― HFrEFにおける“4剤併用”と“5剤併用”の有効性を検証した最新メタ解析 ―
- 研究の背景|ベリシグアトを追加した場合の更なる益とは?
- 📘 論文概要
- 🔍 解析された治療レジメン
- 試験結果から明らかになったことは?
- 🧠 この結果が示す臨床的意味
- ⚠️ 試験の限界(重要)
- 🧾 結果のまとめ
- コメント
- ✅まとめ✅ ランダム化比較試験のネットワークメタ解析の結果、HFrEF患者において現在推奨されている4剤併用療法(ARNi、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)が死亡率および罹患率を大幅に改善することを裏付けるものである。ベルシグアトを追加することで、4剤併用療法で得られる生存期間に加えて、約0.7年の生存期間延長が得られる可能性がある。しかしながら、これらの結果は単一試験の副次的評価項目から得られたものであるため、探索的な結果と捉えるべきである。
- 根拠となった試験の抄録
- 引用文献
研究の背景|ベリシグアトを追加した場合の更なる益とは?
心不全(Heart Failure:HF)の中でも、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)は予後不良であり、薬物治療の最適化が極めて重要とされています。
近年は、β遮断薬・ARNi・MRA・SGLT2阻害薬の「4剤併用療法」が標準治療として確立してきました。
今回ご紹介する論文は、2025年に発表された最新のネットワークメタ解析であり、
👉 「4剤併用療法に、さらにベリシグアト(vericiguat)を加えることで、生命予後はさらに改善するのか?」
という臨床的に非常に重要な問いを検証しています。
📘 論文概要
- 論文種別:ネットワークメタ解析(Network Meta-analysis)
- 対象患者数:103,754例
- 試験数:89件のランダム化比較試験(RCT)
- 対象疾患:HFrEF(左室駆出率低下型心不全)
- 主要評価項目:
- 全死亡
- 副次評価項目:
- 心血管死
- 心血管死または心不全入院
🔍 解析された治療レジメン
| 治療構成 | 内容 |
|---|---|
| 二剤療法 | ACE阻害薬 / ARB + β遮断薬 など |
| 三剤療法 | 上記 + MRA |
| 四剤療法(標準治療) | ARNi + β遮断薬 + MRA + SGLT2阻害薬 |
| 五剤療法(追加) | 四剤 + ベリシグアト |
※ARNi=アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬
※MRA=ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
※SGLT2i=SGLT2阻害薬
試験結果から明らかになったことは?
✅ 主な結果
● 全死亡リスクの低下(プラセボ比)
| 治療 | ハザード比(HR) | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 4剤併用療法 | 0.39 | 0.32–0.49 |
| 5剤併用療法 | 0.35 | 0.27–0.45 |
➡ 5剤併用は4剤併用よりもさらに死亡リスクを低下させた
● 70歳患者を想定した「延命効果」
BIOSTAT-CHFおよびASIAN-HFデータを用いた解析より:
| 治療 | 期待余命の延長 |
|---|---|
| 4剤併用 | +5.3年(95%CI 2.8–7.7) |
| 5剤併用 | +6.0年(95%CI 3.7–8.4) |
👉 ベリシグアト追加による上乗せ効果:約0.7年
🧠 この結果が示す臨床的意味
✔ 現在推奨されている
「ARNi+β遮断薬+MRA+SGLT2阻害薬」
は、死亡抑制効果として非常に強固である
✔ そこに
ベリシグアト(可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬)
を追加することで、さらなる予後改善の可能性
✔ 特に
・最近心不全増悪を起こした患者
・高リスクHFrEF患者
では検討余地あり
⚠️ 試験の限界(重要)
本研究は非常に大規模ですが、以下の点には注意が必要です。
① 直接比較試験ではない
- 本研究はネットワークメタ解析
- 実際に「4剤 vs 5剤」を直接比較したRCTではない
👉 間接比較に基づく推定である
② ベリシグアトの効果は「単一試験」が根拠
- 5剤併用の根拠は主にVICTOR試験(Vericiguat)1試験
- 著者自身も “exploratory” と明記している
③ 副作用・忍容性は十分に評価されていない
- 血圧低下
- 腎機能悪化
- 併用薬増加による服薬アドヒアランス低下
👉 実臨床では「理論上の最大治療」と「実行可能な治療」は異なる
④ 高齢者・フレイル患者の外挿性に限界
- RCTは比較的状態の安定した患者が中心
- 高齢・多疾患併存例への適用には慎重さが必要
🧾 結果のまとめ
✔ HFrEFでは4剤併用療法が依然として治療の柱
✔ ベリシグアト追加により、さらなる予後改善の可能性あり
✔ ただしエビデンスは間接的で、臨床判断が必須
✔ 実装には「患者背景・忍容性・ポリファーマシー」を考慮すべき
コメント
✍️ 薬剤師としての実践的視点
- まずは
👉 4剤が最大耐容量で導入されているか? - それでも増悪を繰り返す症例で
👉 ベリシグアトの適応を検討 - 服薬アドヒアランス・血圧・腎機能の確認が必須
試験結果をみてみると、ハザード比にほぼ違いはありません。期待余命の延長は約0.7年です。この結果の価値をどのようにとらえるのかは、医療者でも患者であっても異なると考えられます。
すくなくともHFrEF患者すべてにベルシグアトの使用を推奨できるほどの結果ではないと考えられます。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験のネットワークメタ解析の結果、HFrEF患者において現在推奨されている4剤併用療法(ARNi、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)が死亡率および罹患率を大幅に改善することを裏付けるものである。ベルシグアトを追加することで、4剤併用療法で得られる生存期間に加えて、約0.7年の生存期間延長が得られる可能性がある。しかしながら、これらの結果は単一試験の副次的評価項目から得られたものであるため、探索的な結果と捉えるべきである。
根拠となった試験の抄録
背景: 2022年に実施されたネットワークメタアナリシスでは、β遮断薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNi)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、およびナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2阻害薬)の併用が、左室駆出率低下型心不全(HFrEF)における全死亡率の低減に最も効果的であることが示されました。本研究では、VICTOR試験(慢性心不全患者を対象としたVericiguat Global Study)を含む、2022年以降の大規模ランダム化比較試験(RCT)を追加することで、治療効果の最新情報を検証しています。
目的: この研究の目的は、HFrEF 患者に対する薬物療法のレジメンを評価および比較することです。
方法: MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trialsデータベースを用いて、2025年4月までのHFrEF患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)を検索した。頻度主義ネットワークメタアナリシスを用いて、全死亡率(主要評価項目)、心血管死、および心血管死と心不全による入院の複合(副次評価項目)のHRを推定した。絶対的ベネフィットは、BIOSTAT-CHF(慢性心不全におけるテーラード治療のための生物学的研究)およびASIAN-HF(心不全におけるアジア人突然心臓死)コホートデータを用いて、生存年数の増加として定量化した。
結果: 本解析には、89件のランダム化比較試験に参加した103,754人の患者が含まれた。プラセボと比較して、ARNi、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬、およびベルシグアトの5剤併用療法は、全死亡率を最も効果的に低下させた(HR:0.35、95%信頼区間:0.27-0.45)。次いで、ARNi、β遮断薬、MRA、およびSGLT2阻害薬の4剤併用療法が有意に低下した(HR:0.39、95%信頼区間:0.32-0.49)。代表的な70歳の患者の場合、4剤併用療法(ARNi/β遮断薬/MRA/SGLT2i)では無治療と比較して生存年数が5.3年(95% CI: 2.8-7.7)延長し、5剤併用療法(ARNi/β遮断薬/MRA/SGLT2i/ベルシグアト)では生存年数が6.0年(95% CI: 3.7-8.4)延長しました。
結論: 本解析は、HFrEF患者において現在推奨されている4剤併用療法(ARNi、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)が死亡率および罹患率を大幅に改善することを裏付けるものである。ベルシグアトを追加することで、4剤併用療法で得られる生存期間に加えて、約0.7年の生存期間延長が得られる可能性がある。しかしながら、これらの結果は単一試験の副次的評価項目から得られたものであるため、探索的な結果と捉えるべきである。
キーワード: HFrEF、薬物療法、薬物療法
引用文献
Pharmacologic Treatment of Heart Failure With Reduced Ejection Fraction: An Updated Systematic Review and Network Meta-Analysis
Bart J van Essen et al. PMID: 40892608 DOI: 10.1016/j.jacc.2025.08.054
J Am Coll Cardiol. 2025 Dec 16;86(24):2513-2526. doi: 10.1016/j.jacc.2025.08.054. Epub 2025 Aug 30.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40892608/

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