COVID-19で入院した非重症患者に対する抗凝固戦略は治療投与と予防投与、どちらが良いのか?
COVID-19においてみられる凝固異常(COVID-19-associated coagulopathy: CAC)は、感染や炎症に端を発する炎症性サイトカインの産生、免疫血栓(immunothrombosis)形成、補体の活性化、血管内皮機能異常など、サイトカインストームと呼ばれる現象を引き起こします。
したがって、ある程度進行した病態では、凝固検査異常に関しても血小板減少、フィブリン分解産物の増加、プロトロンビン時間の延長などが共通して認められます。
このような背景から、凝固リスクの高いCOVID-19患者においては、抗凝固戦略として抗凝固薬の予防的投与が実施されます。一方、抗凝固療法の治療的投与に関する先行研究においては、相反する結果が報告されており、一貫した結果が得られていません。
そこで今回は、COVID-19の非重症患者における治療的投与としての抗凝固療法の安全性と有効性を明らかにすることを目的としたランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験では、集中治療室(ICU)での治療を必要としないCOVID-19で入院した患者を対象に、予防的投与のエノキサパリン、治療的投与のエノキサパリン、治療的投与のアピキサバンにランダムに割り付けました。
本試験の主要アウトカムは、予防的投与群と比較した治療的投与群の組み合わせで評価した、全死因死亡、ICUレベルオブケアの必要性、全身性血栓塞栓症、虚血性脳卒中の30日複合でした。
試験結果から明らかになったことは?
2020年8月26日から2022年9月19日の間に、COVID-19で入院した非重症患者3,398例が、10ヵ国76施設で予防的投与エノキサパリン(n=1,141)、治療的投与エノキサパリン(n=1,136)、治療的投与アピキサバン(n=1,121)にランダムに割り付けられました。
予防的投与群 | 治療的投与群 | ハザード比 HR(95%CI) | |
30日間の主要アウトカム (全死亡、ICUレベルオブケアの必要性、 全身性血栓塞栓症、虚血性脳卒中) | 13.2% | 11.3% | HR 0.85 (0.69~1.04) p=0.11 |
全死亡 | 7.0% | 4.9% | HR 0.70 (0.52~0.93) p=0.01 |
挿管が必要だった患者 | 8.4% | 6.4% | HR 0.75 (0.58~0.98) p=0.03 |
30日間の主要アウトカム(全死亡、ICUレベルオブケアの必要性、全身性血栓塞栓症、虚血性脳卒中)は、予防的投与群の13.2%、治療的投与併用群の11.3%で発生しました(HR 0.85、95%CI 0.69~1.04;p=0.11) 。
全死亡は、予防的投与エノキサパリン群の7.0%、治療的投与群の4.9%に起こり(HR 0.70、95%CI 0.52~0.93;p=0.01) 、挿管が必要だった患者はそれぞれ8.4%と6.4%にみられた(HR 0.75、95%CI 0.58~0.98;p=0.03)。結果は2つの治療用量群で同様であり、3群とも大出血はまれでした。
コメント
COVID-19はサイトカインストームに伴う凝固異常を引き起こすことから、抗凝固療法が行われます。しかし、抗凝固薬の治療的投与による患者予後への影響については充分に検討されていません。
さて、本試験結果によれば、COVID-19で入院した非重症患者において、30日間の主要複合転帰は、抗凝固療法の予防的投与と比較して治療的投与では有意に低下しませんでした。治療的抗凝固療法を実施した患者では、挿管を必要とした患者や死亡した患者は少なかったものの、統計的に有意な差はありませんでした。
抗凝固療法の予防的投与、治療的投与のどちらが良いのか?というより、凝固リスクなどの患者の背景因子や病状に合わせた治療戦略が求められるのではないでしょうか。
続報に期待。
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