食塩中のナトリウム比率を下げると脳卒中を予防できるのか?
食塩の摂取量増加に伴い血圧が上昇する食塩感受性高血圧が報告されています。本疾患は遺伝的な背景が強く影響していることから、遺伝子検査を実施する必要がありますが、充分に検討されていません。日本人を含むアジア人において、この食塩感受性に関わる遺伝子を有する割合が、白人よりも高いことが示されています。
したがって、特にアジア人を対象にナトリウム濃度を下げ、カリウム濃度を上げた食塩代替が血圧を下げることが多く報告されています。しかし、食塩代替による血圧低下が、脳卒中などの心血管リスクの低下や安全性のアウトカムへどのように影響するのかについては充分に検討されていません。
そこで今回は、中国農村部600村の住民を対象とした非盲検クラスターランダム化試験の結果をご紹介します。本試験の参加者は脳卒中の既往を有する、あるいは60歳以上かつ高血圧を有していました。本試験に参加した600村は、試験参加者が代替塩(質量比で塩化ナトリウム75%、塩化カリウム25%)を使用する介入群、あるいは通常の塩(塩化ナトリウム100%)を使用する対照群に1:1の割合でランダムに割り付けられました。
本試験の主要アウトカムは脳卒中、副次アウトカムは主要有害心血管イベントとあらゆる原因による死亡、安全性アウトカムは臨床的高カリウム血症とされました。
試験結果から明らかになったことは?
総計20,995例が試験に登録されました。平均年齢は65.4歳、女性49.5%、脳卒中の既往72.6%、高血圧の既往88.4%で、脳卒中と高血圧の合併症は認められませんでした。平均追跡期間は4.74年でした。
代替塩 | 通常の食塩 | 率比 (95%CI) P値 | |
脳卒中の発生率 (/1,000人・年) | 29.14件 | 33.65件 | 0.86 (0.77~0.96) P=0.006 |
主要心血管系イベント | 49. 09件 | 56.29件 | 0.87 (0.80~0.94) P<0.001 |
死亡 | 39.28件 | 44.61件 | 0.88 (0.82~0.95) P<0.001 |
脳卒中の発生率は、代替塩のほうが通常の食塩よりも低いことが示されました(29.14件 vs. 33.65件/1,000人・年、率比 0.86、95%信頼区間[CI] 0.77~0.96、P=0.006)。また、主要心血管系イベント(49. 09件 vs. 56.29件/1,000人・年、率比 0.87、95%CI 0.80~0.94、P<0.001)および死亡(39.28件 vs. 44.61件/1,000人・年、率比 0.88、95%CI 0.82~0.95、P<0.001)の発生率も低いことが示されました。
代替塩 | 通常の食塩 | 率比 (95%CI) P値 | |
高カリウム血症に起因する 重篤な有害事象の発生率 (/1,000人・年) | 3.35件 | 3.30件 | 1.04 (0.80〜1.37) P=0.76 |
高カリウム血症に起因する重篤な有害事象の発生率は、代替塩では通常の食塩と比較して有意な差は認められませんでした(3.35件 vs. 3.30件/1,000人・年、率比 1.04、95%CI 0.80〜1.37、P=0.76)。
コメント
中国人を対象とした脳卒中発生に対する減塩の効果を検証したクラスターランダム化比較試験。これまで、減塩による血圧低下は示されていましたが、その血圧低下により脳卒中や心血管イベントなどのハードアウトカムも減少するのかについてはエビデンスがありませんでした。
さて、本試験結果によれば、脳卒中の既往、あるいは60歳以上で高血圧を有する集団において、塩化ナトリウムの25%を塩化カリウムに置き換えることで、通常の食塩を摂取することと比較して、脳卒中、主要心血管イベント、全死亡の発生率が減少しました。率比から算出した脳卒中予防のNNTは8と、かなりインパクトのある値です(平均追跡期間:4.74年)。通常の食塩(塩化ナトリウム100%)のうち、25%を塩化カリウムに置き換えてみても良いのかもしれないですね。
食塩感受性高血圧がどの程度含まれていたのか気になるところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 脳卒中の既往、あるいは60歳以上で高血圧を有する集団において、脳卒中、主要心血管イベント、全死亡の割合は、代替食塩で通常の食塩よりも低かった。
根拠となった試験の抄録
背景:ナトリウム濃度を下げ、カリウム濃度を上げた食塩代替は血圧を下げることが示されているが、心血管や安全性のアウトカムへの影響は不明である。
方法:中国農村部600村の住民を対象とした非盲検クラスターランダム化試験を実施した。参加者は脳卒中の既往があるか、60歳以上かつ高血圧を有していた。村は、参加者が代替塩(質量比で塩化ナトリウム75%、塩化カリウム25%)を使用する介入群と、参加者が通常の塩(塩化ナトリウム100%)を使い続ける対照群に1:1の割合でランダムに割り付けられた。
主要アウトカムは脳卒中、副次アウトカムは主要有害心血管イベントとあらゆる原因による死亡、安全性アウトカムは臨床的高カリウム血症であった。
結果:総計20,995例が試験に登録された。平均年齢は65.4歳、女性49.5%、脳卒中の既往72.6%、高血圧の既往88.4%で、脳卒中と高血圧の合併症は認められなかった。平均追跡期間は4.74年であった。
脳卒中の発生率は、代替塩のほうが通常の食塩よりも低かった(29.14件 vs. 33.65件/1,000人・年、率比 0.86、95%信頼区間[CI] 0.77~0.96、P=0.006)。また、主要心血管系イベント(49. 09件 vs. 56.29件/1,000人・年、率比 0.87、95%CI 0.80~0.94、P<0.001)および死亡の発生率(39.28件 vs. 44.61件/1,000人・年、率比 0.88、95%CI 0.82~0.95、P<0.001)も低かった。
高カリウム血症に起因する重篤な有害事象の発生率は、代替塩では通常の食塩と比較して有意な差は認められなかった(3.35件 vs. 3.30件/1,000人・年、率比 1.04、95%CI 0.80〜1.37、P=0.76)。
結論:脳卒中の既往がある人、60歳以上で高血圧の人において、脳卒中、主要な心血管イベント、あらゆる原因による死亡の割合は、代替食塩で通常の食塩よりも低かった。
資金提供:オーストラリア国立保健医療研究評議会
SSaSS ClinicalTrials.gov number, NCT02092090.
引用文献
Effect of Salt Substitution on Cardiovascular Events and Death
Bruce Neal et al. PMID: 34459569 DOI: 10.1056/NEJMoa2105675
N Engl J Med. 2021 Sep 16;385(12):1067-1077. doi: 10.1056/NEJMoa2105675. Epub 2021 Aug 29.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34459569/
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