経カテーテル的大動脈弁植え込み術後の抗凝固療法には何が良いのか?
経カテーテル的大動脈弁植え込み術(transcatheter aortic valve implantation, TAVI)を受け、かつ経口抗凝固療法の長期適応がない患者において、アスピリンと二重抗血小板療法(DAPT;アスピリン+クロピドグレル)の相対的な安全性と有効性については、依然として議論があります。
TAVI後の抗凝固療法には何が良いのか?今回は、TAVI後の患者を対象にアスピリンとDAPTによる有効性・安全性を比較したメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
研究11件、患者4,805例(アスピリン2,258例、DAPT2,547例)が定量的な分析に含まれました。
TAVI後の患者におけるアスピリン単独投与群は、DAPT(アスピリン+クロピドグレル)群と比較して、各アウトカムが有意に低いオッズ比を示しました。
アウトカム | オッズ比 (95%CI) | P値 |
全出血 | 0.41 (0.29~0.57) | p<0.00001 |
大出血 | 0.51 (0.34~0.77) | p=0.001 |
VARC-2 大出血 | 0.50 (0.30~0.83) | p=0.008 |
VARC-2 小出血 | 0.55 (0.31~0.97) | p=0.04 |
輸血の必要性 | 0.39 (0.15~0.98) | p=0.05 |
主要血管合併症 | 0.41 (0.26~0.66) | p=0.0002 |
生命を脅かす出血など重篤なアウトカムについては、2群間で有意差は認められませんでした。
アウトカム | オッズ比 (95%CI) | P値 |
VARC-2 生命を脅かす出血 | 0.52 (0.25~1.07) | p=0.08 |
人工弁血栓症 | 1.17 (0.22~6.30) | p=0.85 |
心タンポナーデ | 0.77 (0.20~2.98) | p=0.70 |
開胸手術への変更 | 1.99 (0.42~9.44) | p=0.39 |
心筋梗塞 | 0.79 (0.38~1.64) | p=0.52 |
一過性虚血発作(TIA) | 0.89 (0.12~6.44) | p=0.91 |
重篤な脳卒中 | 0.68 (0.43~1.08) | p=0.10 |
障害を伴う脳卒中 | 1.01 (0.41~2.48) | p=0.99 |
心血管死亡率 | 0.81 (0.38~1.74) | p=0.59 |
全死亡率 | 0.86 (0.63~1.16) | p=0.31 |
コメント
経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)後の抗凝固療法としては、侵襲性が少ないためか、DAPTではなくアスピリン単独投与で問題ないのかもしれません。
特に出血リスクの高い患者においては、DAPTによる出血リスク増加が懸念されますので、本試験結果は有益であると考えます。
✅まとめ✅ アスピリン単独投与のTAVI後患者は、DAPTを受けた患者と比較して、死亡率と脳卒中発症率に有意差はなく、出血性イベントが少なかった
根拠となった論文の抄録
背景:経皮的大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation, TAVI)を受け、かつ経口抗凝固療法の長期適応がない患者において、アスピリンと二重抗血小板療法(DAPT;アスピリン+クロピドグレル)の相対的な安全性と有効性については、依然として議論がある。
方法:デジタルデータベースを検索し、関連する論文を特定した。安全性の主要評価項目は出血であり、有効性の評価項目はTAVI後の虚血性および血栓性イベントであった。データはランダム効果モデルを用いて解析され、二分法の結果に対するプールされた未調整のオッズ比(OR)が算出された。
結果:研究11件、患者4,805例(アスピリン2,258例、DAPT2,547例)が定量的な分析に含まれた。アスピリン単独投与の患者は、全原因出血(OR 0.41、95%CI 0.29~0.57、p<0.00001)、大出血(OR 0.51、95%CI 0.34~0.77、p=0.001)、Valve Academic Research Consortium 2(VARC-2)の大出血(OR 0.50、95%CI 0.30~0.83 p=0.008)、VARC-2小出血(OR 0.55、95%CI 0.31~0.97、p=0.04)、輸血の必要性(OR 0.39、95%CI 0.15~0.98、p=0.05)、主要血管合併症(OR 0.41、95%CI 0.26~0.66、p=0.0002)が、アスピリンとクロピドグレルの両方を投与されたTAVI後の患者と比較して、有意に低いオッズ比を示した。
VARC-2の生命を脅かす出血(OR 0.52、95%CI 0.25~1.07、p=0.08)、人工弁血栓症(OR 1.17、95%CI 0.22~6.30、p=0.85)、心タンポナーデ(OR 0.77、95%CI 0.20~2.98、p=0.70)、開胸手術への変更(OR 1.99,95%CI 0.42~9.44、p=0.39)、心筋梗塞(OR 0.79、95%CI 0.38~1.64、p=0.52)、一過性虚血発作(TIA)(OR 0.89、95%CI 0.12~6.44、p=0.91)、重篤な脳卒中(OR 0.68、95%CI 0.43~1.08、p=0.10)、障害を伴う脳卒中(OR 1.01、95%CI 0.41~2.48、p=0.99)、心血管死亡率(OR 0.81、95%CI 0.38~1.74、p=0.59)、全死亡率(OR 0.86、95%CI 0.63~1.16、p=0.31)のオッズ比については、2群間で有意差は認められなかった。
結論:以上のことから、アスピリンのみを投与されたTAVI後患者は、DAPTを受けた患者と比較して、死亡率と脳卒中発症率に有意差はなく、出血性イベントが少なかった。
引用文献
Meta-Analysis Comparing the Safety and Efficacy of Single vs Dual Antiplatelet Therapy in Post Transcatheter Aortic Valve Implantation Patients
Am J Cardiol. 2021 Jan 15;S0002-9149(21)00045-X. doi: 10.1016/j.amjcard.2020.12.087. Online ahead of print.
Waqas Ullah et al. PMID: 33454348 DOI: 10.1016/j.amjcard.2020.12.087
ー続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33454348/
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