2型糖尿病のハードアウトカム発生に対するピオグリタゾンの効果は?
2型糖尿病は、インスリン分泌不全およびインスリン抵抗性を呈する内分泌代謝異常です。現在、さまざまな治療薬が上市されており、多くのエビデンスが蓄積されてきています。
インスリン抵抗性を改善する薬剤としては、メトホルミン、ピオグリタゾン、イメグリミンが使用されていますが、有効性・安全性プロファイルは異なります。
ピオグリタゾンは近位尿細管、遠位尿細管のナトリウム再吸収を高めることが報告されています(PMID: 21531337)。これにより体液貯留が起こり、下肢浮腫や心不全を引き起こすことが報告されています。2型糖尿病では、心筋梗塞や脳卒中だけにとどまらず、心不全リスク増加が報告されていることから、ピオグリタゾンにより、特に心不全の発生リスクが助長される可能性が考えられます。しかし、心不全以外のハードアウトカム発生に対するピオグリタゾンの効果は充分に検討されていません。
そこで今回は、2型糖尿病患者におけるMACEおよびHHF、全死亡について、ピオグリタゾンが及ぼす影響について検証したランダム化比較試験のメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
MACEとHFについては8件のRCTが解析対象となり(ピオグリタゾン群と実薬対照群の患者数はそれぞれ5,048例と5,117例)、全死亡については24件のRCTが解析対象となりました(10,682例と9,674例)。
Mantel-Haenszelオッズ比(MH-OR) (95%CI) | |
MACE | MH-OR 0.90 (95%CI 0.78〜1.03) |
全死亡 | MH-OR 0.91 (95%CI 0.77〜1.09) |
心不全による入院(HHF) | MH-OR 1.16 (95%CI 0.73〜1.83) |
心血管イベントの既往がある患者集団 におけるMACE | MH-OR 0.84 (95%CI 0.72〜0.99) |
ピオグリタゾンは、プラセボ/実薬対照と比較して、MACE、全死亡、およびHHFのリスクを有意に増加も減少もさせませんでした(MH-OR 0.90、95%CI 0.78〜1.03、0.91、95%CI 0.77〜1.09および1.16、95%CI 0.73〜1.83)。ピオグリタゾンは、心血管イベントの既往がある患者のMACEを有意に減少させました(MH-OR 0.84、95%CI 0.72〜0.99)。
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ピオグリタゾンによる新ん血管イベントリスクの増加が懸念されています。これは、同種同効薬であるRosiglitazone(日本では未承認)により心筋梗塞や心血管イベントのリスク増加が示されていること(PMID: 20656674、PMID: 17517853)、またピオグリタゾンによる心不全リスク増加が報告されているためです。
さて、本試験結果によれば、2型糖尿病患者集団におけるピオグリタゾンの使用は、MACE、全死亡、心不全による入院リスクについて中立的な効果が示されました。ただし、心不全による入院リスクについては増加傾向です。作用機序から考えても、浮腫のリスクが高い患者に対してのピオグリタゾン使用は避けた方が良いと考えられます。一方、心血管イベントの既往を有する患者集団においては、MACEリスクを有意に低下させました。2型糖尿病の治療においては、さまざまなクラスの薬剤が使用されていることから、ピオグリタゾンを優先して使用するケースが不明確ではありますが、その選定の一因子として心血管イベントの既往を考慮した方が良さそうです。
これまでのエビデンスを考慮すると、メトホルミンやSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が使用できない場合に、次の治療薬を考慮する選択肢の一つとしてピオグリタゾンが位置していることを念頭においた方が良いと考えられます。
✅まとめ✅ ピオグリタゾンは、MACE、全死亡、およびHHFに対して有意な効果を示さなかった。
根拠となった試験の抄録
ハイライト
- 2型糖尿病(T2DM)は、心血管疾患および死亡率のリスク増加と関連している。
- ピオグリタゾンは、血糖値、インスリン感受性、炎症、サイトカイン産生に有益な効果を示している。
- ピオグリタゾンの心血管系への影響に関するランダム化試験のメタ解析では、相反する結果が報告されている。
- 今回のメタ解析では、心血管イベントの発生に対するピオグリタゾンの有意な効果は認められなかった。
目的:2019年、イタリア糖尿病学会とイタリア臨床糖尿病学会は、2型糖尿病の薬物治療のガイドラインを作成するために専門家パネルを指名した。グルコース低下薬の主要有害心血管イベント(MACE)、全死亡、心不全による入院(HHF)に対する効果を重要なアウトカムとした上で、専門家はこの点に関するピオグリタゾンの効果についてシステマティックレビューとメタ解析を行うことにした。
方法:2021年6月1日までの期間で、ピオグリタゾンをプラセボまたは実薬と比較した、試験期間≧52週のRCTをMEDLINEデータベースで検索した。
主要評価項目は、MACEおよびHHF(アウトカムにMACEを報告しているRCTに限定)、全死亡(事前に指定したアウトカムにMACEが含まれているかどうかに関わらず)とした。考慮したすべてのエンドポイントについて、Mantel-Haenszelオッズ比(MH-OR)と95%信頼区間(95%CI)を算出した。
結果:MACEとHFについては8件のRCTが解析対象となり(ピオグリタゾン群と実薬対照群の患者数はそれぞれ5,048例と5,117例)、全死亡については24件のRCTが解析対象となった(10,682例と9,674例)。
ピオグリタゾンは、プラセボ/実薬対照と比較して、MACE、全死亡、およびHHFのリスクを有意に増加も減少もさせなかった(MH-OR 0.90、95%CI 0.78〜1.03、0.91、95%CI 0.77〜1.09および1.16、95%CI 0.73〜1.83)。ピオグリタゾンは、心血管イベントの既往がある患者のMACEを有意に減少させた(MH-OR 0.84、95%CI 0.72〜0.99)。
結論:本メタ解析において、ピオグリタゾンは、MACE、全死亡、およびHHFに対して有意な効果を示さなかった。
キーワード:ピオグリタゾン、死亡率、主要心血管イベント、メタ解析、2型糖尿病
引用文献
Effects of pioglitazone on cardiovascular events and all-cause mortality in patients with type 2 diabetes: A meta-analysis of randomized controlled trials
Edoardo Mannucci et al.
Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases, Published:December 09, 2021 DOI:https://doi.org/10.1016/j.numecd.2021.12.006
ー 続きを読む https://www.nmcd-journal.com/article/S0939-4753(21)00565-2/fulltext?dgcid=raven_jbs_aip_email
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