トピラマート、バルプロ酸、ラモトリギンの出生前曝露と自閉症リスクとの関連性は?(コホート研究; N Engl J Med. 2024)

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抗てんかん薬の中で自閉症リスクと関連する薬剤はどれか?

妊娠中のバルプロ酸塩の母親の使用は、小児の神経発達障害のリスク上昇と関連していることが報告されています。他の抗てんかん薬に関するほとんどの研究では、これらの障害のリスク増加は示されていないものの、母親のトピラマート使用に関連した自閉症スペクトラム障害のリスクに関しては、限られた相反するデータがあります。

そこで今回は、トピラマート、バルプロ酸、ラモトリギンの出生前曝露と自閉症リスクとの関連性について検証したコホート研究の結果をご紹介します。

本研究では、米国の2つの医療利用データベース内の妊婦とその出生児について集団ベースのコホートを同定し、2000年〜2020年のデータが収集されました。

特定の抗てんかん薬への曝露は、妊娠19週目から出産までの処方データ(prescription fills)に基づいて定義されました。妊娠後期にトピラマートに曝露された小児と、妊娠中に抗けいれん薬に曝露されなかった小児が、自閉症スペクトラム障害のリスクに関して比較されました。陽性対照としてバルプロエート(バルプロ酸)、陰性対照としてラモトリギンが用いられました。

試験結果から明らかになったことは?

抗けいれん薬に曝露されていない全児童集団(4,199,796人)における8歳時の自閉症スペクトラム障害の推定累積発症率は1.9%でした。

8歳時の自閉症スペクトラム障害の推定累積発症率
抗けいれん薬に曝露されていない全児童集団
(4,199,796人)
1.9%
てんかんを有する母親から出生した小児
・抗てんかん薬への曝露がない小児(8,815例)4.2%
・トピラマートへの曝露がある小児(1,030例)6.2%
・バルプロ酸への曝露がある小児(800例)10.5%
・ラモトリギンへの曝露がある小児(4,205例)4.1%

てんかんを有する母親から出生した小児に限定すると、抗てんかん薬への曝露がない小児(8,815例)では4.2%、トピラマートへの曝露がある小児(1,030例)では6.2%、バルプロ酸への曝露がある小児(800例)では10.5%、ラモトリギンへの曝露がある小児(4,205例)では4.1%でした。

傾向スコア調整ハザード比
(95%CI)
vs. 抗けいれん薬への曝露なし
トピラマートへの曝露0.96(0.56~1.65
バルプロ酸への曝露2.67(1.69~4.20
ラモトリギンへの曝露1.00(0.69~1.46

抗けいれん薬への曝露なしとの比較における傾向スコア調整ハザード比は、トピラマートへの曝露で0.96(95%信頼区間[CI] 0.56~1.65)、バルプロ酸への曝露で2.67(95%CI 1.69~4.20)、ラモトリギンへの曝露で1.00(95%CI 0.69~1.46)でした。

コメント

バルプロ酸はてんかんを有する妊娠可能な女性にとって唯一の治療選択肢となる場合がありますが、その一方で、出生前の胎児が曝露すると自閉症のリスクが増大する可能性が指摘されています。具体的には、妊娠中のバルプロ酸暴露により自閉症スペクトラム障害のリスクが約3倍、小児自閉症は約5倍になることが報告されています(PMID: 23613074)。これは、バルプロ酸が形成時期の脳の正常な遺伝子発現を変化させる特徴を有しているためと考えられています。

バルプロ酸より比較的新しい抗てんかん薬が上市され、実臨床で使用されていますが、妊娠中におけるこれらの薬剤への曝露が出生児の自閉症スペクトラム障害の発症リスクとの関連性については充分に検証されていません。

さて、米国のコホート研究の結果、自閉症スペクトラム障害の発生率は、研究対象とした抗けいれん薬を出生前に曝露された小児において、一般集団よりも高いことが示されました。一方、適応やその他の交絡因子で調整した結果においては、トピラマートとラモトリギンでは関連性がかなり減弱していたのに対し、バルプロ酸ではリスク上昇が残存していました。

各薬剤に曝露された小児のデータが限られていることから、追試が求められます。しかし少なくとも現時点においては、トピラマートとラモトリギンによる自閉症スペクトラム障害の発生リスクは、バルプロ酸よりも低く、そのリスクの程度は、曝露なしと同様である可能性が高いと考えられます。

続報に期待。

children during therapy

✅まとめ✅ 米国のコホート研究の結果、自閉症スペクトラム障害の発生率は、研究対象とした抗けいれん薬を出生前に曝露された小児において、一般集団よりも高かった。調整後のリスク評価において、発生率はトピラマートとラモトリギンでかなり減弱していたのに対し、バルプロ酸ではリスク上昇が残存していた。

根拠となった試験の抄録

背景:妊娠中のバルプロ酸塩の母親の使用は、小児の神経発達障害のリスク上昇と関連している。他の抗てんかん薬に関するほとんどの研究では、これらの障害のリスク増加は示されていないが、母親のトピラマート使用に関連した自閉症スペクトラム障害のリスクに関しては、限られた、相反するデータがある。

方法:米国の2つの医療利用データベース内の妊婦とその子どもの集団ベースのコホートを同定し、2000年から2020年までのデータを収集した。特定の抗てんかん薬への曝露は、妊娠19週目から出産までの処方充填に基づいて定義した。妊娠後期にトピラマートに曝露された小児と、妊娠中に抗けいれん薬に曝露されなかった小児を、自閉症スペクトラム障害のリスクに関して比較した。陽性対照としてバルプロエート(バルプロ酸)、陰性対照としてラモトリギンを用いた。

結果:抗けいれん薬に曝露されていない全児童集団(4,199,796人)における8歳時の自閉症スペクトラム障害の推定累積発症率は1.9%であった。てんかんを有する母親から出生した小児に限定すると、抗てんかん薬への曝露がない小児(8,815例)では4.2%、トピラマートへの曝露がある小児(1,030例)では6.2%、バルプロエートへの曝露がある小児(800例)では10.5%、ラモトリギンへの曝露がある小児(4,205例)では4.1%であった。抗痙攣薬への曝露なしとの比較における傾向スコア調整ハザード比は、トピラマートへの曝露で0.96(95%信頼区間[CI] 0.56~1.65)、バルプロエートへの曝露で2.67(95%CI 1.69~4.20)、ラモトリギンへの曝露で1.00(95%CI 0.69~1.46)であった。

結論:自閉症スペクトラム障害の発生率は、研究対象とした抗けいれん薬を出生前に曝露された小児において、一般集団よりも高かった。しかし、適応やその他の交絡因子で調整した結果、トピラマートとラモトリギンではその関連はかなり減弱していたのに対し、バルプロ酸ではリスク上昇が残存していた。

資金提供:国立精神衛生研究所

引用文献

Risk of Autism after Prenatal Topiramate, Valproate, or Lamotrigine Exposure
Sonia Hernández-Díaz et al. PMID: 38507750 DOI: 10.1056/NEJMoa2309359
N Engl J Med. 2024 Mar 21;390(12):1069-1079. doi: 10.1056/NEJMoa2309359.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38507750/

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