静脈血栓塞栓症に対するGLP-1
肥満は静脈血栓塞栓症(VTE)の確立されたリスク因子であり、糖尿病や肥満を対象とした研究から、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RAs)がVTEリスクを減少させる可能性が示唆されています。しかし、これまでの知見は主に観察研究に基づいており、ランダム化比較試験(RCTs)に基づいた明確なエビデンスは限られていました。
そこで今回は、GLP-1RAsがVTEに及ぼす影響をRCTのデータから検討したメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
◆方法
- 試験デザイン:システマティックレビューおよびメタ解析
- 対象:2型糖尿病または肥満患者を対象としたプラセボ対照RCT
- 検索範囲:データベース5種類(~2024年10月まで)
- 解析対象:27試験、84,003人
- 評価項目:
- 主要アウトカム:VTE(肺塞栓症、深部静脈血栓症、その他のVTEを含む複合)
- 副次アウトカム:各イベント(PE、DVT、その他のVTE)
◆主な結果
アウトカム | GLP-1RA群 発症率中央値 | プラセボ群 発症率中央値 | リスク比 RR(95%CI) | 有意差 |
---|---|---|---|---|
VTE全体 | 1.1/1000人・年 | 2.5/1000人・年 | RR 0.70 (0.46–1.07) | なし |
肺塞栓症 (PE) | – | – | RR 0.60 (0.39–0.94) | 減少あり |
深部静脈血栓症 (DVT) | – | – | RR 1.21 (0.69–2.12) | 差なし |
その他のVTE | – | – | RR 0.56 (0.25–1.26) | 差なし |
◆考察
- 全体としてのVTEリスクはGLP-1RAsとプラセボで有意差がなかったものの、肺塞栓症(PE)のリスクは有意に低下していました。
- 一方、DVTやその他のVTEについては有意差がなく、GLP-1RAsの作用が部位によって異なる可能性が示唆されます。
- 本研究は27件のRCTを対象とした大規模解析であり、これまで観察研究に依存していた知見にRCTベースの補強を与える重要な報告です。
◆試験の限界
- VTEイベント自体が比較的まれであり、統計的検出力に限界がある。
- 各RCTのVTE関連データは二次的アウトカムで収集された可能性があり、事前にVTEを主要評価とした試験は少ない。
- 集団は2型糖尿病または肥満患者に限られており、一般人口への外挿には注意が必要。
◆まとめ
- GLP-1受容体作動薬は全体のVTEリスク低下には明確な効果を示さなかった。
- しかし、肺塞栓症(PE)の発症リスクを有意に低下させる可能性がある。
- 今後はVTEを主要評価項目とした大規模RCTが求められる。
どのような機序で肺塞栓症の発症リスクを低下させるのか、基本的なメカニズムの解析も求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 27件のメタ解析の結果、GLP-1RA は全体的なVTEリスクの有意な低下とは関連していなかったが、2 型糖尿病または肥満の患者におけるPEのリスク低下と関連していた。
根拠となった試験の抄録
背景: 肥満は静脈血栓塞栓症(VTE)の確立された危険因子である。観察データは、グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬(GLP-1RA)がVTEのリスクを低減する可能性を示唆している。しかしながら、GLP-1RAのVTEに対する効果はランダム化比較試験(RCT)で検証されていない。
目的: RCT データを使用して、GLP-1RA が VTE リスクに与える影響を調査する。
方法: 2型糖尿病(T2DM)または肥満患者におけるGLP-1RAの使用に焦点を当てたプラセボ対照RCTのシステマティックレビューおよびメタアナリシスを実施した。5つのデータベースを発足当初から2024年10月まで検索した。主要評価項目はVTE(肺塞栓症(PE)、深部静脈血栓症、および他部位のVTEの複合)とし、副次評価項目は個々のイベントとした。
結果: 84,003名の患者を対象とした27件のRCTを解析した。VTE発生率の中央値は、GLP-1RA群とプラセボ群でそれぞれ1,000患者年あたり1.1件と2.5件であった。GLP-1RA群とプラセボ群の間で、全体的なVTEリスクに統計学的有意差は認められなかった(リスク比[RR] 0.70、95%信頼区間[CI] 0.46-1.07)。しかし、GLP-1RA群はPEリスクを有意に低下させた(RR 0.60、95%信頼区間[CI] 0.39-0.94)。対照的に、深部静脈血栓症(RR 1.21、95%CI、0.69-2.12)または他の部位のVTE(RR 0.56、95%CI、0.25-1.26)のリスクには有意差は認められなかった。
結論: このランダム化試験のメタ分析では、GLP-1RA は全体的なVTEリスクの有意な低下とは関連していなかったが、2 型糖尿病または肥満の患者におけるPEのリスク低下と関連していた。
キーワード: グルカゴン様ペプチド 1 受容体作動薬、肺塞栓症、静脈血栓塞栓症
引用文献
Glucagon-like peptide 1 receptor agonists and risk of venous thromboembolism: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials
Cho-Han Chiang et al. PMID: 40602613 DOI: 10.1016/j.jtha.2025.06.020
J Thromb Haemost. 2025 Jun 30:S1538-7836(25)00409-X. doi: 10.1016/j.jtha.2025.06.020. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40602613/
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