鉄欠乏性貧血治療に伴う低リン血症にはイソマルトシド鉄とカルボキシマルトース鉄、どちらが良い?(Open-RCT; JAMA. 2020)

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鉄静注剤による低リン血症リスクは製剤により異なるのか?

鉄の静脈注射は鉄欠乏性貧血の迅速な改善を可能にしますが、ある種の製剤(含糖酸化鉄)は線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor:FGF)23を介した低リン酸血症を誘発することが報告されています。

FGF23は骨の特に骨細胞より分泌されるペプチドホルモンで、腎臓近位尿細管に作用して、リンの再吸収を抑制します。同時に、血中1,25-水酸化ビタミンD濃度を低下させ、腸管からのリン吸収を抑制します。

主に含糖酸化鉄による低リン血症も、FGF23の過剰産生を介して惹起されていることが明らかとなりました。

今回ご紹介するのは、デルイソマルトース第二鉄静注(イソマルトシド鉄、商品名:モノヴァー)とカルボキシマルトース第二鉄注射液(カルボキシマルトース鉄、商品名:フェインジェクト)の静脈内投与による低リン酸血症のリスクとミネラルおよび骨のホメオスタシスに関するバイオマーカーへの影響を比較したランダム化比較試験の結果です。

本試験では、鉄欠乏性貧血(ヘモグロビン値≦11 g/dL、血清フェリチン値≦100 ng/mL)で1ヵ月以上の経口鉄剤に不耐性または無応性の18歳以上の患者245例を、米国の外来診療施設30施設から、同一デザインのオープンラベル・ランダム化臨床試験2件に募集しました(腎機能低下者は除外)。

試験参加者は、0日目にイソマルトシド鉄1,000mgを静脈内投与、または0日目と7日目にカルボキシマルトース鉄750mgを点滴静注されました。

本試験の主要評価項目は、ベースラインから35日目までの低リン酸血症(血清リン酸値<2.0mg/dL)発生率でした。

試験結果から明らかになったことは?

試験Aでは、123例の患者(平均[SD]年齢 45.1[11.0]、女性 95.9%)がランダム化され、そのうち62例がイソマルトシド鉄に、61例がカルボキシマルトース鉄に割り付けられ、95.1%は試験を完了しました。試験Bでは、122例の患者(平均[SD]年齢 42.6[12.2]歳、女性 94.1%)がランダム化され、そのうち61例がイソマルトシド鉄に、61例がカルボキシマルトース鉄に投与され、93.4%が試験を完了しました。

(試験A)イソマルトシド鉄カルボキシマルトース鉄
低リン酸血症の発生率 7.9%75.0%
調整済み率差-67.0%
(95%CI -77.4% ~ -51.5%
P<0.001
(試験B)イソマルトシド鉄カルボキシマルトース鉄
低リン酸血症の発生率 8.1%73.7%
調整済み率差-65.8%
(95%CI -76.6% ~ -49.8%
P<0.001

低リン酸血症の発生率は、カルボキシマルトース鉄と比較してイソマルトシド鉄で有意に低いことが示されました(試験A:75.0% vs. 7.9%[調整済み率差 -67.0%、95%CI -77.4% ~ -51.5%、P<0.001; 試験B:8.1% vs. 73.7%[調整済み率差 -65.8%、95%CI -76.6% ~ -49.8%、P<0.001)。

低リン酸血症および副甲状腺ホルモン増加以外に最も多く見られた副作用は、吐き気(イソマルトシド鉄 1/125例、カルボキシマルトース鉄:8/117例)および頭痛(イソマルトシド鉄:4/125例、カルボキシマルトース鉄:5/117例)でした。

コメント

鉄欠乏貧血は、様々な要因により発症します。治療の基本は経口鉄製剤ですが、経口投与が不適切あるいは困難な場合は静脈内注射製剤が用いられます。鉄製剤の静脈内投与は、しばしばFGF23を介した低リン血症が認められ、治療中止もあることから、低リン血症リスクがより低い製剤が求められています。

今回ご紹介した臨床試験では、デルイソマルトース第二鉄静注(イソマルトシド鉄、商品名:モノヴァー)とカルボキシマルトース第二鉄注射液(カルボキシマルトース鉄、商品名:フェインジェクト)の低リン血症リスクを比較検討しています。

さて、本試験結果によれば、低リン酸血症の発生率は、カルボキシマルトース鉄と比較してイソマルトシド鉄で有意に低いことが示されました。ただし、サンプルサイズが限られていたことから、追試が求められます。また、あくまでも日本の添付文書を参考とした薬剤用量ではありますが、本試験で用いられたイソマルトシド鉄の用量は1,000mg/週と標準用量(最大2,000mg/週)である一方で、カルボキシマルトース鉄は1,500mg/週と最大用量です。本試験の参加者は体重80kg超であることから、イソマルトシド鉄の高用量を使用できます。したがって、低リン血症リスクの群間差は、本試験結果よりも小さくなる可能性が高いと考えられます。とはいえ、両薬剤の低リン血症の発生率には約10倍の差がありますので、イソマルトシド鉄の高用量を使用したとしても、カルボキシマルトース鉄よりも低リン血症リスクは小さい可能性が高いと考えられます。あとは治療コストも比較したいところです。

続報に期待。

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☑まとめ☑ 経口鉄剤に不耐性または無反応の鉄欠乏性貧血患者を対象とした2件のランダム化試験において、イソマルトシド鉄はカルボキシマルトース鉄と比較して、35日間の低リン酸血症の発生率が低いことが示された。サンプルサイズが小さいことから追試が求められる。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:鉄の静脈注射は鉄欠乏性貧血の迅速な改善を可能にするが、ある種の製剤は線維芽細胞増殖因子23を介した低リン酸血症を誘発する。

目的:鉄イソマルトシド(現:デリソマルトース鉄)とカルボキシマルトース鉄の静脈内投与による低リン酸血症のリスクとミネラルおよび骨のホメオスタシスに関するバイオマーカーへの影響を比較すること。

試験デザイン、設定、参加者:2017年10月から2018年6月にかけて、鉄欠乏性貧血(ヘモグロビン値≦11 g/dL、血清フェリチン値≦100 ng/mL)で1ヵ月以上の経口鉄剤に不耐性または無応性の18歳以上の患者245例を、米国の外来診療施設30施設から、同一デザインのオープンラベル・ランダム化臨床試験2件に募集した。腎機能が低下している患者は除外した。血清リン酸塩と、ミネラルと骨の恒常性に関する12の追加バイオマーカーを、0、1、7、8、14、21および35日目に測定した。最終フォローアップの日付は、試験Aは2018年6月19日、試験Bは2018年5月29日であった。

介入:0日目にイソマルトシド鉄1,000mgを静脈内投与、または0日目と7日目にカルボキシマルトース鉄750mgを点滴静注。

主要評価項目と測定方法:ベースラインから35日目までの低リン酸血症(血清リン酸値<2.0mg/dL)発生率を主要評価項目とした。

結果:試験Aでは、123例の患者(平均[SD]年齢 45.1[11.0]、女性 95.9%)がランダム化され、そのうち62例がイソマルトシド鉄に、61例がカルボキシマルトース鉄に割り付けられ、95.1%は試験を完了した。試験Bでは、122例の患者(平均[SD]年齢 42.6[12.2]歳、女性 94.1%)がランダム化され、そのうち61例がイソマルトシド鉄に、61例がカルボキシマルトース鉄に投与され、93.4%が試験を完了した。
低リン酸血症の発生率は、カルボキシマルトース鉄と比較してイソマルトシド鉄で有意に低かった(試験A:75.0% vs. 7.9%[調整済み率の差 -67.0%、95%CI -77.4% ~ -51.5%、P<0.001; 試験B:8.1% vs. 73.7%[調整済み率の差 -65.8%、95%CI -76.6% ~ -49.8%、P<0.001)。低リン酸血症および副甲状腺ホルモン増加以外に最も多く見られた副作用は、吐き気(イソマルトシド鉄 1/125例、カルボキシマルトース鉄:8/117例)および頭痛(イソマルトシド鉄:4/125例、カルボキシマルトース鉄:5/117例)であった。

結論と関連性:経口鉄剤に不耐性または無反応の鉄欠乏性貧血患者を対象とした2件のランダム化試験において、イソマルトシド鉄(現在はデリソマルトース鉄)はカルボキシマルトース鉄と比較して、35日間の低リン酸血症の発生率が低いことが示された。しかし、この差の臨床的重要性を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

試験登録:ClinicalTrials.gov Identifiers: NCT03238911 および NCT03237065

引用文献

Effects of Iron Isomaltoside vs Ferric Carboxymaltose on Hypophosphatemia in Iron-Deficiency Anemia: Two Randomized Clinical Trials
Myles Wolf et al. PMID: 32016310 PMCID: PMC7042864 DOI: 10.1001/jama.2019.22450
JAMA. 2020 Feb 4;323(5):432-443. doi: 10.1001/jama.2019.22450.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32016310/

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