心房細動や脳卒中の既往のない患者における左房の機械的機能障害の評価は虚血性脳卒中リスクを予測できますか?(前向きコホート研究; ARIC試験; Ann Intern Med. 2022)

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左房の機械的機能障害の評価は虚血性脳卒中リスク予測に役立つのか?

左房機能には左室収縮期に肺静脈から血流を受けるReservoir機能、左室拡張早期に左房から左室へ血液が移動するConduit機能、左室拡張末期に心房収縮により左房内血液を押し出すContractile機能の3つが存在します。

心房ミオパチー(左房の機能と大きさの変化によって特徴づけられる)は、心房細動(AF)や心臓血栓塞栓症に先行し、亢進する可能性がありますが、心房細動や脳卒中の既往のない集団において、左心房の機能や大きさを解析することで虚血性脳卒中の予知が可能になるかどうかは不明です。

そこで今回は、心エコーによる左房機能(reservoir、conduit、contractile strain)および左房サイズ(左房容積指数)と虚血性脳卒中の関連性を評価し、これらの指標がCHA2DS2-VAScスコア変数によって得られる脳卒中予測を改善できるかどうかを判断するために実施された前向きコホート研究であるARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)試験の結果をご紹介します。

本試験の参加者は脳卒中や心房細動の既往のないARIC参加者4,917例でした。虚血性脳卒中イベント(2011年~2019年)は医師により判定されました。左房の歪みはスペックルトラック心エコー(speckle-tracking echocardiography)で測定されました。

試験結果から明らかになったことは?

虚血性脳卒中の累積発生率
左心房reservoir strain2.99%(95%CI 1.89%~4.09%
左心房conduit strain3.18%(95%CI 2.14%~4.22%
左心房contractile strain2.15%(95%CI 1.09%~3.21%
重症左房拡大1.99%(95%CI 0.23%~3.75%

5年間で、左心房reservoir、conduit、contractile strainの最低五分位における虚血性脳卒中の累積発生率はそれぞれ2.99%(95%CI 1.89%~4.09%)、3.18%(CI 2.14%~4.22%)、2.15%(CI 1.09%~3.21%)、重症左房拡大は1.99%(CI 0.23%~3.75%)でした。

赤池情報量規準(AIIC)に基づくと、左心房reservoir strainとCHA2DS2-VASc変数が最良の予測モデルでした。CHA2DS2-VASc変数に左心房reservoir strainを加えることにより、5年後に脳卒中を発症した112例のうち11.6%が高リスクカテゴリーに、1.8%が低リスクカテゴリーに分類し直されました。脳卒中を発症しなかった4,805例においては、12.2%が低リスクに、12.7%が高リスクに分類されました。

決定曲線解析では、5年リスクを5%とした場合、1,000人あたり1.34人の純益が予測されました。

コメント

心房細動や脳卒中の既往のない集団において、左心房の機能や大きさを解析することで虚血性脳卒中の予知が可能になるかどうかは充分に検証されていません。

さて、本試験結果によれば、心房細動や脳卒中の既往のない患者において、CHA2DS2-VASc変数に左心房reservoir strainを追加すると、脳卒中予測を改善し、予測される純益(5年リスクを5%とした場合、1,000人あたり1.34人の純益)が得られるかもしれないことが示されました。

左心房の機能的・器質的変化が心房細動や脳卒中を引き起こすことは容易に予想がつきますが、これまで充分に検証されていませんでした。本試験結果の再検証と、より簡便に左心房の機能や大きさを測定できる方法の開発が求められます。

続報に期待。

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☑まとめ☑ 心房細動や脳卒中の既往のない患者において、CHA2DS2-VASc変数に左心房reservoir strainを追加すると、脳卒中予測を改善し、予測される純益(5年リスクを5%とした場合、1,000人あたり1.34人の純益)が得られるかもしれない。

根拠となった試験の抄録

背景:心房ミオパチー(左房の機能と大きさの変化によって特徴づけられる)は、心房細動(AF)や心臓血栓塞栓症に先行し、亢進する可能性がある。心房細動や脳卒中の既往のない集団において、左心房の機能や大きさを解析することで虚血性脳卒中の予知が可能になるかどうかは不明である。

目的:心エコーによる左房機能(reservoir、conduit、contractile strain)および左房サイズ(左房容積指数)と虚血性脳卒中の関連性を評価し、これらの指標がCHA2DS2-VAScスコア変数によって得られる脳卒中予測を改善できるかどうかを判断することである。

試験デザイン:前向きコホート研究

試験設定:ARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)試験

試験参加者:脳卒中や心房細動の既往のないARIC参加者4,917例

測定項目:虚血性脳卒中イベント(2011年~2019年)は医師により判定された。左房の歪みはスペックルトラック心エコーで測定した。

結果:5年間で、左心房reservoir、conduit、contractile strainの最低五分位における虚血性脳卒中の累積発生率はそれぞれ2.99%(95%CI 1.89%~4.09%)、3.18%(CI 2.14%~4.22%)、2.15%(CI 1.09%~3.21%)、重症左房拡大は 1.99%(CI 0.23%~3.75%)だった。赤池情報量規準(AIIC)に基づくと、左心房reservoir strainとCHA2DS2-VASc変数が最良の予測モデルであった。CHA2DS2-VASc変数に左心房reservoir strainを加えることにより、5年後に脳卒中を発症した112例のうち11.6%が高リスクカテゴリーに、1.8%が低リスクカテゴリーに分類し直された。脳卒中を発症しなかった4,805例では、12.2%が低リスクに、12.7%が高リスクに分類された。決定曲線解析では、5年リスクを5%とした場合、1,000人あたり1.34人の純益が予測された。

試験の限界:潜在的な心房細動の把握が不充分であった。

結論:心房細動や脳卒中の既往のない患者において、CHA2DS2-VASc変数に左心房reservoir strainを追加すると、脳卒中予測を改善し、予測される純益が得られることが決定曲線解析により示された。

主要資金源:米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)の国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute)

引用文献

Left Atrial Mechanical Dysfunction and the Risk for Ischemic Stroke in People Without Prevalent Atrial Fibrillation or Stroke : A Prospective Cohort Study
Ankit Maheshwari et al. PMID: 36534978 DOI: 10.7326/M22-1638
Ann Intern Med. 2022 Dec 20. doi: 10.7326/M22-1638. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36534978/

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