糖尿病治療薬による2型糖尿病の新規発症の抑制効果は?
糖尿病患者の90%は2型糖尿病であり、また2型糖尿病の発症は生活習慣よりも遺伝的要因が大きく影響していることが報告されています。さらに慢性腎臓病と心不全は、2型糖尿病発生率の高さと関連するインスリン抵抗性状態です。
そこで今回は、2型糖尿病の既往のない慢性腎臓病あるいは心不全患者におけるダパグリフロジン使用と、2型糖尿病の新規発症の関連性を検証したプール解析の結果をご紹介します。
本解析は、DAPA-CKD試験およびDAPA-HF試験の患者レベルデータのプール分析で、ダパグリフロジンの新規2型糖尿病発症への影響を評価しています。
試験結果から明らかになったことは?
4,003例(DADA-CKD試験1,398例[34.9%]、DAPA-HF試験2,605例[65.1%])が解析対象となり、1,995例(49.8%)がダパグリフロジン投与、2,008例(50.2%)がプラセボ投与を受けていました。
追跡期間:中央値21.2ヵ月 (IQR16.0~25.4) | ダパグリフロジン群 | プラセボ群 |
2型糖尿病の発生率 | 4.3% (85/1,995例) | 6.3% (126/2,008例) |
イベント発生率 | 2.6/100人・年 | 3.9/100人・年 |
ハザード比 | 0.67 (95%CI 0.51~0.88) p=0.0040 |
追跡期間中央値21.2ヵ月(IQR16.0~25.4)において、プラセボ群2,008例中126例(6.3%)(イベント発生率3.9/100人・年)、ダパグリフロジン群1,995例中85例(4.3%)(イベント発生率2.6/100人・年)が2型糖尿病を発症(ハザード比 0.67[95%CI 0.51~0.88] p=0.0040)していることが明らかとなりました。
試験間の異質性はなく(交互作用 p=0.77)、性別、年齢、血糖値状態、BMI、糸球体濾過量、収縮期血圧、ベースラインの心血管薬物使用など事前に特定したサブグループにおいてダパグリフロジンの効果に差があることを示す明確なエビデンスは得られませんでした。
2型糖尿病を発症した被験者の90%以上がベースライン時に糖尿病予備軍でした(HbA1c 5.7%~6.4% [39~46mmol/mol] )。
平均HbA1cは変化しなかった(ダパグリフロジン群におけるプラセボ調整後の変化は-0.01%[95%CI -0.03~0.01]、12ヵ月後の変化は-0.1mmol/mol[95%CI -0.3~0.1])。
コメント
2型糖尿病の発症抑制効果について探索的に検討したプール解析の結果、2型糖尿病の既往を有さない慢性腎臓病あるいは心不全患者において、ダパグリフロジンの使用はプラセボと比較して、2型糖尿病の発症を抑制しました(ハザード比 0.67[95%CI 0.51~0.88] p=0.0040)。ただし、2型糖尿病を発症した被験者の90%以上がベースライン時に糖尿病予備軍でした(HbA1c 5.7%~6.4% [39~46mmol/mol] )。
あくまでも仮説生成的な結果であることから追試が求められます。とはいえ、糖尿病予備軍における2型糖尿病の発症抑制効果が得られる可能性が示されたことは有望な結果です。続報に期待。
✅まとめ✅ ダパグリフロジン投与は、慢性腎臓病およびHFを有する参加者において、HbA1cの低下なしに新規2型糖尿病の発症を抑制した。
根拠となった試験の抄録
背景:慢性腎臓病と心不全は、糖尿病発生率の高さと関連するインスリン抵抗性状態である。DAPA-CKD試験およびDAPA-HF試験の患者レベルデータのプール解析で、ダパグリフロジンの新規2型糖尿病発症への影響を評価した。
方法 :本解析は、2つの第3相ランダム化二重盲検プラセボ対照多施設共同臨床試験から得られた個々の参加者データのプール分析である。糖尿病の既往がなく、ベースライン時のHbA1cが6.5%(48mmol/mol)未満の参加者をプール解析の対象とした。DAPA-CKD試験およびDAPA-HF試験において、新たに発症した2型糖尿病は事前に設定された探索的エンドポイントであり、本解析の焦点となるものである。2型糖尿病の新規発症は、HbA1cの連続測定(連続する2つの値≧6.5%[≧48mmol/mol])、または臨床試験の合間に糖尿病と診断された場合に同定された。2型糖尿病の新規発症までの期間は、ランダム割付から治療終了までCox比例ハザードモデルで解析した。
結果:4,003例(DADA-CKD試験1,398例[34.9%]、DAPA-HF試験2,605例[65.1%])が解析対象となり、1,995例(49.8%)がダパグリフロジン投与、2,008例(50.2%)がプラセボ投与を受けていた。
追跡期間中央値21.2ヵ月(IQR16.0~25.4)において、プラセボ群2,008例中126例(6.3%)(イベント発生率3.9/100人・年)、ダパグリフロジン群1,995例中85例(4.3%)(イベント発生率2.6/100人・年)が2型糖尿病を発症(ハザード比 0.67[95%CI 0.51~0.88] p=0.0040 )していることが明らかとなった。試験間の異質性はなく(交互作用 p=0.77)、性別、年齢、血糖値状態、BMI、糸球体濾過量、収縮期血圧、ベースラインの心血管薬物使用など事前に特定したサブグループにおいてダパグリフロジンの効果に差があることを示す明確なエビデンスは得られなかった。
2型糖尿病を発症した被験者の90%以上がベースライン時に糖尿病予備軍であった(HbA1c 5.7%~6.4% [39~46mmol/mol] )。平均HbA1cは変化しなかった(ダパグリフロジン群におけるプラセボ調整後の変化は-0.01%[95%CI -0.03~0.01]、12ヵ月後の変化は-0.1mmol/mol[95%CI -0.3~0.1])。
解釈:ダパグリフロジン投与は、慢性腎臓病およびHFを有する参加者において、HbA1cの低下なしに新規2型糖尿病の発症を抑制した。
資金提供:アストラゼネカ社
引用文献
Dapagliflozin and new-onset type 2 diabetes in patients with chronic kidney disease or heart failure: pooled analysis of the DAPA-CKD and DAPA-HF trials
Peter Rossing et al.
Lancet Diabetes Endocrinol. 2021 Nov 29;S2213-8587(21)00295-3. doi: 10.1016/S2213-8587(21)00295-3. Online ahead of print.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34856173/
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