精神疾患患者に対してブランケットを重くすると不眠症は改善しますか?(RCT; J Clin Sleep Med. 2020)

man in gray shirt sitting on the bed 01_中枢神経系
Photo by MART PRODUCTION on Pexels.com
この記事は約11分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

毛布(ブランケット)の重さで不眠症への効果に差があるのか?

不眠症は、睡眠を開始または維持することが困難で、しばしば疲労、不安、抑うつなど日中の症状を伴うことを特徴とする臨床疾患です。成人の場合、不眠症は最も一般的な精神疾患の1つです。使用する基準によって異なりますが、人口における有病率は、不眠症状を有する人が30〜48%、診断基準を満たす人が6%程度報告されています(PMID: 12531146PMID: 16459140)。精神医学的診断による精神疾が併存する患者を対象とした研究において、不眠症の有病率は高い傾向にあり、平均で約40%、うつ病性障害の患者では80%に達します(PMID: 12531146PMID: 2769898)。不眠症は長期に罹患することが多い疾患です。Mallonらの研究では、ベースラインで不眠症だった参加者の75%が12年後に不眠症の持続を示しました(PMID: 24955254)。不眠症は、大きな不快感をもたらし、個人の労働能力を低下させます。また、事故や死亡のリスクを高め、高い社会的コストにつながっています(PMID: 20359916PMID: 26874067)。多くの精神疾患は、重度の不眠症の割合が高く、実質的な機能障害と関連しています(PMID: 23024435)。双極性障害患者の70%、成人のうつ病および不安神経症患者の60%が不眠症に苦しんでいます(PMID: 15625201PMID: 21652083)。感情エピソードの治療が成功した後も睡眠障害が続くことは、大うつ病性障害および双極性障害のいずれにおいても再発の危険因子であることが報告されています(PMID: 21652083PMID: 18519522PMID: 28500982)。注意欠陥多動性障害(ADHD)患者のうち、不眠症の有病率は6%~80%と推定され、認知機能障害、疲労、感情症状の負担を高めています(PMID: 22033171)。不眠症は全般性不安障害の中核的な特徴であり、この診断を受けた患者の60%〜70%が影響を受けています(PMID: 6703138PMID: 12531169)。

不眠症に対する主な治療介入は、認知行動療法と薬物療法です。大多数の患者には十分ですが、約40%はこれらの標準的な治療法に反応しないことが報告されています(PMID: 19454639)。精神科の患者に対して作業療法士がよく用いる方法として、”圧迫と重さ”を用いた治療法があります(PMID: 15493494OTMH)。加重チェーンブランケットは、金属の鎖が縫い込まれた毛布です。このため、深圧刺激として全身に圧力をかけ、睡眠障害や不安に対して用いられます。鎮静効果と睡眠促進効果の説明として、加重チェーンブランケットが体のさまざまなポイントに圧力をかけ、指圧やマッサージと同様に触覚と筋肉や関節の感覚を刺激することが提案されています(PMID: 21208598PMID: 28089414)。これにより、身体とその制限の感覚が高まり、自信を持つことができるようです。深圧刺激は、自律神経系の副交感神経の覚醒を高めると同時に、鎮静効果の原因とされる交感神経の覚醒を抑制することを示唆するエビデンスがあります(PMID: 25871605PMID: 27568389)。また、身体を深く圧迫することで、リラックス効果と睡眠に中心的な役割を持つオキシトシンのレベルが上昇します。オキシトシンは抗不安薬様作用や鎮静作用、疼痛閾値の上昇をもたらすと言われています(PMID: 11390754PMID: 15901214)。さらに、寝具について他の種類の操作によって睡眠を改善する試みもなされています。McCallらは、29例の健康な成人を、バイオセラミック遠赤外線技術を含浸させたベッドシーツと標準的なベッドシーツのいずれかにランダムに割り付けました。彼らは、遠赤外線シーツに割り当てられた人は、不眠症状と昼寝頻度がより少ないことを報告しています(Res J Text Appear. 2018;22(3):247–259.)。

不眠症に対する加重ブランケットの臨床効果に関するエビデンスは充分ではありません。具体的な研究結果は以下のとおり;睡眠に問題のある自閉症児の対照研究では、加重ブランケットの使用は、入眠までの時間を短くすることも、総睡眠時間を長くすることもありませんでした。しかし、加重ブランケットは、子供と親に喜ばれ、ブランケットは耐久性に優れていた(PMID: 25022743)。 ADHDの小児を対象にした研究では、著者らは、ボールブランケットの使用は不眠症治療の適切かつ有効な方法だと結論付けました(PMID: 20662681)。健康な学生32例を対象とした研究において、加重をかけた毛布の使用は、血圧や脈拍への影響が少なく、安全で落ち着くことができるとされました(OTMH)。慢性的な不眠症を訴える健康な被験者33例を対象とした公開研究では、加重ブランケットは、客観的および自己報告的な測定により、睡眠に良い影響を与えることが明らかとなりました(JSMD)。本試験の評価では、成人領域における安全な介入方法として加重ブランケットが示されています(OTMHOTMH)。

精神疾患を併発する成人における不眠症の治療法としての加重ブランケットに関する対照研究は、ほとんど報告されておらず、レビュー文献においても、不眠症に有用であるというエビデンスはほとんどないことが明らかとなっています(SBUPMID: 32204779)。科学的なエビデンスが不足しているのにもかかわらず、加重ブランケットによる治療は、リラックス、不眠、その他の睡眠の問題に対する介入として推奨されるようになっています(OTMHPMID: 20662681OTMH)。ストックホルムでは、毎年約2,700枚の加重チェーンブランケットが精神科の成人患者に処方されています。

今回ご紹介するのは、感情障害とADHDの診断を受け、不眠症を併発している199例の精神科患者を対象に、加重ブランケットの臨床追跡調査を行った試験の結果です。

試験結果から明らかになったことは?

4週間の時点で、軽量ブランケットに対する加重ブランケット介入の不眠症重症度指数評価において有意な優位性があり(P<0.001)、大きな効果量(Cohen’s d 1.90)が示されました。介入に反応する可能性は、軽量ブランケット群に比べ、加重ブランケット群で約26倍(オッズ比 25.8、95%CI 6.8〜85.7)、寛解する可能性は約20倍(オッズ比 19.7、95%CI 4.4〜87.9)であり、軽量ブランケット群に比べ、加重ブランケット群に優位性があることが示されました。

全参加者の分析では、ブランケット使用1週間後に有意な効果が見られました。また、性差や診断群による加重ブランケットの効果に有意差は見られませんでした。加重ブランケットによる介入は、睡眠維持の有意な改善、日中の活動レベルの向上、日中の疲労、抑うつ、不安の症状の軽減をもたらしました。重篤な有害事象は発生しませんでした。

12ヵ月の非盲検フォローアップ期間中、参加者は加重ブランケットの使用を継続することで睡眠への効果を維持し、一方、軽量から加重ブランケットに切り替えた患者は、最初から加重ブランケットを使用していた参加者と同様に、不眠症重症度指数評価への効果が認められました。

コメント

加重ブランケットにより不眠症状の改善が報告されていましたが、いずれもサンプルサイズが小さい研究ばかりでした。そこで比較的試験規模の大きい約120例を対象に実施されたランダム化比較試験の論文を読んでみました。

さて、本試験結果によれば、加重ブランケットによる介入は、睡眠維持の有意な改善、日中の活動レベルの向上、日中の疲労、抑うつ、不安の症状の軽減をもたらしました。ブランケットを変更するだけで症状の緩和が示されたことは非常に有益な結果であると考えられます。ただし、本試験の参加者は、2ヵ月以上の臨床的不眠症、かつInsomniaSeverity Index(ISI)が14点以上であり、大うつ病性障害、双極性障害、全般性不安障害、ADHDのいずれかの診断を受けています。したがって、不眠症のみを有する患者においても同様の効果が得られるのかについては明らかとなっていません。また除外基準としては、積極的な薬物乱用、睡眠薬の過剰使用、認知機能に影響を及ぼす疾患(認知症、統合失調症、重度の発達障害、パーキンソン病、後天性脳損傷など)とされていますので、これらに対する加重ブランケットの効果も不明です。特に不眠症を併発する統合失調症患者への加重ブランケットの効果が気になるところです。

続報に期待。

orange tabby cat on gray blanket

✅まとめ✅ 大うつ病性障害、双極性障害、全般性不安障害、注意欠陥多動性障害患者の不眠症に対して、加重チェーンブランケットは有効かつ安全な介入であり、日中の症状や活動レベルも改善することが示された。

根拠となった試験の抄録

研究の目的:本研究は、大うつ病性障害、双極性障害、全般性不安障害、注意欠陥多動性障害の患者を対象に、加重チェーンブランケットの不眠症および睡眠関連日中症状への効果を評価することを目的とした。

方法:120例の患者をランダムに割り付け(1:1)、加重金属製チェーンブランケットまたは軽量プラスチック製チェーンブランケットを4週間装着させた。
主要アウトカム指標として不眠重症度指数(ISI)*、副次的アウトカム指標として昼夜日誌、疲労症状目録、病院不安・抑うつ尺度を用いて評価した。睡眠と日中の活動レベルはリストアクチグラフで評価した。
*ISIの項目は、入眠困難、睡眠維持の問題、睡眠問題に関連した日中の症状、および睡眠時間が短すぎることへの心配に関するものです。各項目は0〜4点で評価され、評価尺度の最大合計得点は28点となります。解釈のガイドラインによると、0〜7点は臨床的に重要な不眠症ではない、8〜14点は閾値以下の不眠症、15〜21点は中程度の重症度の臨床的不眠症、22〜28点は重度の臨床的不眠症と解釈されるようです。

結果:4週間の時点で、軽量ブランケットに対する加重ブランケットの介入の不眠症重症度指数評価において有意な優位性があり(P<0.001)、大きな効果量(Cohenのd 1.90)を示した。加重ブランケットによる介入は、睡眠維持の有意な改善、日中の活動レベルの向上、日中の疲労、抑うつ、不安の症状の軽減をもたらした。重篤な有害事象は発生しなかった。12ヵ月の非盲検フォローアップ期間中、参加者は加重ブランケットの使用を継続することで睡眠への効果を維持し、一方、軽量から加重ブランケットに切り替えた患者は、最初から加重ブランケットを使用していた参加者と同様の不眠症重症度指数評価への効果を経験した。

結論:大うつ病性障害、双極性障害、全般性不安障害、注意欠陥多動性障害患者の不眠症に対して、加重チェーンブランケットは有効かつ安全な介入であり、日中の症状や活動レベルも改善することが示された。

臨床試験登録 レジストリ ClinicalTrials.gov; Name: 不眠症に対するチェーンブランケットの対照研究; URL:https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03546036; Identifier: NCT03546036

キーワード ADHD、双極性障害、不眠症、大うつ病性障害、ウェイトブランケット。

引用文献

A randomized controlled study of weighted chain blankets for insomnia in psychiatric disorders
Bodil Ekholm et al. PMID: 32536366 PMCID: PMC7970589 DOI: 10.5664/jcsm.8636
J Clin Sleep Med. 2020 Sep 15;16(9):1567-1577. doi: 10.5664/jcsm.8636.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32536366/

関連記事

【高齢の不眠症患者におけるベルソムラ®️の効果はどのくらいですか?(RCT 3報のプール解析; Am J Geriatr Psychiatry. 2017)】

【批判的吟味】不眠障害の高齢患者に対するレンボレキサントの効果はプラセボやゾルピデム徐放製剤と比較して優れていますか?(DB-RCT; SUNRISE 1; JAMA Netw Open. 2019)

コメント

タイトルとURLをコピーしました