー)およびベースラインのLDL-C(残存コレステロールリスクのバイオマーカー)の増加の四分位を、将来の主要有害心血管イベント、心血管死、および全死亡の予測因子として評価しました。
年齢、性別、BMI、喫煙状況、血圧、心血管疾患の既往、ランダム化治療グループの割り当てで調整した解析において、高感度CRPとLDL-Cの四分位で心血管イベントと死亡のハザード比(HR)が算出されました。
試験結果から明らかになったことは?
PROMINENT試験(n=9,988)、REDUCE-IT試験(n=8,179)、STRENGTH試験(n=13,078)から31,245例の患者が解析に含まれました。
ベースラインの高感度CRPとLDL-Cの観察範囲、および各バイオマーカーとその後の心血管イベント発生率との関係は、3件の試験でほぼ同様でした。
(四分位の最高 vs. 最低) | 主要有害心血管イベント | 心血管死亡率 | 全死亡 |
残存炎症性リスク | 調整HR 1.31 (95%CI 1.20〜1.43) p<0.0001 | 調整HR 2.68 (95%CI 2.22〜3.23) p<0.0001 | 調整HR 2.42 (95%CI 2.12〜2.77) p<0.0001 |
残存コレステロールリスク | 調整HR 1.07 (95%CI 0.98〜1.17) p=0.11 | 調整HR 1.27 (95%CI 1.07〜1.50) p=0.0086 | 調整HR 1.16 (95%CI 1.03〜1.32) p=0.025 |
残存炎症性リスクは、主要有害心血管イベント(高感度CRP最高四分位と高感度CRP最低四分位、調整HR 1.31、95%CI 1.20〜1.43; p<0.0001)、心血管死亡率(2.68、2.22〜3.23; p<0.0001)および全死亡(2.42、 2.12〜2.77; p<0.0001)の発生と有意に関連していました。
一方、残存コレステロールリスクの関係は、主要有害心血管イベント(LDL-C最高四分位とLDL-C最低四分位、調整HR 1.07、95%CI 0.98〜1.17、p=0.11)では中立、心血管死(1.27、1.07〜1.50; p=0.0086)と全死亡(1.16、1.03〜1.32; p=0.025)においては、炎症と比較して関連性は大きくありませんでした。
コメント
スタチンはLDLコレステロール低下作用の他、抗炎症作用など多面的な作用を有しています。しかし、スタチン投与中の患者予後において、LDLコレステロール低下作用と抗炎症作用のどちらが影響しているのかについては充分に検討されていません。
さて、大規模なランダム化比較試験3件の統合解析の結果、現代のスタチン投与を受けている患者において、高感度CRPで評価した炎症は、LDL-Cで評価したコレステロールよりも、将来の心血管イベントおよび死亡のリスクに対する強い予測因子であることが示されました。
ただし、本試験は3件の試験の統合結果であることから、患者背景によっては異なる結果が示される可能性は充分にあります。またスタチン療法に加えて抗炎症療法を併用することで今回と同様の結果が得られるのかについても不明です。
続報に期待。
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