2型糖尿病及びインスリン治療による心血管イベントや死亡リスクへの影響はどのくらいですか?(韓国 人口ベース コホート研究; J Diabetes Investig. 2021)

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糖尿病治療におけるインスリン治療と心血管イベント発生リスク

糖尿病治療の目的は、健康人と変わらない生活を送ることです。この目的を実現するために心血管イベント(心筋梗塞、脳梗塞)や死亡の発生抑制を実現する必要があり、そのための治療目標として、血糖コントロールがあります。

現在では、血糖コントロールのための治療薬は多く上市されており、中でも血糖降下作用の強い治療薬としてインスリン及びスルホニルウレア系薬があります。特にインスリンによる血糖降下作用は強いため、重度の高血糖や血糖コントロール不良例に対して、糖毒性の解除を目的に使用されます。

過去の報告では、ランダム化比較試験において、インスリン使用による心血管イベントや死亡リスクの増加は認められていません。しかし、検討されたインスリン製剤が持効型であったり、フォローアップ期間が短かったりなど、試験デザインの限界があります。

そこで今回は、リアルワールドデータを用いた韓国人口ベースコホート研究の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

韓国の国民健康保険サービス-国民サンプルコホートデータベース(2002~2015年)を使用した縦断的な人口ベース研究では、ベースライン時にCVDを有さない40歳以上の成人のうち、糖尿病を有さない人、または最近2型糖尿病と診断された患者が抽出された(N=363,919)。

平均7.8年の間に心筋梗塞5,275件、脳卒中7,220件、死亡15,834件が発生しました。
各アウトカム(心筋梗塞、脳卒中、死亡)のハザードは、インスリン治療を受けた2型糖尿病群において、非糖尿病群よりも高く、インスリン治療を受けていない2型糖尿病群においても非糖尿病群よりも高いことが明らかとなりました。また、インスリン治療を受けていない2型糖尿病患者よりもインスリン治療を受けている2型糖尿病患者の方が高いことも明らかとなりました。

インスリン治療を受けた
2型糖尿病
vs.
非糖尿病
2型糖尿病
(インスリン治療なし)
vs.
非糖尿病
インスリン治療を受けた
2型糖尿病
vs.
2型糖尿病
(インスリン治療なし)
心筋梗塞2.344
(1.870〜2.938)
1.284
(1.159〜1.423)
1.914
(1.502〜2.441)
脳卒中2.420
(1.993〜2.937)
1.435
(1.320〜1.561)
1.676
(1.363〜2.060)
死亡3.037
(2.706〜3.407)
1.135
(1.067〜1.206)
2.535
(2.232〜2.880)
各アウトカムにおけるハザード比(95%CI)

つまり、各アウトカム(心筋梗塞、脳卒中、死亡)の発生リスクは、
インスリン治療を受けた2型糖尿病>2型糖尿病(インスリン治療なし)>>非糖尿病
であることが明らかとなりました。

アジア人である韓国人を対象とした人口ベースコホート研究の結果から、2型糖尿病かつインスリン治療を受けた患者において、各アウトカム(心筋梗塞、脳卒中、死亡)の発生リスクの高さが認められましたが、そもそもインスリン治療が必要な患者において、各アウトカム(心筋梗塞、脳卒中、死亡)の発生リスクが高い可能性があります(逆因果や因果の逆転と呼ばれます)。

現時点においては、インスリンの使用の有無に関わらず、血糖の乱高下を引き起こさずにコントロールすることが求められていると考えます。

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✅まとめ✅ 各アウトカム(心筋梗塞、脳卒中、死亡)の発生リスクは、
インスリン治療を受けた2型糖尿病>2型糖尿病(インスリン治療なし)>>非糖尿病
であることが示された。

根拠となった論文の抄録

目的・序論:韓国の成人を対象に、最近診断された2型糖尿病(5年未満の2型糖尿病)の有無とインスリン使用の有無に応じた心血管疾患(CVD)と早期全死亡のハザードを推定した。

方法:この縦断的な人口ベース研究には、韓国の国民健康保険サービス-国民サンプルコホートデータベース(2002~2015年)を使用した。ベースラインのCVDがない40歳以上の成人のうち、糖尿病を有さない人、または最近2型糖尿病と診断された患者を抽出した(N=363,919)。追跡期間中の心筋梗塞(MI)、脳卒中、全死亡のハザード比(HR)を、2型糖尿病の有無とインスリン使用の有無で分類した3つのグループに分けて分析した。

結果:平均7.8年の間に心筋梗塞5,275件、脳卒中7,220件、死亡15,834件が発生した。各アウトカムのハザードは、インスリン治療を受けた2型糖尿病群において、非糖尿病群よりも高く(HR(95%CI):心筋梗塞 2.344(1.870〜2.938)、脳卒中 2.420(1.993〜2.937)、死亡 3.037(2.706〜3.407))、インスリン治療を受けていない2型糖尿病群においても非糖尿病群よりも高かった(心筋梗塞 1.284(1.159〜1.423)、脳卒中 1.435(1.320〜1.561)、死亡 1.135(1.067〜1.206)。また、インスリン治療を受けていない2型糖尿病患者よりもインスリン治療を受けている2型糖尿病患者の方が高かった(心筋梗塞 1.914(1.502〜2.441)、脳卒中 1.676(1.363〜2.060)、死亡 2.535(2.232〜2.880)。

結論:最近診断された2型糖尿病患者では、CVDインシデントおよび早期死亡のリスクが上昇し、インスリン治療群では、これらのアウトカムのリスクがさらに上昇することが示され、インスリン治療を受けた2型糖尿病の成人に対して、心血管保護のための介入を強化する必要性が示唆された。

引用文献

Risk of early mortality and cardiovascular disease according to the presence of recently diagnosed diabetes and requirement for insulin treatment: A nationwide study
You-Bin Lee et al. PMID: 33662172 DOI: 10.1111/jdi.13539
J Diabetes Investig. 2021 Mar 4. doi: 10.1111/jdi.13539. Online ahead of print.
—続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33662172/

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