インスリン治療の早期開始と糖尿病合併症との関連性は?
インスリンは必須かつ強力な血糖降下剤である(PMID: 17267901)。2型糖尿病患者にとって、インスリン治療は経口糖尿病薬(OADs)による治療が無効となった後だけでなく、ヘモグロビンA1c値>9.0%で症候性高血糖または代謝異常がある患者の最初の治療として検討することができます(PMID: 31441247)。いくつかの研究により、新たに2型糖尿病と診断された患者において、インスリンを用いた早期の集中的な血糖コントロールが、糖毒性の低下、B細胞機能の改善、第一期インスリン分泌の回復など、良好な臨床効果をもたらすことが示されています(PMID: 24622264、PMID: 18502278、PMID: 19740080)。しかし、糖尿病管理の最も基本的かつ重要な目標は合併症を遅らせたり予防したりすることですが、早期インスリン治療が糖尿病合併症に及ぼす長期的な影響に関するエビデンスは限られています(PMID: 30291106)。
Outcome Reduction with an Initial Glargine Intervention(ORIGIN)試験は、早期インスリン導入の長期安全性を検討した画期的な試験で、標準治療と比較して心血管アウトカム(ハザード比[HR]1.02、95%信頼域[CI]0.94〜1.11)、微小血管アウトカム(HR 0.97、95%CI 0.90〜1.05)および全死亡(HR 0.98、95%CI0.90〜1.08)に中立の効果を報告したものです(PMID: 22686416)。
しかし、この研究は心血管系の危険因子を有する患者に限定されており、また、様々なインスリン製剤の中から曝露としてインスリン グラルギンのみを対象としたため、結果の一般化が妨げられていました。実データを用いた新規診断2型糖尿病患者におけるインスリン治療早期開始と糖尿病合併症リスクとの関連についての研究は充分に検討されていません。
そこで今回は、韓国の国民健康保険サービス(NHIS)データベースを用いて、新規診断2型糖尿病患者における早期インスリン治療と糖尿病関連微小血管および大血管の合併症リスク、全死因死の関連性を評価した観察的コホート研究の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
コホート内では、52,188例がOADsを、1,804例がインスリンを投与された。マッチング後、各群には534例の患者が含まれていました。
インスリン vs. OAD | ハザード比(HR) |
全微小血管合併症 | HR 1.48 (95%CI 1.28〜1.71) |
大血管合併症 | HR 0.90 (95%CI 0.62〜1.30) |
全死亡 | HR 1.06 (95% CI 0.67〜1.68) |
OAD群と比較して、全微小血管合併症のリスクはインスリン群で有意に高いことが示されました(HR 1.48、95%CI 1.28〜1.71)。大血管合併症(HR 0.90、95%CI 0.62〜1.30)および全死亡(HR 1.06、95% CI 0.67〜1.68)のリスクは増加しませんでした。
コメント
基礎研究の結果では、インスリン投与による血中インスリン濃度の乱高下により血管内皮細胞の機能低下、これに伴う血管拡張因子(NO2など)の分泌低下による血管の柔軟性が低下することで、血管合併症のリスク増加が報告されています。実臨床においても、同様にインスリン治療による心血管イベントのリスク増加が報告されています。しかし、アジア人を対象とした研究報告は充分ではありません。
さて、韓国の人口ベースコホート研究の結果によれば、経口血糖治療薬と比較して、インスリン治療により、全微小血管合併症のリスク増加が示されました(HR 1.48、95%CI 1.28〜1.71)。ただし、本試験は観察研究であることから、そもそも微小血管リスクの高い患者(血糖コントロール不良例など)でインスリン治療が行われていた可能性があります。未知の交絡因子の可能性が残存していることからも追試が求められます。とはいえ、大血管合併症(HR 0.90、95%CI 0.62〜1.30)および全死亡(HR 1.06、95% CI 0.67〜1.68)のリスク増加が見られないことから、インスリン治療による微小血管合併症のリスク増加があるのかもしれません。
続報に期待。
✅まとめ✅ 早期のインスリン治療は経口糖尿病治療薬と比較して、大血管合併症や全死亡のリスクとは関連がなかったが、微小血管合併症のリスク増加と関連しているかもしれない。
根拠となった試験の抄録
目的・紹介:2型糖尿病診断後1年以内の早期インスリン導入と糖尿病合併症のリスクとの関係を評価する。
材料と方法:韓国の国民健康保険サービスのデータベースを用いてコホート研究を実施した。研究参加者は、2009年から2013年の間に新たに2型糖尿病と診断された者だった。2型糖尿病診断後1年以内に2種類以上の経口抗糖尿病薬(OAD)またはインスリンを初回処方された患者コホートに傾向スコアマッチング(1:1)を適用後、Cox比例ハザード回帰を用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を計算し、インスリン開始者とOAD開始者の糖尿病関連微小血管および大血管の合併症リスクと全死亡率について比較検討した。
結果:コホート内では、52,188例がOADを、1,804例がインスリンを投与された。マッチング後、各群には534例の患者が含まれていた。OAD群と比較して、全微小血管合併症のリスクはインスリン群で有意に高かった(HR 1.48、95%CI 1.28〜1.71)。大血管合併症(HR 0.90、95%CI 0.62〜1.30)および全死亡(HR 1.06、95% CI 0.67〜1.68)のリスクは増加しなかった。
結論:本研究では、早期のインスリン治療はOAD治療と比較して、大血管合併症や全死亡のリスクとは関連がなかったが、微小血管合併症のリスクはインスリン投与群で高かった。
キーワード:糖尿病合併症、インスリン、経口糖尿病薬
引用文献
Relationship between the early initiation of insulin treatment and diabetic complications in patients newly diagnosed with type 2 diabetes mellitus in Korea: A nationwide cohort study
Ha-Lim Jeon et al. PMID: 34825507 DOI: 10.1111/jdi.13719
J Diabetes Investig. 2021 Nov 26. doi: 10.1111/jdi.13719. Online ahead of print.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34459569/
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