HPVワクチンによる有害事象リスクは過度に懸念されている?
2012年には、約63万人の女性がヒトパピローマウイルス(HPV)関連のがんと診断され、そのうち53万人(84%)が子宮頸がんと診断されました(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28369882/)。
世界中でHPVワクチンが広く使用されているにもかかわらず、HPVワクチン接種に対する安全性への懸念は減少しておらず、ワクチンに関連した重篤な有害事象への懸念は、予防接種に対する国民の信頼を損なっています。ほとんどの研究は欧米の集団に焦点を当てているため、アジア集団におけるHPVワクチンの安全性プロファイルに関する情報は十分ではありません。
これまで報告された研究のバイアスと課題
現在、世界保健機関(WHO)が推奨しているHPV予防接種は、性行為に及ぶ前の9~14歳の女児を優先的に対象としており、2019年には124カ国が思春期の女児を対象とした国別予防接種プログラムとしてHPVワクチン接種の方針を採択しました。ちなみに韓国では、2016年6月以降、韓国疾病管理予防庁が国家予防接種プログラムの一環として、12~13歳の思春期の女児を対象に2価または4価のHPVワクチンの2回接種スケジュールを導入しています。
これまでの研究では、ワクチン接種を受けた人と受けていない人を比較していたため、個人や臨床的特徴に根本的な違いがあるため、結果に偏りが生じる可能性があります。また、これまでの研究では2価または4価のHPVワクチンに焦点を当てており、特定のタイプのHPVワクチンの安全性に関する情報を提供しています。つまり、これまでの研究報告では、健康志向バイアスや報告バイアスが生じている可能性があります。したがって、より実臨床に近い状況におけるHPVワクチン使用と重篤な有害事象との関連性について検証する必要があり、さらにはアジア人を対象とした研究結果が求められています。
今回は、韓国から報告されたHPVワクチン接種と重篤な有害事象との関連を評価したコホート研究の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
2017年に予防接種を受けた11~14歳の女子441,399例(382,020例がHPVワクチン接種、59,379例がHPVワクチン未接種)を対象とした韓国人口ベース コホート研究の結果によれば、片頭痛(調整率比 1.11、1.02~1.22)を除き、橋本甲状腺炎および関節リウマチを含む事前に定義された33の重篤な有害事象は、いずれもHPVワクチン接種との関連性が認められませんでした。
HPVワクチン接種と重篤な有害事象:結果(本文Fig.3)についてはこちら↓
https://www.bmj.com/content/bmj/372/bmj.m4931/F3.large.jpg
感度分析では、片頭痛を除き、HPVワクチン接種と重篤な有害事象との関連性を示さなかったという主要所見と一致していました。
また片頭痛については、2年間の追跡調査で有意なリスク上昇が認められましたが(修正率比1.10、95%信頼区間1.03~1.16)、90日目(1.04、0.85~1.26)および180日目(1.09、0.94~1.25)では有意なリスク上昇は認められていません。このことから、未知の交絡因子が残存する可能性があります。
さらにワクチンサブタイプのサブグループ解析の結果も、主要所見と一致していました。2価HPVワクチン接種群ではHPV未接種群と比較して片頭痛の有意な増加は認められませんでしたが(1.07、0.96~1.20)、4価HPVワクチン接種群ではHPV未接種群と比較して片頭痛の統計学的に有意な増加が認められました(1.13、1.03~1.24)。こちらについても未知の交絡がありそうですが、もしかすると4価ワクチン特有の有害事象(副反応、副作用ではない)なのかもしれません。
いずれにせよ、今後の研究結果について明らかにしていく必要があると考えられます。
✅まとめ✅ 2017年に予防接種を受けた11~14歳の女子441,399例を対象とした韓国人口ベースコホート研究において、HPVワクチン接種と重篤な有害事象との関連を支持するエビデンスは見出されなかった
本研究の限界
以下の5つの研究の限界がありますが、いずれも大きなものではないと考えられます。
- 本研究の症例定義は、健康保険データに記録されたICD-10コードに依存しています。ICD-10コードを用いた診断記録は患者の医療記録と完全に一致していないため、健康保険データと医療記録との不一致が生じることとなり、これは選択されたアウトカムの実際の発生率を過大評価、あるいは過小評価する可能性があります。しかし、National Health Information Databaseに関する検証研究では、診断の全体的な正の予測値は82%であり、これによりワクチンの安全性に関する信頼できる情報を提供することができましたと著者は述べています。
→つまり、本試験の相関関係は80%程度の信頼性があるのではないかということです。 - 医療記録へのアクセスが限られているため、発症日ではなく診断日を使用しました。もし発症と診断が同じリスク期間に発生していなければ、発症と診断の間に乖離が生じ、症例の誤分類の原因となっていたと推察されます。このようなランダムな誤分類バイアスは、結果をヌル(null)関連へと歪めてしまいます。この発症から診断までの遅延を解消するために、第一のリスク期間として1年を選択し、リスク期間を変化(90日、180日、2年)させて感度分析を行っています。
→つまり主要解析の結果と、感度分析の結果がある程度一致していれば、誤分類の可能性を限りなく小さくすることができるということです。 - ワクチン使用に関する誤分類の可能性が残っています。2価と4価のHPVワクチンはいずれも韓国政府から国家予防接種プログラムを通じて資金提供を受けているため、登録されている接種記録は完全ですが、国家予防接種プログラムの下にない非一価のHPVワクチンの接種記録は完全ではありません。比較対象ワクチンと非ウイルス性HPVワクチンを接種した女児では、HPV未接種者に分類される可能性が高いと推察されます。しかし、非一価と四価のHPVワクチンの同等の効果を考慮すると、追加費用を払って非一価のHPVワクチンを接種する女児はほとんどいないと推察されます。
→つまり、ワクチン使用に関する誤分類の可能性についても限りなく低いと考えられます。 - 事前に定義されたアウトカムの多くは稀なため、本試験の分析では統計的なパワー(検出力)が制限されているアウトカムもあります。とはいえ、本研究は全国的にリンクされたデータベースを使用しているため、いくつかのイベントにおいて関連性が低いことを示している可能性があります。
→つまり、アウトカムによって検出力が低い可能性を捨てきれないものの、一概に研究の質が低いとは言えず、やはり、HPVワクチン接種と有害アウトカムの関連性が低いことを示している可能性もある、ということです(個人的にはリスク増加が認められていないアウトカムにおいて、他の研究においてもリスク増加が認められていなければ関連性は低いと捉えています)。 - 本研究の集団はHPVワクチンまたは比較対象ワクチンを接種した思春期の女児で構成されているため、韓国の全人口に対する調査結果の一般化可能性は限られている可能性があります。しかし、本研究では韓国の11~14歳の女子の65%以上が含まれていたことから、本研究の結果は一般的な集団を代表するものであると考えられます。
→つまり本試験結果は、ある程度、一般化しても差し支え無さそうということです。
根拠となった論文の抄録
目的:韓国の思春期女子におけるヒトパピローマウイルス(human papillomavirus, HPV)ワクチン接種と重篤な有害事象との関連を評価する。
試験デザイン:コホート研究
試験設定:2017年1月から2019年12月の間に、韓国予防接種登録情報システムと国民健康情報データベースを連携させて作成した大規模な連携データベース。
試験参加者:2017年に予防接種を受けた11~14歳の女子441,399例。382,020例がHPVワクチンを接種しており、59,379例がHPVワクチンを接種していなかった。
主要アウトカム指標:アウトカムは、内分泌疾患、消化器疾患、心血管疾患、筋骨格系疾患、血液学的疾患、皮膚疾患、神経学的疾患を含む33件の重篤な有害事象であった。一次解析にはコホートデザインを、二次解析には自己管理型リスク間隔デザインを用いた。HPVワクチン接種群と未接種群を比較した一次解析ではポアソン回帰を用いて発症率と修正率比を推定し、二次解析では条件付きロジスティック回帰を用いて修正相対リスクを推定した。
結果:片頭痛(10万人年あたりの発症率:ワクチン接種群1,235.0 vs. 未接種群920.9;調整率比 1.11、95%CI 1.02~1.22)を除き、橋本甲状腺炎(10万人年あたりの発生率:ワクチン接種群52.7 vs. 未接種群36.3;1.24、0.78~1.94)および関節リウマチ(10万人年あたりの発生率:ワクチン接種群168.1 vs. 未接種群145.4;0.99、0.79〜1.25)を含む事前に定義された33の重篤な有害事象は、いずれもHPVワクチン接種との関連性が認められなかった。
self-controlled risk intervalsを用いた二次解析では、HPVワクチン接種と片頭痛を含む重篤な有害事象との間に関連性は認められなかった(調整後相対リスク0.67、95%信頼区間0.58~0.78)。
結果は、フォローアップ期間の変動やワクチンのサブタイプに対しても堅牢(robust)であった。
結論:この全国規模のコホート研究では、50万回以上のHPVワクチン接種が行われたが、コホート解析と自己制御リスク区間解析の両方を用いて、HPVワクチン接種と重篤な有害事象との関連を支持するエビデンスは見出されなかった。片頭痛に関する矛盾した所見は、その病態生理と関心のある集団を考慮して慎重に解釈されるべきである。
引用文献
Association between human papillomavirus vaccination and serious adverse events in South Korean adolescent girls: nationwide cohort study – PubMed
Dongwon Yoon et al.
BMJ. 2021 Jan 29;372:m4931. doi: 10.1136/bmj.m4931. PMID: 33514507
—続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33514507/
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