【批判的吟味】花粉症に対するOralair®️舌下免疫療法の効果はどのくらいですか?(RCT; J Allergy Clin Immunol. 2012)
Clinical efficacy of 300IR 5-grass pollen sublingual tablet in a US study: the importance of allergen-specific serum IgE.
くRandomized controlled trial
Cox LS, et al.
J Allergy Clin Immunol. 2012.
PMID: 23122534
【背景】
以前に行われた試験では、草花粉誘発性アレルギー性鼻結膜炎の成人および小児に対する5種類のイネ科花粉(orchard grass, Dactylis glomerata; Kentucky bluegrass, Poa pratensis; perennial rye grass, Lolium perenne; sweet vernal grass, Anthoxanthum odoratum; and timothy grass, Phleum pratense)を利用した舌下錠(Oralair®️)の有効性、安全性、および最適な投与量が実証されている。
【目的】
米国成人における300反応性指数(index of reactivity, IR)Oralair®️舌下錠の有効性と安全性の評価を試みた。
【方法】
花粉アレルギーおよび鼻結膜炎の総症状スコアが、以前の花粉シーズン中に12以上(スケール 0〜18)の成人を、Oralair®️またはプラセボを投与するための二重盲検プラセボ対照試験でランダム化した。投与は花粉シーズン4ヶ月前から花粉シーズンまで続けた。
有効性の主要エンドポイントは、症状とレスキュー薬の使用を統合した毎日の複合スコア(Combined Score, CS; スケール 0〜3)だった。
【結果】
・437人の参加者がランダム化された。 花粉期間中における1日あたりの平均CSは、プラセボ群と比較して実薬治療群で有意に低かった。
★最小二乗平均差:-0.13, 95%CI -0.19〜 -0.06; P = 0.0003
★相対減少 =28.2%, 95%CI 13.0%〜43.4%
—-
・プラセボ治療群のサブグループ解析において、ベースライン イネ科花粉固有血清IgE 0.1 kU / L未満(n = 23)では1日CS最小二乗平均は0.32で、ベースライン イネ科花粉固有血清IgE 0.1 kU / L以上では0.46だった(n = 204)。
・最も頻繁に報告された有害事象は、口腔掻痒症状、咽喉刺激、および鼻咽頭炎だった。 アナフィラキシーの報告はなく、積極的に治療された参加者にはエピネフリンが投与されなかった。
【結論】
米国のイネ科花粉誘発性アレルギー性鼻結膜炎の成人では、300IR Oralair®️舌下錠による季節前および同時期の治療は、特に測定可能なイネ科花粉特異的血清IgEを有する被験者において、臨床的に意味のある有効性を示した。
300IR Oralair®️舌下錠の使用は安全で忍容性が良好だった。
本分野の今後の研究では、測定可能レベルのアレルゲン特異的血清IgEの要件を考慮する必要がある。
【PICOTS】
P: 18〜65歳の男女、過去2回のイネ科花粉シーズンにおけるアレルギー性鼻炎の既往、皮膚プリックテスト 陽性、RTSSスケール 12以上(鼻症状が重視されている?)、FEV1 80%以上
I : 花粉シーズン4ヶ月前からのOralair®️舌下錠 300IR(用量設定試験:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17935764/)
C: Placebo舌下錠
O: 有効性の主要エンドポイント — 症状とレスキュー薬の使用を統合した毎日の複合スコア(Combined Score, CS; スケール 0〜3)*
T: DB-RCT, ブロックランダム化(ブロックサイズ:4)
S: アメリカの51施設、研究期間は2008年12月〜2009年8月までの6ヶ月(花粉飛散シーズン前後の治療段階、および2週間の追跡段階に登録された)
*参加者には、過去24時間の個々の6つの鼻結膜炎症状スコア(RSS; くしゃみ、鼻水、鼻のかゆみ、鼻づまり、目のかゆみ、涙目)を記録し、症状緩和のために薬物使用について記録するための記録カードが提供された。記録カードは、各症状に対して4ポイントの記述スケールを使用して毎日記録された。記録は花粉シーズンの約3週間前からその終わりまで、毎晩同じ時間に完了する必要があった。
0:症状なし
1:軽度の症状
2:中程度の症状
3:重度の症状
毎日のRTSSは、6つの個別RSSの合計。
毎日の救助薬物スコア(Rescue Medication Score, RMS)は、次のように導き出された。
1:抗ヒスタミン薬の使用(経口剤、点眼液、または両方の併用)
2:コルチコステロイド点鼻薬の使用
3:経口コルチコステロイドの使用
被験者が同じ日に2つ以上のレスキュー薬を服用した場合、RMSに対して最高のスコアが使用された。
※重症または耐えられないアレルギー性鼻結膜炎症状管理のため、段階的レジメンに従って救助薬(経口および点眼の抗ヒスタミン薬および副腎皮質ステロイド点鼻薬)が提供された。参加者は、これらの治療にもかかわらず症状が残っている場合は、調査員に相談する必要があった。調査員はその後、被験者に経口コルチコステロイドを提供できる。
※参加者は、服用した錠剤の数が期待値の80%から120%(両端を含む)の場合、治療に準拠していると見なされた。
【試験スケジュール】
Figure 1. Study design(本文より引用)
【組入基準】
少なくとも過去2回のイネ科花粉シーズンにおいて、イネ科草に対する皮膚プリックテスト(skin prick test, SPT)陽性反応(平均膨疹径5 mm以上のネガティブコントロールによって誘発された; 最長フレア寸法 10 mm以上)、過去のイネ科草の花粉シーズン中における遡及的鼻結膜炎総症状スコア(Retrospective Rhinoconjunctivitis Total Symptom Score, RTSS; スケール 0〜18)が12以上、およびFEV1予測値 80%以上。
季節性および多年生のエアロアレルゲンのパネル(イネ科および他の草[夏型牧草の花粉:Bermuda、Bahia、およびJohnsonの草を含む]、木および雑草、チリダニ、カビ、および犬と猫のふけ; Hollister-Stier Laboratories、Spokane、Wash)調査員によって関連があると見なされた他のエアロアレルゲンは、SPTによってテストされた。
【除外基準】
参加者は、次の三点のいずれかに該当した場合に除外された。
(1)草花粉期間中にその地域に存在する他の風土性草アレルゲン(バミューダ、バイア、およびジョンソン草を含む)に対して陽性のSPT反応を示した場合、研究から除外された。
(2)草花粉期間と重なる可能性のある他のアレルゲンに対するアレルギーの臨床的に重要な交絡症状(例:樹木アレルゲン、チリダニ、およびカビ)
(3)吸入β2アゴニスト以外の薬剤による治療を必要とする喘息
【批判的吟味】
・ランダム化:⭕️
・コンシールメント:おそらく⭕️(中央割合であると考えられるため)
・マスキング:⭕️(二重 — 患者と医師,clinicaltrial.govでは四重 —- 患者、医師、アウトカム評価者、統計解析者)
・ベースライン:✖️(喫煙歴、感受性、喘息、IgEに群間差があると考えられる)
また並存疾患、併用薬、治療歴について各因子の調整が必要だと考えられる。少なくともアトピー性皮膚炎や副鼻腔炎などの併存疾患の調整は必須だと個人的には思う。
・ITTか:✖️(FAS)
・脱落:介入群 26例/233例(11.2%)、プラセボ群 17例/240例(7.1%)
やや介入群で脱落が多いと思う。FAS解析に含められたのは介入群210例、対照群228例。
・サンプルサイズ:⭕️両側 α =0.05、1-β =80% で404例必要。最終解析は430例で実施とサンプルサイズは充分。
プラセボ群におけるCSスケールのSDを0.65と仮定し、一般的なSD 0.50 が20.14に相当すると定義された。つまりSD 0.15という群間差が認められれば、相対差が20%超に相当するということ。
※保健当局の推奨によりアウトカムの変更があった点には留意しておきたい。
・結果まとめ
追跡期間:6ヶ月
主要評価項目の群間差:daily CS least-squaresの差 -0.13(介入群 0.32、対照群 0.45)、相対差は-28.2%
NNT:なし →各アウトカムの実数が不明なため、NNT算出に不向きなアウトカムであると考えられる。
【コメント】
アメリカで使用されているOralair®️(オロレィアー)減感作療法の検討結果。日本のシダキュア®️とは含まれている花粉の種類が異なるが、減感作療法の効果を知るには良い文献であると思いました。
ちなみにOralair®️はイネ科の5種類の花粉アレルゲンを含んでいる。一方シダキュア®️は、スギ花粉に特化して作製されている。
またシダキュア®️の規格JAUの意味は、アレルギー患者の皮膚試験に基づき日本アレルギー学会により設定された国内独自のアレルゲン活性単位(Japanese Allergy Units)のこと。スギ花粉エキスにおいてはCry j 1(スギ花粉中に存在する主要アレルゲンの一つであり、ヒト皮膚反応活性と相関することが報告されている)が 7.3〜21μg/mL含まれるエキスを10,000 JAU/mLと表示している。
さて、相対減少は28.2%だったが、最小二乗平均差の -0.13が実臨床でどの程度有効なのか不明。有意差はあるものの、やはり1シーズンでの効果はかなり小さいと個人的には考えられる。またFAS解析には介入群210例、プラセボ群228例が含まれるはずだが、介入群208例となっているが詳細不明。結果の解析において、やや恣意的な操作が行われた可能性がありモヤモヤする。
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