COVID-19ワクチンは二次的合併症を予防できるのか?
COVID-19感染後の急性心筋梗塞(AMI)や虚血性脳卒中の発症率は、血栓症のリスク上昇と関連していることが示唆されています(PMID: 35132265、PMID: 35176758)。SARS-CoV-2に対するワクチンは、COVID-19およびその重症化への進展に対して有効であることが報告されています(PMID: 34715347)。しかし、ワクチンが二次的合併症を予防するかどうかは不明です。
そこで今回は、COVID-19感染後のワクチン接種とAMIおよび虚血性脳卒中との関連性を検討した後向きコホート研究の結果をご紹介します。本試験の主要アウトカムは、COVID-19診断後31~120日に発生したAMIおよび虚血性脳卒中による入院の複合でした。
試験結果から明らかになったことは?
調査期間中のCOVID-19患者 592,719例のうち、231,037例が含まれ、そのうち62,727例がワクチン未接種、168,310例が完全接種でした。完全なワクチン接種を受けた患者は、高齢で、より多くの併存疾患を有していました。一方、完全接種群では、重症または重篤なCOVID-19は少ないことが示されました。年齢と合併症の差は重み付けにより減少し、COVID-19の重症度のバランスは悪くなりました。COVID-19の30日後からの追跡期間の中央値は、ワクチン非接種群では90日、完全接種群では84日でした。
ワクチン完全接種群の調整リスク (vs. ワクチン未接種群) | |
複合転帰 | 調整ハザード比[aHR] 0.42 (95%CI 0.29~0.62) |
急性心筋梗塞 | aHR 0.48 (95%CI 0.25~0.94) |
虚血性脳卒中 | aHR 0.40 (95%CI 0.26~0.63) |
複合転帰(COVID-19診断後31~120日に発生したAMIおよび虚血性脳卒中による入院の複合)は、ワクチン未接種群31例と完全接種群74例に発生し、発生率は6.18 vs. 5.49/1,000,000 人・日でした。調整リスクは、完全接種群で有意に低いことが示されました(調整ハザード比[aHR] 0.42、95%CI 0.29~0.62)。AMI(aHR 0.48、95%CI 0.25~0.94)および虚血性脳卒中(aHR 0.40、95%CI 0.26~0.63)ともに、調整後リスクは完全接種群で有意に低値でした。
完全なワクチン接種を受けた患者における転帰イベントのリスクの低下は、すべてのサブグループで観察されましたが、重症または重篤な感染症を有する患者など、統計的有意差に達しないものも示されました。
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COVID-19感染後の急性心筋梗塞(AMI)や虚血性脳卒中の発症率は、血栓症のリスク上昇と関連していることが示唆されていますが、ワクチン接種により、これらのリスクが低下するかどうかについては明らかとなっていません。
さて、本試験結果によれば、COVID-19に対する完全なワクチン接種は、COVID-19後の急性心筋梗塞および虚血性脳卒中のリスク低下と関連していました。ただし、本試験は後向きコホート研究の結果であることから、あくまでも相関が認められたにすぎません。続報に期待したいところです。
いくつかの試験の制限はあるものの、特に心血管疾患の危険因子を有する集団に対してはワクチン接種を支持する結果でした。現行の優先接種対象者はワクチンを接種した方が良さそうです。
☑まとめ☑ COVID-19に対する完全なワクチン接種は、COVID-19後の急性心筋梗塞および虚血性脳卒中のリスク低下と関連しているかもしれない。
根拠となった試験の抄録
背景:COVID-19感染後の急性心筋梗塞(AMI)や虚血性脳卒中の発症率は、血栓症のリスク上昇と関連していることが示唆されている(PMID: 35132265、PMID: 35176758)。SARS-CoV-2に対するワクチンは、COVID-19およびその重症化への進展に対して有効である(PMID: 34715347)。
しかし、ワクチンが二次的合併症を予防するかどうかは不明である。我々は、COVID-19感染後のワクチン接種とAMIおよび虚血性脳卒中との関連性を検討した。
方法:SARS-CoV-2ワクチンを接種していない患者と接種済み(mRNAワクチン2回接種またはウイルスベクターワクチン)患者のCOVID-19感染後のAMIおよび虚血性脳卒中の発生率を比較するために、後向きコホート研究を実施した。韓国全国規模のCOVID-19登録(感染とワクチン接種に関するもの)と韓国国民健康保険サービスのデータベースを使用した。COVID-19の報告は義務付けられており、韓国は国民皆保険である。2020年7月から2021年12月の間に無症状感染を含むCOVID-19と診断された18歳以上の成人が対象となった。除外基準は、(1)COVID-19診断前3ヵ月未満の転帰事象、(2)再感染、(3)COVID-19による30日以上の入院、ワクチン接種者では(4)ワクチンの単回接種、(5)2回目接種前または接種後7日以内のCOVID-19診断、などであった。患者は2022年3月31日まで観察された。
主要アウトカムは、COVID-19診断後31~120日に発生したAMIおよび虚血性脳卒中による入院の複合とし、これらは診断コードと関連画像により同定した。最初の30日間は、COVID-19の合併症として発生した心血管イベントと急性期治療との鑑別が困難なため、除外した。副次的アウトカムには複合アウトカムの構成要素を含めた。2群間の患者特性の差をコントロールするために逆確率治療加重(IPTW)が用いられ(PMID: 31922529)、共変量のバランスを評価するために標準化された差が用いられた。IPTWでは、完全なワクチン接種を独立変数とし、年齢、性別、Charlson Comorbidity Index、高血圧、保険種類を共変量としたロジスティック回帰を行った。転帰イベントについては、性別、年齢、併存疾患、転帰イベントの既往、COVID-19の重症度(補助酸素の必要性[重症]、高流量鼻カニューレまたはより高い呼吸補助[重症] vs. 呼吸補助不要)を共変量として、IPTWを用いたCox比例ハザードモデルを構築した。比例性の仮定を検定し(zph検定)、満たした。統計解析にはSAS Enterprise Guide 7.1(SAS Institute)を使用した。両側P<0.05を有意とした。本研究は、ギル医療センターの機関審査委員会により、インフォームドコンセントの放棄が承認された。
結果:調査期間中のCOVID-19患者 592,719例のうち、231,037例が含まれ、そのうち62,727例がワクチン未接種、168,310例が完全接種であった。完全なワクチン接種を受けた患者は、高齢で、より多くの併存疾患を有していた。一方、完全接種群では、重症または重篤なCOVID-19は少なかった。年齢と合併症の差は重み付けにより減少し、COVID-19の重症度のバランスは悪くなった。COVID-19の30日後からの追跡期間の中央値は、ワクチン非接種群では90日、完全接種群では84日であった。
複合転帰は、ワクチン未接種群31例と完全接種群74例に発生し、発生率は6.18 vs. 5.49/1,000,000 人・日であった。調整リスクは、完全接種群で有意に低かった(調整ハザード比[aHR] 0.42、95%CI 0.29~0.62)。AMI(aHR 0.48、95%CI 0.25~0.94)および虚血性脳卒中(aHR 0.40、95%CI 0.26~0.63)ともに、調整後リスクは完全接種群で有意に低値であった。完全なワクチン接種を受けた患者における転帰イベントのリスクの低下は、すべてのサブグループで観察されたが、重症または重篤な感染症を有する患者など、統計的有意差に達しないものもあった。
考察:本研究では、COVID-19に対する完全なワクチン接種が、COVID-19後のAMIおよび虚血性脳卒中のリスク低下と関連していることが明らかになった。この結果は、特に心血管疾患の危険因子を有する者に対するワクチン接種を支持するものである。研究の限界として、アウトカムイベントの捕捉に診療報酬のための診断コードが使用されたことが挙げられる。本研究における運用上の定義は広く使用されているが、診断上の不正確さが存在する可能性がある。また、ワクチン接種の有無による患者特性のアンバランスがあった。ワクチン接種の決定は、心血管リスクとも関連する可能性のある複数の要因に影響される。このような不均衡の影響を軽減するためにロバストモデルを適用したが、観察されないバイアスの可能性は残っている。
引用文献
Association Between Vaccination and Acute Myocardial Infarction and Ischemic Stroke After COVID-19 Infection
Young-Eun Kim et al. PMID: 35867050 DOI: 10.1001/jama.2022.12992
JAMA. 2022 Jul 22. doi: 10.1001/jama.2022.12992. Online ahead of print.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35867050/
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