心不全にシロスタゾールは使用できないのか?
シロスタゾール(cilostazol、商品名:プレタール)は、末梢動脈疾患(PAD)に対する第一選択薬として広く使用されている抗血小板薬です。一方で、心不全患者では使用を避けるべき薬剤として米国の添付文書や診療ガイドラインで注意喚起されています。また、日本では「うっ血性心不全」に禁忌とされています。
では、糖尿病患者において、シロスタゾール使用は心不全による入院(HHF:hospitalization for heart failure)のリスクと関連するのでしょうか。
今回ご紹介する論文は、台湾の大規模保険データベースを用い、ケースクロスオーバー研究という手法でこの点を検討した研究です。
試験結果から明らかになったことは?
◆背景
シロスタゾールはホスホジエステラーゼ3(PDE3)阻害作用を持ち、血管拡張や抗血小板作用を示します。しかし、PDE3阻害薬は心拍数増加や心筋収縮力への影響を介して、心不全を悪化させる可能性が理論的に指摘されています。
これまで、心不全患者における使用回避の根拠は主に薬理学的推論や小規模試験に基づくものであり、実臨床データを用いた大規模検証は限られていました。
◆研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | ケースクロスオーバー研究 |
| データソース | 台湾国民健康保険データベース |
| 対象 | 2009–2011年に心不全入院した20歳以上の糖尿病患者 |
| 解析対象数 | 47,506例 |
| 平均年齢 | 72.7 ± 12.4歳 |
| 男性割合 | 48% |
| ケース期間 | 心不全入院の1–30日前 |
| 対照期間 | 心不全入院の91–120日前 |
| 評価項目 | シロスタゾール使用と心不全入院(HHF)との関連 |
| 解析指標 | 調整オッズ比(OR) |
※ケースクロスオーバー研究では、同一患者内での曝露の有無を比較するため、性別や遺伝的背景などの時間不変因子は自動的に調整されます。
◆試験結果
主解析結果
| ケース期間のみシロスタゾール使用 | 対照期間のみシロスタゾール使用 | 調整OR(95%信頼区間) |
|---|---|---|
| 399例(0.84%) | 252例(0.53%) | 調整OR 1.35(1.14~1.59) |
👉 他剤併用を調整後も、シロスタゾール使用と心不全入院リスクとの有意な関連が認められました。
感度解析(対照期間を変更)
| 対照期間 | 調整OR(95%CI) |
|---|---|
| 31–60日前 | 調整OR 1.43(1.14~1.79) |
| 61–90日前 | 調整OR 1.31(1.09~1.57) |
| 121–150日前 | 調整OR 1.23(1.06~1.44) |
👉 対照期間を変更しても結果は一貫しており、解析の頑健性が示唆されました。
試験の限界
本研究には、以下のような限界があります。
- 観察研究であり因果関係は証明できない
ケースクロスオーバー研究は交絡を減らす工夫はされていますが、因果関係を直接示すものではありません。 - 心不全の重症度や病型が不明
データベース研究のため、左室駆出率(HFrEF / HFpEF)やNYHA分類などの臨床情報は取得できていません。 - 薬剤使用は処方情報ベース
実際の服薬遵守状況(アドヒアランス)は評価できません。 - 適応交絡(confounding by indication)の可能性
下肢虚血が悪化した患者ほど、心不全入院リスクが高い可能性があり、完全には除外できません。 - 対象は糖尿病患者に限定
非糖尿病患者に同様の結果が当てはまるかは不明です。
臨床的な示唆
- 糖尿病患者において、シロスタゾール使用と心不全入院リスク上昇との関連が示唆された
- 特に心不全リスクを有する患者では、処方時に慎重な判断が求められる
- 末梢動脈疾患治療では、心血管リスク全体を考慮した薬剤選択が重要
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◆まとめ
本研究は、台湾の大規模保険データを用いたケースクロスオーバー解析により、糖尿病患者におけるシロスタゾール使用が心不全入院(HHF)と関連する可能性を示しました。
ただし、観察研究であることから、結果の解釈には注意が必要であり、機序解明や前向き研究による検証が今後の課題とされています。
シロスタゾール(商品名:プレタール)の添付文書の記載によれば、以下のような記載があり、シロスタゾールを使用した臨床試験でリスク評価が行われたわけではありません。
本剤はPDE3阻害作用を有する薬剤である。海外においてPDE3阻害作用を有する薬剤(ミルリノン1)、ベスナリノン2))に関しては、うっ血性心不全(NYHA分類Ⅲ~Ⅳ)患者を対象にしたプラセボ対照長期比較試験において、生存率がプラセボより低かったとの報告がある。また、うっ血性心不全を有しない患者において、本剤を含むPDE3阻害剤を長期投与した場合の予後は明らかではない。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ クロスオーバー試験の結果、シロスタゾールの使用は、心不全のリスクと正の相関関係にある可能性がある。
根拠となった試験の抄録
背景と目的:末梢動脈疾患の第一選択薬であるシロスタゾールは、うっ血性心不全(HF)患者には使用を避けるべきと示唆されている。本研究の目的は、糖尿病患者におけるシロスタゾール使用に伴う心不全(HHF)による入院リスクを評価することであった。
方法:本症例クロスオーバー研究では、2009年から2011年の間に心不全で入院した20歳以上の糖尿病患者の記録を台湾国民健康保険データベースから取得した。「現在」期間はHHF発症前1~30日と定義し、HHF発症前91~120日を「参照」期間とした。事象直前の曝露状況は、事象発生前の1つ以上の参照期間における同一人物の曝露状況と比較した。調整オッズ比(OR)は、症例期間中にシロスタゾールのみに曝露された人数と対照期間中にシロスタゾールのみに曝露された人数の比として、時間によって変化する不一致な曝露を推定するために使用された。
結果:合計47,506人の糖尿病患者が解析に含まれた(平均年齢:72.7 ± 12.4歳、男性の割合:48%)。合計399人(0.84%)が現在の期間にシロスタゾールのみを投与され、252人(0.53%)が参照期間にシロスタゾールのみを投与された。他の薬剤について調整後、シロスタゾールとHHFの間に有意な関連性が認められた(OR:1.35、95%CI:1.14~1.59)。時間によって変化する併存疾患についてさらに調整した後も、ORは基本的に同じままであった。対照期間の定義を異なるもの(指標日前31~60日、61~90日、121~150日)とした感度分析の結果、調整オッズ比はそれぞれ1.43(95%信頼区間:1.14~1.79)、1.31(95%信頼区間:1.09~1.57)、1.23(95%信頼区間:1.06~1.44)となり、本研究結果の堅牢性を示唆しています。
結論:シロスタゾールの使用は、心不全のリスクと正の相関関係にある可能性があります。その根底にあるメカニズムを解明し、関連性を確認するための更なる研究が必要です。
キーワード: 症例クロスオーバー研究、シロスタゾール、糖尿病、心不全による入院、アウトカム
引用文献
Risk of Heart Failure Hospitalization Associated With Cilostazol in Diabetes: A Nationwide Case-Crossover Study
Cho-Kai Wu et al. PMID: 30666197 PMCID: PMC6330376 DOI: 10.3389/fphar.2018.01467
Front Pharmacol. 2019 Jan 7:9:1467. doi: 10.3389/fphar.2018.01467. eCollection 2018.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30666197/

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