Mirabegron for the treatment of overactive bladder: a prespecified pooled efficacy analysis and pooled safety analysis of three randomised, double-blind, placebo-controlled, phase III studies.
Nitti VW et al.
Int J Clin Pract. 2013 Jul;67(7):619-32.
PMID: 23692526
利益相反の開示
→多いという印象。本文の disclosures 参照。
私的背景
前立腺癌および前立腺肥大症を合併する 85歳男性。カソデックス®(ビカルタミド)とハルナール®(タムスロシン)を服用中。最近、尿漏れ症状があるため家族の希望により薬剤追加。ベタニス®(ミラベグロン)が新規処方された。 本患者は心房細動および心不全も合併していたため、下記の禁忌項目にある重篤な心疾患についてどの程度の有害事象が報告されているのか論文検索を行い検討した。Pubmed 検索にて上記の論文がみつかったため読んでみた。
禁忌 (次の患者には投与しないこと)
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(ベタニス®錠の添付文書より引用)
結論
コントロール良好な心房細動および心不全合併例患者におけるミラベグロン使用は概ね安全である。しかし動悸や持続的な血圧上昇、特に尿閉症状が認められる場合は受診勧奨する必要がある。おちろん併用禁忌は避ける。
研究の背景(長いのですっ飛ばしてください)
過活動膀胱OverActive Bladder(OAB)は、尿失禁の有無にかかわらず通常、夜間頻尿および(トイレの)頻度があり 、感染やその他の明らかな病状を有していない尿意切迫感であると International Continence Societyによって定義されている。 OAB関連疾患あるいは症状を含む下部尿路症状は、一般集団の約半数で蔓延しており、しばしば衰弱し、患者の日常生活および生活の質に有意な影響を及ぼす。 OABは、ヨーロッパ、米国、および日本の成人人口の 12〜16%に影響を及ぼす。その有病率は年齢とともに増加し、65歳以上においては約 30%に影響を及ぼす。つまり OABは、高齢層における実質的な健康問題である。
正常な膀胱機能は、自律神経系の相乗作用によって調節される。副交感神経刺激は、ムスカリン受容体を介し排尿筋の収縮を刺激する。交感神経刺激は、β-アドレナリン受容体を介する排尿筋弛緩につながる。OABの中枢性病態生理は、求心性活動の増加、中枢神経系からの抑制制御の低下、あるいはこれらと同時に、または単独制御として副交感神経刺激に対する排尿筋の感受性増加の結果として排尿筋の不随意収縮と関連している。
本研究は排尿筋弛緩における β-アドレナリン受容体の役割解明のために、 β-アドレナリン受容体に対する効果的で耐容性のある薬剤を同定することを目的としていた。β3-アドレナリン受容体は、ヒト膀胱における主要な β-受容体サブタイプとして認識され、ヒト膀胱における総 β-アドレナリン受容体 mRNA発現は 97%であった。排尿筋弛緩における β3-アドレナリン受容体の重要性は、ヒト膀胱平滑筋切片を用いた in vitro 研究によって確認されている。動物モデルにおいて膀胱内の β-アドレナリン受容体の活性化が、膀胱基部の平坦化および伸長によって尿貯蔵を増加させることが示唆されている。さらに、β3-アドレナリン受容体の刺激は、排尿圧、残存容積または排尿収縮の変化無しに、膀胱容量の増加に寄与することが示されている。結果として、β3-アドレナリン受容体の刺激は、排尿収縮の振幅に影響を及ぼすことなく膀胱の貯蔵能力を増加させる。
日本、米国、カナダ、ヨーロッパで OAB症状の治療薬として認可されている β3-アドレナリン受容体アゴニストであるミラベグロンは、抗ムスカリン剤とは異なる作用機序を持つ新しいクラスの化合物である。ミラベグロンの推奨開始用量は、米国では 25mgで、個々の有効性と忍容性に基づいて 50mgに増やすことができる。一方、日本とヨーロッパでは 50mgで投与を開始する。また、いずれにおいても 100mg用量は承認されていない。
ミラベグロンの安全性については、米国/カナダで実施された 3つの大規模な 12週間の第III相試験(Study 047: NCT00662909); ヨーロッパとオーストラリア(Study 046: NCT00689104); ヨーロッパ/米国/カナダ (Study 074: NCT00912964)、これらを統合し評価した。一方、忍容性と優越性については、25mg(Study 074: NCT00912964 のみ)、50mg(3つすべての試験: Study 047, 046, 074)および 100mg (NCT00662909および NCT00689104: Study 047, 046)の用量について、OAB症状の治療効果をプラセボと比較した。
プールされた有効性分析において、ミラベグロン 25mg用量が解析前に特定され、単一試験に限られていたため除外された。安全性分析は、3つの第III相試験のすべてのデータの総計であり、ミラベグロン25、50および 100mg用量を含んでいた。これらのデータをプールすることにより、人口統計、投与以前の OAB歴および併存疾患の罹患率の観点から、一般的な OAB集団を代表する大規模データセットにおける有効性および安全性のさらなる分析が可能になる。特に、集団内の個々の試験で実証された有効性、安全性、耐容性のプロファイルと、治療群全体にわたる安全性データ報告を検討することが重要である。プールされたミラベグロンのデータ評価は、有益性リスク評価を知らせ、適切な用量選択を支援する。
PICOT
P: 3ヶ月以上、OABの症状がある 18歳以上の患者 run-in: ベースライン決定の為に 2週間の一重盲検化、プラセボ投与
I : ミラベグロン 25mg, 50mg, 100mg
C: Tolterodine ER 4mg(商品名:デトルシトール)
O:有効性 Primary — 1日の排尿回数および尿失禁回数 Key Secondary — ベースラインからの平均排尿量/回の変化、失禁回数/日の変化、平均排尿回数/日の変化
安全性(今回はここが知りたい)
T: 第 3相 DB-RCT 3件をプール解析(respecified pooled analysis*)、12週間追跡
組入基準
組入時のOAB症状:24時間以内の排尿回数が8回以上、3回以上の緊急エピソード(強度および緊急度スケール [PPIUS]の患者知覚にて評価、緊急度グレード 3あるいは4ならば該当)、そして尿失禁の有無。
除外基準
スクリーニンング時に、ストレス性(腹圧性)尿失禁あるいはストレス性優位の混合型尿失禁※、1日の尿量が 3000 mL以上の患者。
批判的吟味
ランダム割り付けされているか?(観察者バイアスはないか?)
→ 3試験いずれもランダム化比較試験
ブラインドされているか?(マスキングにより観察者バイアスは抑えられているか?)
→ されている。本文に二重盲検double-blind の記載あり
どのような種類の研究を調べたか?
→ ランダム化比較試験のみ(3件)。各々の試験開始前に登録していた試験の統合
プライマリーアウトカムは真か?明確か?
→ 効果・副作用ともに真と判断した
脱落はどのくらいか?
→ 群間差はなさそう。
placebo (3.3%)
mirabegron 25 mg (3.9%)
mirabegron 50 mg (3.9%)
mirabegron 100 mg (3.7%)
total mirabegron (3.8%)
tolterodine ER 4 mg (4.4%):アクティブコントロール
Baseline は同等か?
→ 概ね同等
ITT 解析されているか?
→ Full Analysis Set(FAS)
(Study schedule:本文より Figure 1 引用)
結果は?
有効性
(本文より Figure 4 引用)
→ ベタニス®50 mgと 100mgで差は認められませんでした。またプラセボでもベースラインから、これだけ下がるのはすごいなと感じました。まぁプラセボより効果あるから承認されているのですが。
有害事象
(本文より Table 3 引用)
→ Treatment-Emergent AEs(TEAE)は以下の通り。プラセボと差はほぼない。
プラセボ(47.7%)
ミラベグロン25mg(48.6%)
ミラベグロン50mg(47.1%)
ミラベグロン100mg(43.3%)
ミラベグロン総計(46.0%)
トルテロジン ER 4mg(46.7%)
ミラベグロン群の 3%超で報告された最も一般的な TEAEは、高血圧、鼻咽頭炎および尿路感染であった(Table 3参照)。
ミラベグロンの用量が 25mgから100mgに増加すると、高血圧および尿路感染の発生率は減少した。
ミラベグロン群の最も一般的な薬物関連 TEAEは、高血圧および頭痛であり、プラセボおよびトルテロジンと同様の発生率であったが、トルテロジン群ではプラセボと比べより高頻度で認められた。
AEの大部分は、治療群全体にわたる軽度または中等度の重症度であった。
血圧および脈拍のバイタルサイン測定において、SBPおよびDBP(午前および午後の測定値)のベースラインから最終来院時までの変化に対するプラセボとの調整平均差はごくわずかであり、各ミラベグロン群およびトルテロジンER 4mg群で同等であった。
脈拍数(AMおよびPM測定値)のベースラインから最終来院時までの変化に対するプラセボとの調整平均差は、ミラベグロン群で0.6~2.3bpm、トルテロジンER4mg群で1.0~2.1bpm、用量依存的に増加した。TEAEおよび/または患者日誌に記録された脈拍数100bpm以上の観察結果に基づく頻脈イベントの全体的な発生率は、各投与群で5%未満であり、プラセボと同程度であった。心電図検査の結果、治療群間で QTc 間隔の評価における中央傾向やカテゴリー的な異常値に明らかな傾向は見られなかった。腎機能パラメータを含む血液学および血清化学の変化は小さく、治療群間で同等であった。
コメント
今更感満載の薬ですが、どのような有害事象が報告されているのか知るには良い機会でした。併用禁忌以外は、慎重に体調変化や検査値を観察しつつ使用すれば害はそこまで多くなさそうという印象。脈拍数の増加については、これまでの報告と同様です。用量依存性が認められており、プラセボと比較して増加していますので、やはり、継時的にモニタリングする必要があるように考えます。一方、高血圧、鼻咽頭炎および尿路感染については、プラセボやトルテロジンと比較して、別段多くありませんでした。さらに心血管イベントやQTc間隔の延長や以上について、ミラベグロン群で認められていません。
念のため血圧は、脈拍数と合わせてモニタリングしたほうが良さそうですが、重篤な心疾患については、そこまで過敏になる必要はないのかもしれません。ただし、ミラベグロンを長期に使用した場合のリスクについては、充分に明らかにされていません。あくまでも「現時点において」ということを含みおきください。
✅まとめ✅ ミラベグロン使用による心血管イベントやQTc間隔の延長は認められなかったが、脈拍数及び血圧については、継続的にモニタリングしたほうが良いのかもしれない。
追加情報
① respecified pooled analysis:ランダム化比較試験(RCT)実施前に、予めプール解析する試験を指定しておき、各 RCT終了後にメタ解析する。今回の論文では試験デザインが類似している Study-046、-047、-074の 3件を予め指定していた。
② 尿失禁のタイプ:以下の 4つ。
・腹圧性尿失禁:骨盤底筋の筋力低下、これに伴い膀胱の位置が下がり、尿道を締める力が低下。何かの刺激で尿漏れが起きてしまう。ストレス性と尿失禁とも呼ばれる。
・切迫性尿失禁:急な尿意により、すぐに失禁してしまう。トイレまで保たないことが多い。神経異常あるいは加齢に伴う不安定膀胱が原因になることがある。
・溢流性尿失禁:イツリュウセイ尿失禁。糖尿病や前立腺肥大症により膀胱の収縮不全、排尿障害が併存することで膀胱が過剰に膨らむ。その結果、意図せずに尿が漏れ出てしまう。
・機能性尿失禁:身体的な機能低下、例えばサルコペニアやフレイルによる自立歩行困難、トイレを認知できない等が原因で失禁してしまう。排尿機能は正常。
③ 排尿量の目安:一般的に体内の老廃物を排泄するために必要な尿量は約 1000mL/日とされている。ただし腎臓の尿濃縮力が最大に機能した場合 700〜800mL/日まで減少する。また蛋白質や塩分制限食では、さらに減少する可能性がある。尿量は体重 1kgに対し 0.5mL/時が最低でも必要とされている。1回の排泄量は 200〜400mL、1日の排尿回数は 4〜8回が目安のようです。
例)60kgのヒト
・60kg × 0.5〜1mL/hr × 24hr = 720〜1440mL/day
・200〜400mL × 4〜8回 = 800〜3200mL/day
(一般的に 10回/day、2500mL/day以上は多い)
体全体の水分排泄量は成人において約 2300mLとのこと。内訳は、尿と便で約 1300mL、呼気中に約 600mL、皮膚からの蒸発で約 400mL。
④水分摂取量の目安:上記の水分排泄量を基にすると、日に約 2300mLの水分摂取が必要になるが、年齢や体型により異なる。また水やお茶で約 2300mL全てを補うわけでは無く、食物からの摂取分との合算量である。水分量として成人は 1日に約 1500mLが目安とのこと(新生児150ml/kg、幼児100ml/kg、成人50ml/kg、60歳以上40ml/kg)。
例)60kgのヒト
60kg × 40〜50ml/kg = 2400〜3000mL/day
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