~アスピリン vs. クロピドグレル~
アスピリンとクロピドグレル、どちらが有利か?
安定冠動脈疾患(stable CAD)患者では、PCI後の長期管理として抗血小板薬単剤療法が行われます。
しかし、虚血リスクが高い患者(High Ischemic Risk:HIR)において、アスピリンとクロピドグレルのどちらが適しているのかについては、明確な結論はありませんでした。
今回ご紹介する研究は、HOST-EXAM Extended Study の事後解析として、虚血リスクの高低別に、アスピリン単剤とクロピドグレル単剤の長期転帰を比較したものです。
試験結果から明らかになったことは?
◆研究の概要
研究デザイン
- 無作為化比較試験(HOST-EXAM Extended Study)の事後解析
- 対象:PCI後、安定期に移行した冠動脈疾患患者
- 抗血小板薬単剤療法:
- アスピリン単剤
- クロピドグレル単剤
High Ischemic Risk(HIR)の定義
以下を満たす患者をHIRと定義:
- 糖尿病 または 慢性腎臓病の既往
+ - 以下のうち1項目以上
- 左主幹部PCI
- 分岐部病変に対するステント留置
- 総ステント長 > 60mm
- 3本以上のステント留置
- 3病変以上治療
- 慢性完全閉塞(CTO)病変の存在
◆評価項目
- 主要評価項目(複合エンドポイント)
- 全死亡
- 非致死性心筋梗塞
- 脳卒中
- 急性冠症候群による再入院
- 大出血合併症
◆試験結果
① 虚血リスク別のイベント発生率
| 比較 | 主要評価項目発生率 | ハザード比 HR(95%CI) | p値 |
|---|---|---|---|
| HIR群 vs 非HIR群 | 19.4% vs 13.9% | 1.52(1.37–1.68) | <0.001 |
② HIR群における抗血小板薬単剤の比較
| 治療 | 主要評価項目発生率 | HR(95%CI) | p値 |
|---|---|---|---|
| クロピドグレル | 16.4% | 0.67(0.49–0.92) | 0.014 |
| アスピリン | 23.2% | 参照 | — |
③ 非HIR群における抗血小板薬単剤の比較
| 治療 | 主要評価項目発生率 | HR(95%CI) | p値 |
|---|---|---|---|
| クロピドグレル | 12.1% | 0.74(0.64–0.87) | <0.001 |
| アスピリン | 15.7% | 参照 | — |
④ HIRと治療戦略の交互作用
| 解析項目 | 結果 |
|---|---|
| HIR × 抗血小板薬の交互作用 | 有意差なし(p=0.53) |
新知見として何が示された研究なのか?
本研究では、
- 虚血リスクが高い患者(HIR)ほど、全体としてイベント発生率は高い
- クロピドグレル単剤は、HIR・非HIRいずれの患者群においても、アスピリン単剤より主要複合エンドポイントが少なかった
- 虚血リスクの高低によって、クロピドグレルの相対的有効性が変わるわけではなかった
という結果が示されています。
試験の限界
本研究を解釈するうえで、以下の重要な限界があります。
- 事後解析(post hoc analysis)である
- 研究は当初から「HIR患者における最適単剤療法」を主要目的として設計されたものではない
- 未調整交絡の影響を完全には除外できない
- シトクロームP450(CYP)遺伝子多型を踏まえた調整がなされていない
- HIRの定義は本研究独自
- 他試験やガイドラインと完全に一致する定義ではなく、臨床現場でそのまま一般化できるとは限らない
- 出血イベントの詳細評価には限界
- 主要評価項目に「大出血」は含まれているが、出血リスクと虚血抑制のバランスを詳細に検討する設計ではない
- 複合イベントであるため、個々の事象の発生数が不明(有料文献であるため詳細を確認できない)
- 民族的背景が限定的
- 主にアジア人集団(韓国の多施設)でのデータであり、他人種への外的妥当性には慎重な解釈が必要
得られた結果をどう考察するか
本研究は、
「安定冠動脈疾患の長期単剤療法=アスピリンが標準」
という従来の固定観念に対し、再考を促すエビデンスです。
ただし、
- 本研究のみで治療方針を一律に変更すべきではない
- 出血リスク、併用薬、患者背景を踏まえた個別判断が前提
である点は強調されるでしょう。
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◆まとめ
- 安定CAD患者において、クロピドグレル単剤はアスピリン単剤より有害事象が少なかった
- この傾向は、虚血リスクが高い患者でも低い患者でも共通
- ただし、本研究は事後解析であり、臨床適用には慎重な解釈が必要
今後、虚血リスクの高い患者背景を前提とした前向き試験が実施されるかが注目されます。
東アジア人(韓国)を対象とした研究結果であるため、日本人においても結果を外挿できる可能性が高いと考えられます。
遺伝子多型の差異等を踏まえた上で、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の事後解析の結果、安定したCAD患者の長期追跡調査では、虚血リスクに関係なく、クロピドグレル単独療法はアスピリンよりも有害な臨床転帰を減らす上で有意な利点があることが示された。
根拠となった試験の抄録
背景: 高虚血リスク(HIR)を有する安定冠動脈疾患(CAD)患者に対する最適な抗血小板単剤療法は未だ確立されていない。本研究では、この患者集団におけるアスピリン単剤療法とクロピドグレル単剤療法の長期転帰を比較した。
方法: 本研究は、HOST-EXAM Extended Studyの事後解析である。HIRは、糖尿病または慢性腎臓病の既往歴を有し、かつ以下のうち少なくとも1つを有する患者と定義した:左主幹部経皮的冠動脈インターベンション、ステント留置による分岐部病変の治療、ステント全長60mm超、ステント留置3本以上、治療済み病変3箇所以上、または慢性完全閉塞病変の存在。主要評価項目は、全死因死亡、非致死性心筋梗塞、脳卒中、急性冠症候群による再入院、および重大な出血性合併症の複合であった。
結果: 4,558人の患者のうち、HIR群には803人、非HIR群には3,755人が含まれた。主要評価項目は、HIR群の方が非HIR群よりも高かった(19.4% vs. 13.9%、ハザード比(HR)1.52 [95%信頼区間(CI)1.37-1.68]、p < 0.001)。クロピドグレル単剤療法は、HIR群(16.4% vs. 23.2%、HR 0.67、95%信頼区間(CI)0.49-0.92、p = 0.014)および非HIR群(12.1% vs. 15.7%、HR 0.74 [95%信頼区間(CI)0.64-0.87]、p < 0.001)において主要評価項目のリスクが低かった。 HIR 状態と抗血小板戦略の間には有意な相互作用は認められなかった (相互作用の p = 0.53)。
結論: 安定したCAD患者の長期追跡調査では、HIRの状態に関係なく、クロピドグレル単独療法はアスピリンよりも有害な臨床転帰を減らす上で有意な利点があることが示されました。
臨床試験登録番号: NCT02044250
キーワード: アスピリン、出血、クロピドグレル、薬剤溶出ステント、高虚血リスク、虚血性、経皮的冠動脈介入、血栓性
引用文献
Long-Term Clopidogrel vs Aspirin Monotherapy in coronary artery disease patients with High Ischemic Risk: HOST-EXAM Extended Study Post Hoc Analysis
Jin-Eun Song et al. PMID: 41453443 DOI: 10.1016/j.cjca.2025.11.051
Can J Cardiol. 2025 Dec 24:S0828-282X(25)01576-4. doi: 10.1016/j.cjca.2025.11.051. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41453443/


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