抗がん剤の効果や安全性に関する「不確実性」を説明すると、患者の治療選択は変わるのか?

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― 米国成人6,272人を対象とした2件のランダム化比較試験(JAMA Intern Med. 2026)

臨床疑問

新たに承認された抗がん剤について、有効性や安全性に関する科学的な不確実性を患者に説明した場合、薬剤を使用するという意思決定は変化するのだろうか?

また、説明する不確実性の種類や数によって、その影響は異なるのだろうか?

研究の背景

抗がん剤の承認とエビデンスの不確実性

新規抗がん剤は、生命予後の改善が期待される一方、承認時点で得られている臨床試験のエビデンスに限界が存在する場合がある。例えば、単群試験に基づく承認では、適切な比較対照がないため、観察された治療効果が薬剤によるものかを判断しにくい。また、無増悪生存期間や腫瘍縮小率などの代替評価項目が改善したとしても、それが必ずしも全生存期間の延長や生活の質の改善を意味するとは限らない。臨床試験の追跡期間が短い場合には、長期的な有効性や有害事象について十分な情報が得られていない可能性もある。さらに、臨床試験に参加した患者の背景が実際の患者集団と異なる場合、試験結果を個々の患者に適用できるかという問題が生じる。

こうした不確実性は、医療者にとっては研究デザインやエビデンス評価の問題として理解される。

しかし、患者にとっては「その薬が自分にどの程度役立つのか」、「副作用のリスクを受け入れる価値があるのか」という、より直接的な意思決定の問題となる。

不確実性を伝えることは、治療への信頼を損なうのか?

医療者が患者に対して不確実性を説明することには、難しさがある。十分な情報提供はインフォームド・コンセントや共同意思決定に不可欠である一方、不確実性を強調することで患者の不安が増加したり、医療への信頼が低下したりする可能性も考えられる。

そこで著者らは、新規抗がん剤の有効性・安全性に関する不確実性を平易な言葉で説明した場合に、薬剤の使用意向、効果に対する認識、不安、情報や規制当局への信頼がどのように変化するかを検証した。

研究の概要

PICO

項目内容
P(対象)米国の成人。年齢、性別、学歴、収入、人種・民族について国勢調査に合わせて募集された集団
I(介入)新規抗がん剤の有効性や安全性に関する不確実性を、平易な言葉で説明
C(比較)試験1:説明前後の同一群内比較。
試験2:不確実性を説明する介入群と対照群の比較
O(主要評価項目)新規抗がん剤を使用するという仮想的な意思決定の変化
研究デザイン2つのランダム化比較試験

研究期間と対象者

米国成人をオンラインで募集。6,272人は2試験を合わせた主要解析対象者数。対象者は、米国の人口構成を反映するように募集されている。

介入内容

本研究では、2つの試験で異なる問いを検証している。

試験1:不確実性の種類による影響

参加者は、次の5種類の不確実性のうち、いずれか1つを説明される群にランダムに割り付けられた。

不確実性患者にとっての意味
① 単群試験に基づくエビデンス比較対照群がないため、薬剤の効果を確実に判断しにくい
② 人種・民族の代表性が不十分自分と似た背景の患者で効果や安全性が十分に検証されていない
③ 試験期間が短い長期的な有効性や安全性が十分に分かっていない
④ 代替評価項目の使用測定された指標の改善が、患者にとって重要な利益につながるか不明な場合がある
⑤ 患者が実感できる改善が不明薬剤によって患者が実際に改善を感じられるか分かっていない

試験1では、不確実性を説明する前後で、抗がん剤を使用するという仮想的な意思決定がどの程度変化したかを評価した。

試験2:説明する不確実性の数による影響

試験2では、参加者を次の5群にランダムに割り付けた。

  • 不確実性を1つ説明する群
  • 不確実性を2つ説明する群
  • 不確実性を3つ説明する群
  • 不確実性を4つ説明する群
  • 対照群

試験2の主要評価項目は、介入群と対照群との間における、薬剤の使用意向の変化の差であった。

つまり、試験1では「どのような不確実性が意思決定に影響するのか」、試験2では「不確実性を複数説明すると影響が大きくなるのか」を検討したことになる。

試験結果から明らかになったことは?

試験1:不確実性の説明によって薬剤の使用意向が低下

試験1では、不確実性に関する情報を得ることによって、新規抗がん剤を使用するという仮想的な意思決定が平均10.1パーセントポイント低下した。

この結果は、抗がん剤の効果や安全性について不確実な点を説明すると、薬剤を使用したいと考える人の割合が低下することを示している。

なお、10.1 ppの低下は、使用意向が相対的に10.1%減少したという意味ではない。

不確実性の種類別の結果

抄録では、5種類すべての不確実性について、薬剤の使用意向が低下したと報告されている。

特に、次の2項目について具体的な結果が示されている。

説明された不確実性使用意向の変化95%信頼区間P値
患者自身が改善を実感できるか不明−14.1 pp−17.9~−10.4<0.001
自分と同様の人種・民族の患者で検証されていない−12.8 pp−16.4~−9.2<0.001
5種類の不確実性を通じた平均−10.1 pp−11.7~−8.5<0.001

最も注目したいのは、「患者が実際に改善を実感できるか分からない」という情報によって、使用意向が14.1 pp低下した点である。これは、患者にとって重要な治療効果が確認されているかどうかが、意思決定に影響する可能性を示唆している。また、人種・民族の代表性が不十分であることを説明した群でも、使用意向が12.8 pp低下した。この結果は、臨床試験の参加者と自分自身との類似性が、研究結果への信頼や治療選択に関係する可能性を示している。

ただし、これら2つの結果だけから、5種類の不確実性の厳密な順位を決定することはできない。抄録には、残り3種類の個別推定値や、群間の直接比較結果が示されていないためである。

試験2:不確実性の数が増えるほど使用意向が低下

試験2では、説明する不確実性が1つ増えるごとに、抗がん剤を使用するという仮想的な意思決定が低下した。著者らは、この結果を用量依存的な効果と表現している。ここでの「用量」とは薬剤の投与量ではなく、説明された不確実性の数を意味する。すなわち、複数の不確実性を知ることで、参加者の薬剤使用に対する判断がさらに慎重になった可能性がある。

ただし、抄録には各群の具体的な低下幅が示されていないため、1項目から4項目までの変化を数値化することはできない。

治療効果の認識、不安、信頼への影響

副次評価項目では、次の結果が報告された。

評価項目不確実性を説明した後の変化
薬剤の有効性に対する認識低下
情報やFDAに対する信頼低下
薬剤を使用することに伴う心配・不安明確な変化なし

不確実性の説明は、薬剤の有効性に対する認識や信頼を低下させた一方、薬剤使用に伴う心配・不安には影響しなかった。この結果は興味深い。不確実性を伝えることは、必ずしも患者の不安を強めるとは限らない可能性がある。

一方、情報や規制当局への信頼が低下したことは、重要な検討課題である。

ただし、信頼の低下が適切な情報更新によるものなのか、過度な不信につながるものなのかは、抄録の結果だけでは判断できない。

結果の解釈

「承認されている」ことと「効果が十分に確実である」ことは同じではない

医薬品が承認されていることは、規制当局による有効性・安全性の審査を経たことを意味する。しかし、それはすべての患者に対して、長期的な利益やリスクが完全に明らかになっていることを意味しない。本研究では、そのような不確実性を説明することによって、薬剤の使用意向が変化した。

この結果は、患者の意思決定が、治療効果の大きさだけでなく、その効果を裏付けるエビデンスの確実性にも影響される可能性を示している。

不確実性を伝えることは、治療を拒否させることとは異なる

本研究では、不確実性を説明すると薬剤の使用意向が低下した。しかし、使用意向が低下したこと自体を、良い結果とも悪い結果とも断定することはできない。患者が不確実性を理解したうえで薬剤を選択しないのであれば、それは本人の価値観に沿った意思決定である可能性がある。

反対に、不確実性の説明が不十分であったり、利益と不利益のバランスが偏って伝えられたりした結果、患者が有益な治療を避けたのであれば、望ましくない影響とも考えられる。

したがって、重要なのは使用意向を高めることでも低下させることでもなく、患者が利益、害、不確実性を理解し、自分の価値観に基づいて判断できることである。

批判的吟味(研究の限界)

① 仮想的な意思決定であり、実際の治療選択ではない

本研究の最大の限界は、主要評価項目が仮想的な薬剤使用の意思決定である点である。試験参加者は実際に抗がん剤を処方され、治療を開始するかどうかを判断したわけではない。実際のがん診療では、がん種、病期、予後、代替治療の有無、治療費、副作用、家族の意向など、さまざまな要素が意思決定に影響する。

そのため、仮想的な場面で10.1 ppの使用意向の低下が認められたとしても、実際の患者で抗がん剤の開始率が10.1 pp低下すると解釈することはできない。

② 対象者は一般成人であり、がん患者とは限らない

本研究では、米国の人口構成に合わせて一般成人を募集している。しかし、がんの診断を受けた患者と、健康な一般成人では、治療に対する考え方が異なる可能性がある。特に、生命を脅かす疾患に直面している場合には、不確実性があっても治療を希望する患者がいると考えられる。

したがって、本研究の結果を実際のがん患者へ一般化するには注意が必要である。

③ 試験1の主要評価項目は群内比較である

試験1では、参加者を5種類の不確実性の説明群にランダム化している。しかし、主要評価項目は、説明前後の同一群内における使用意向の変化である。そのため、平均10.1 ppの低下には、不確実性の説明そのものだけでなく、同じ質問を繰り返したことや、研究参加に伴う意識の変化などが影響している可能性がある。

一方、試験2では対照群との比較が行われており、この点を補完する設計となっている。試験1の群内変化と、試験2の群間差は、同じ効果推定値として扱ってはならない。

④ 説明する不確実性の内容によって結果が変わる可能性

本研究では、平易な言葉による説明が用いられた。しかし、同じ不確実性であっても、説明の表現、順序、情報量、具体例などによって受け手の印象が変化する可能性がある。例えば、「効果が確認されていない」という表現と「効果がないことが確認された」という表現では意味が異なる。また、利益についての情報をどの程度提示したかによっても、意思決定への影響は変わり得る。

したがって、本研究で観察された変化を、すべての不確実性の説明方法に一般化することはできない。

⑤ 使用意向の低下が、より良い意思決定を意味するとは限らない

本研究では、薬剤の使用意向、有効性に対する認識、不安、信頼などが評価された。しかし、抄録からは、参加者が説明内容をどの程度正確に理解したか、本人の価値観に沿った意思決定ができたか、意思決定後に後悔したかといった点は十分に確認できない。そのため、使用意向が低下したことを、共同意思決定の質が改善した証拠とみなすことはできない。

⑥ 信頼の低下について長期的な影響は不明

本研究では、不確実性を説明すると情報やFDAへの信頼が低下した。しかし、この変化が一時的なものなのか、長期的に持続するものなのかは、抄録から判断できない。また、信頼の低下が適切な懐疑的判断を反映するのか、医療全般への不信を生むのかも明らかではない。

患者への情報提供では、不確実性を隠さないことに加えて、何が分かっており、何がまだ分かっていないのかをバランスよく説明することが重要と考えられる。

⑦ 米国での研究であり、日本への一般化には限界がある

本研究は米国成人を対象としている。医療制度、医薬品承認制度、医療者への信頼、患者の意思決定への参加の程度などは、国によって異なる可能性がある。そのため、日本の患者に同様の説明を行った場合に、同程度の使用意向の変化が生じるかどうかは不明である。

日本の医療現場で応用するには、文化的背景や医療制度を考慮した検証が必要となる。

臨床への応用:薬剤師による情報提供

本研究は、抗がん剤の有効性や安全性について、どのように患者へ情報提供すべきかを考えるうえで示唆的である。例えば、抗がん剤について患者から「この薬は本当に効くのですか」と質問された場合、単に「臨床試験で効果が認められています」と説明するだけでは不十分な場合がある。

臨床試験で何を評価したのか、どのような患者が対象だったのか、長期的な利益が確認されているのかといった点も、必要に応じて説明することが望ましい。

確認する内容患者への説明例
試験デザイン「この薬の効果は、比較する薬を設けない試験で評価されています」
評価項目「腫瘍が小さくなる効果は確認されていますが、寿命を延ばす効果についてはまだ十分に分かっていません」
追跡期間「長期間使用した場合の効果や副作用には、まだ分かっていない点があります」
対象集団「臨床試験に参加した患者さんと、あなたとでは背景が異なる部分があります」
患者にとって重要な利益「検査値や画像上の改善が、日常生活で実感できる改善につながるかは、まだ十分に確認されていません」

これらは説明方法の例であり、すべての抗がん剤に当てはまるわけではない。実際には、対象薬剤の臨床試験結果に応じて内容を調整する必要がある。また、不確実性だけを強調するのではなく、確認されている利益や代替治療の選択肢についても説明することが重要である。

結論

米国成人6,272人を対象とした2つのランダム化比較試験では、新規抗がん剤の有効性や安全性に関する不確実性を説明することで、薬剤を使用するという仮想的な意思決定が変化した。試験1では、使用意向が平均10.1パーセントポイント低下し、試験2では、説明する不確実性の数が増えるほど使用意向が低下した。また、不確実性の説明は、薬剤の有効性に対する認識や信頼を低下させた一方、薬剤使用に伴う不安には明確な影響を与えなかった。本研究は、医薬品の有効性や安全性に関する不確実性も、患者の意思決定に影響する重要な情報であることを示している。

ただし、評価されたのは仮想的な意思決定であり、実際のがん患者の治療選択や治療成績への影響は明らかではない。

臨床では、不確実性を説明すること自体を目的とするのではなく、確認されている利益、潜在的な害、残された不確実性をバランスよく共有し、患者が自身の価値観に基づいて治療を選択できるよう支援することが重要と考えられる。

比較的新しい薬剤の使用において、不確実性があることは当然ですが、この不確実性を伝えることで薬剤を使用するという意思決定が低下する可能性が明らかとなりました。病期ステージにもよりますが、早く使用した方が予後が良好となる可能性もあります。特に前治療で奏功が認められず、選択肢が限られている患者において、不確実性が残存するとはいえ、治療をしないという選択ができないこともあるでしょう。

また、伝え方ひとつで患者の受ける印象はガラッと変わります。この点を踏まえて、不確実性に関する情報にフォーカスするのではなく、有効性・安全性、コストなどを踏まえて、総合的に判断できるサポートをした方が建設的であると考えられます。

今回の結果は米国で実施された研究であり、他の国や地域でも同様の結果が示されるのかは不明です。また、治療に対する意思決定の低下と実際に治療を選択するのかについては厳密には異なります。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

high angle shot of two doctors making a zoom call using a tablet computer

✅まとめ✅ 2件のランダム化比較試験の結果、新規抗がん剤の有益性とリスクに関する一般的な不確実性について知らされた場合、その薬剤を服用するという仮定的な意思決定が減少した。

根拠となった試験の抄録

研究の重要性:抗がん剤は、不確実な有効性とリスクに基づいて承認されることが多く、その不確実性は患者に伝えられていない。

目的:新規抗がん剤の有効性とリスクに関する不確実性を伝えることが、個人がその薬剤を服用するという仮定上の意思決定にどのような変化をもたらすかを評価すること。

研究デザイン、実施環境、および参加者:2つの無作為化臨床試験において、2025年5月9日から7月26日にかけて、オンラインを通じて、人口統計学的に多様な米国の成人(年齢、性別、教育レベル、所得、人種および民族について国勢調査データと照合された)を募集した。

介入:薬剤の有益性とリスクに関する不確実性を説明する平易な言葉による説明文。試験1では、参加者を5つの不確実性のうち1つに無作為に割り付けた:(1)単群試験デザイン、(2)人種および民族の観点から代表性を欠く対象集団、(3)研究期間が短い、(4)代替エンドポイント、または(5)顕著な改善が見られない。試験2では、参加者を1、2、3、または4つの不確実性のいずれか、あるいは対照群に無作為に割り付けた。

主要なアウトカムおよび測定項目:試験1における主要アウトカムは、新規抗がん剤を服用するという仮定上の決定の変化(群内差)であり、試験2における主要アウトカムは、仮定上の決定における群間差の変化(対照群対介入群)であった。副次アウトカムには、治療効果の認識、薬剤服用に伴う不安、および情報や米国食品医薬品局(FDA)に対する信頼が含まれた。

結果:主要解析には計6272名の成人が含まれた(うち女性3102名[49.5%])。試験1では、不確実性に関する情報を得たことで、薬剤を服用するという仮定的な意思決定が平均10.1パーセントポイント(pp;95%信頼区間[CI]:-11.7~-8.5 pp;P < 0.001)減少した。薬剤を服用するという仮定上の意思決定の減少は、すべての不確実性について観察された。これには、患者が薬剤によって改善を実感できるかどうかが不明であることを知らされた群(-14.1 pp;95% CI、-17.9~-10.4 pp; P < 0.001)や、同様の人種・民族の患者を対象とした研究が行われていないことを知らされたグループ(-12.8 pp;95% CI、-16.4~-9.2;P < 0.001)を含め、すべての不確実性において、薬剤を服用するという仮定上の決定の減少が認められた。試験2では、不確実性が1つ増えるごとに薬剤を服用するという仮定上の決定が減少し、用量依存的な効果が示された。不確実性について知らされることで、有効性の認識や信頼感は低下したが、不安には影響しなかった。

結論と意義:人口統計学的に多様な米国の成人を対象とした2つの無作為化臨床試験において、新規抗がん剤の有益性とリスクに関する一般的な不確実性について知らされた場合、その薬剤を服用するという仮定的な意思決定が減少した。

試験登録:ClinicalTrials.gov 識別番号:NCT06997185 および NCT07110597

引用文献

Communicating Uncertainties About the Benefits and Risks of New Cancer Drugs: Two Randomized Clinical Trials
Avi Cherla et al. PMID: 42862585 PMCID: PMC13659633 (available on 2027-10-12) DOI: 10.1001/jamainternmed.2026.4969
JAMA Intern Med. 2026 Oct 12:e264969. doi: 10.1001/jamainternmed.2026.4969.Online ahead of print.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42862585/

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