現代の更年期ホルモン療法と心血管疾患リスクとの関連性はどのくらいですか?(スウェーデン全国登録に基づく模擬標的試験; BMJ. 2024)

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ホルモン補充療法による心血管イベントの発生リスクは?

更年期障害に対してホルモン補充療法がおこなわれますが、副作用として心血管イベントのリスク増加が報告されています。しかし、薬剤間の比較や組み合わせ、投与経路などによる影響については検証されていません。

そこで今回は、現代の更年期ホルモン療法が心血管疾患リスクに及ぼす影響について、投与経路やホルモンの組み合わせによって評価することを目的に実施された標的試験模倣研究の結果をご紹介します。

本研究は、全国規模の登録に基づく模擬標的試験であり、スウェーデンの全国登録がベースとなりました。試験参加者は、スウェーデンの人口から同定された、過去2年間にホルモン療法を使用していない2007~2020年の間において50~58歳の女性919,614人でした。

2007年7月から2018年12月まで毎月開始する138件のnested試験(繰り返しのエントリーを許容)が計画されました。特定の月の処方登録データを用いて、過去2年間にホルモン療法を使用していない女性を、経口複合連続投与群、経口複合逐次投与群、経口非対抗エストロゲン投与群、経口エストロゲン局所黄体ホルモン併用投与群、tibolone(チボロン*)投与群、経皮複合投与群、経皮非対抗エストロゲン投与群、閉経期ホルモン療法非開始群の8つの治療群のいずれかに割り付けました。
*合成ホルモンでありエストロゲンやプロゲステロン、アンドロゲンと同様の効果を有する。

本研究の主要評価項目は静脈血栓塞栓症、虚血性心疾患、脳梗塞、心筋梗塞であり、ハザード比と95%信頼区間を個別に、また複合心血管病転帰として推定されました。

治療効果は「intention-to-treat」解析に類似した観察的解析では開始者と非開始者を対比し「per protocol」解析では継続的使用者と未使用者を対比して推定されました。

試験結果から明らかになったことは?

合計77,512人の女性がいずれかの更年期ホルモン療法を開始し、842,102人の女性が非開始者でした。

(イベントが記録された女性 24,089人)イベント発生数(割合)
虚血性心疾患イベント10,360人(43.0%)
脳梗塞イベント4,098人(17.0%)
心筋梗塞イベント4,312人(17.9%)
静脈血栓塞栓イベント9,196人(38.2%)

追跡期間中に24,089人の女性にイベントが記録されました:虚血性心疾患イベント10,360人(43.0%)、脳梗塞イベント4,098人(17.0%)、心筋梗塞イベント4,312人(17.9%)、静脈血栓塞栓イベント9,196人(38.2%)。

Intention-to-treat解析ハザード比 HR
(95%CI)
心血管疾患リスク
(チボロン vs. 非投与群)
HR 1.52(1.11〜2.08
虚血性心疾患リスク
(チボロンまたは経口エストロゲン・プロゲスチン療法の開始者)
チボロン:HR 1.46(1.00~2.14
経口エストロゲン・プロゲスチン療法:HR 1.21(1.00~1.46
静脈血栓塞栓症リスク経口エストロゲン・プロゲスチン持続療法:HR 1.46(1.00~2.14
逐次療法:HR 2.00(1.61~2.49
エストロゲン単独療法:HR 1.57(1.02~2.44

Intention-to-treat解析において、チボロンは非投与群に比して心血管疾患リスクの上昇と関連していました(ハザード比 1.52、95%信頼区間 1.11〜2.08)。チボロンまたは経口エストロゲン・プロゲスチン療法の開始者は虚血性心疾患のリスクが高いことが示されました(それぞれ1.46、1.00~2.14および1.21、1.00~1.46)。

静脈血栓塞栓症のリスクは、経口エストロゲン・プロゲスチン持続療法(1.61、1.35~1.92)、逐次療法(2.00、1.61~2.49)、エストロゲンのみの療法(1.57、1.02~2.44)で高いことが示されました。

Per Protocol解析ハザード比 HR
(95%CI)
脳梗塞リスクHR 1.97(1.02~3.78
心筋梗塞リスクHR 1.94(1.01~3.73

プロトコールごとの追加解析の結果、チボロンの使用は脳梗塞(1.97、1.02~3.78)および心筋梗塞(1.94、1.01~3.73)の高リスクと関連していました。

コメント

現代の更年期ホルモン療法が心血管疾患リスクに及ぼす影響についての検証は充分ではありません。

さて、スウェーデンの全国データベースを用いた標的試験模倣研究の結果、経口エストロゲン・プロゲスチン療法の使用は心臓病および静脈血栓塞栓症のリスク上昇と関連していました。一方、チボロン(本邦未承認)の使用は虚血性心疾患、脳梗塞、心筋梗塞のリスク上昇と関連しましたが、静脈血栓塞栓症のリスク上昇とは関連していませんでした。

チボロンは本邦未承認であり、かつ海外で脳卒中リスクの増加が報告されていること、すでに承認されている薬剤が充分にあること、副作用の発生頻度のより低い新薬が承認されていることなどの理由から、日本でチボロンが承認される可能性は低いと考えられます。

また、経口エストロゲン・プロゲスチン療法と一言でいっても、用いられる薬剤・用量が異なることから、個別の薬剤についての評価が求められます。更なる検証が求められるところです。

続報に期待。

経口エストロゲン・プロゲスチン療法に使用される薬剤一覧

商品名一般名(用量)黄体ホルモン主な使用法
ルナベルLD
※ジェネリック医薬品の商品名はフリウェルLD
ノルエチステロン・エチニルエストラジオール(1mg/0.035mg)ノルエチステロン(NET) 月経困難症 
ルナベルULD
※ジェネリック医薬品の商品名はフリウェルULD
NET・エチニルエストラジオール(1mg/0.02mg)NET 月経困難症
ヤーズ
※ジェネリック医薬品の商品名はドロエチ
ドロスピレノン・エチニルエストラジオールドロスピレノン(DRSP)月経困難症
ヤーズフレックス ドロスピレノン・エチニルエストラジオールDRSP 月経困難症、子宮内膜症にともなう月経痛の改善
ジェミーナレボノルゲストレル・エチニルエストラジオールレボノルゲストレル(LNG) 月経困難症、生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整
アリッサ エステトロール水和物・ドロスピレノンDRSP 月経困難症 
プラノバールノルゲストレル・エチニルエストラジオールノルゲストレル機能性子宮出血、月経困難症、月経周期異常(稀発月経、頻発月経)又は生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整、過多月経、子宮内膜症、卵巣機能不全
attentive female counselor listening to male patient

✅まとめ✅ スウェーデンの全国データベースを用いた標的試験模倣研究の結果、経口エストロゲン・プロゲスチン療法の使用は心臓病および静脈血栓塞栓症のリスク上昇と関連した。一方、チボロンの使用は虚血性心疾患、脳梗塞、心筋梗塞のリスク上昇と関連したが、静脈血栓塞栓症のリスク上昇とは関連しなかった。

根拠となった試験の抄録

目的:現代の更年期ホルモン療法が心血管疾患リスクに及ぼす影響を、投与経路やホルモンの組み合わせによって評価すること。

試験デザイン:全国規模の登録に基づく模擬標的試験

試験設定:スウェーデンの全国登録。

試験参加者:スウェーデンの人口から同定された、過去2年間にホルモン療法を使用していない2007~2020年の50~58歳の女性919,614人。

介入:2007年7月から2018年12月まで毎月開始する138件のnested試験(繰り返しのエントリーを許容)が計画された。特定の月の処方登録データを用いて、過去2年間にホルモン療法を使用していない女性を、経口複合連続投与群、経口複合逐次投与群、経口非対抗エストロゲン投与群、経口エストロゲン局所黄体ホルモン併用投与群、tibolone(チボロン*)投与群、経皮複合投与群、経皮非対抗エストロゲン投与群、閉経期ホルモン療法非開始群の8つの治療群のいずれかに割り付けた。
*合成ホルモンでありエストロゲンやプロゲステロン、アンドロゲンと同様の効果を有する。

主要評価項目:静脈血栓塞栓症、虚血性心疾患、脳梗塞、心筋梗塞であり、ハザード比と95%信頼区間を個別に、また複合心血管病転帰として推定した。治療効果は「intention-to-treat」解析に類似した観察的解析では開始者と非開始者を対比し「per protocol」解析では継続的使用者と未使用者を対比して推定した。

結果:合計77,512人の女性がいずれかの更年期ホルモン療法を開始し、842,102人の女性が非開始者であった。追跡期間中に24,089人の女性にイベントが記録された:虚血性心疾患イベント10,360人(43.0%)、脳梗塞イベント4,098人(17.0%)、心筋梗塞イベント4,312人(17.9%)、静脈血栓塞栓イベント9,196人(38.2%)。intention-to-treat解析において、チボロンは非投与群に比して心血管疾患リスクの上昇と関連していた(ハザード比 1.52、95%信頼区間 1.11〜2.08)。チボロンまたは経口エストロゲン・プロゲスチン療法の開始者は虚血性心疾患のリスクが高かった(それぞれ1.46、1.00~2.14および1.21、1.00~1.46)。静脈血栓塞栓症のリスクは、経口エストロゲン・プロゲスチン持続療法(1.61、1.35~1.92)、逐次療法(2.00、1.61~2.49)、エストロゲンのみの療法(1.57、1.02~2.44)で高かった。プロトコールごとの追加解析の結果、チボロンの使用は脳梗塞(1.97、1.02~3.78)および心筋梗塞(1.94、1.01~3.73)の高リスクと関連していた。

結論:経口エストロゲン・プロゲスチン療法の使用は心臓病および静脈血栓塞栓症のリスク上昇と関連した。一方、チボロンの使用は虚血性心疾患、脳梗塞、心筋梗塞のリスク上昇と関連したが、静脈血栓塞栓症のリスク上昇とは関連しなかった。これらの所見は、異なるホルモンの組み合わせや投与方法が心血管疾患のリスクに及ぼす多様な影響を浮き彫りにするものである。

引用文献

Contemporary menopausal hormone therapy and risk of cardiovascular disease: Swedish nationwide register based emulated target trial
Therese Johansson et al. PMID: 39603704 PMCID: PMC11600536 DOI: 10.1136/bmj-2023-078784
BMJ. 2024 Nov 27:387:e078784. doi: 10.1136/bmj-2023-078784.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39603704/

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