妊娠中のメトホルミン使用による出生児への影響は?
メトホルミンは広く用いられており、特に海外では妊娠糖尿病に使用可能であり、母体の体重増加や妊娠高血圧症候群、児の新生児低血糖のリスクを低減することが報告されています(注意:日本の添付文書においては妊婦又は妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌。2024年5月現在)。このため妊婦へも使用されることがありますが、胎児・出生児への影響に関するデータの蓄積・評価が求められています。
そこで今回は、妊娠中の母親のメトホルミン使用が子供の神経発達転帰に及ぼす影響を検討することを目的に実施されたメタ解析の結果をご紹介します。
本解析で使用されたデータベースは、MEDLINE、Embase、Web of Science(Core Collection)であり、開始時から2023年7月1日まで検索されました。
何らかの適応で妊娠のいずれかの時期にメトホルミンによる治療を受けた女性が対象であり、その子孫の神経発達データが入手可能な研究が解析対象となりました。対照群の設定されていない研究は除外されました。ランダム化比較試験、症例対照研究、コホート研究、横断研究がレビューの対象となりました。
研究は組み入れのためにスクリーニングされ、2人のレビュアーにより独立してデータが抽出されました。バイアスのリスクは、非ランダム化試験についてはNewcastle-Ottawa Scaleの修正版、ランダム化試験についてはRisk of Bias 2ツールにより評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
合計7件の研究が組み入れ基準を満たし、これには曝露され14歳まで追跡された7,641人の小児を含む14,042人のコホートが含まれました。
相対リスク (95%信頼区間) | |
乳児期の神経発達遅延 | 相対リスク 1.09 (0.54〜2.17) 3試験;9,668人 |
3~5歳時の神経発達遅延 | 相対リスク 0.90 (0.56〜1.45) 2試験;6,118人 |
妊娠中のメトホルミン使用は、乳児期の神経発達遅延(相対リスク 1.09、95%信頼区間 0.54〜2.17;3試験;9,668人)および3~5歳時の神経発達遅延(相対リスク 0.90、95%信頼区間 0.56〜1.45;2試験;6,118人)とは関連しませんでした。
平均差 (95%信頼区間) | |
運動スコア | 平均差 0.30 (-1.15 ~ 1.74) 3研究;714人 |
認知スコア | 平均差 -0.45 (-1.45~0.55) 4研究;734人 |
妊娠中のメトホルミン使用は、非服用群と比較した場合、運動スコア(平均差 0.30、95%信頼区間 -1.15 ~ 1.74;3研究;714人)や認知スコア(平均差 -0.45、95%信頼区間 -1.45~0.55;4研究;734人)の変化とは関連していませんでした。
組み入れられた研究は質が高く、バイアスのリスクは低いと判断されました。
コメント
妊娠中の母親のメトホルミン使用が子供の神経発達転帰に及ぼす影響については、充分に検証されていません。
さて、メタ解析の結果、メトホルミンの胎内曝露は、14歳までの小児における神経発達の有害な転帰とは関連していませんでした。
運動スコアや認知スコアへの影響も認められませんでしたが、組み入れられた研究数・症例数が限られています。今後の研究結果により結果が覆る可能性があります。とはいえ、現段階においては妊娠中のメトホルミン使用による胎児への影響はあまりないようです。
より長期的な影響についての検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ メタ解析の結果、メトホルミンの胎内曝露は、14歳までの小児における神経発達の有害な転帰とは関連していなかった。
根拠となった試験の抄録
目的:本研究の目的は、妊娠中の母親のメトホルミン使用が子供の神経発達転帰に及ぼす影響を検討することである。
データ源:MEDLINE、Embase、Web of Science(Core Collection)を開始時から2023年7月1日まで検索した。
研究適格基準:何らかの適応で妊娠のいずれかの時期にメトホルミンによる治療を受けた女性を対象とし、その子孫の神経発達データが入手可能な研究を対象とした。対照群のない研究は除外した。ランダム化比較試験、症例対照研究、コホート研究、横断研究がレビューの対象となった。
方法:研究は組み入れのためにスクリーニングされ、2人のレビュアーが独立してデータを抽出した。バイアスのリスクは、非ランダム化試験についてはNewcastle-Ottawa Scaleの修正版を、ランダム化試験についてはRisk of Bias 2ツールを用いて評価した。
結果:合計7件の研究が組み入れ基準を満たし、これには曝露され14歳まで追跡された7,641人の小児を含む14,042人のコホートが含まれた。妊娠中のメトホルミン使用は、乳児期の神経発達遅延(相対リスク 1.09、95%信頼区間 0.54〜2.17;3試験;9,668人)および3~5歳時の神経発達遅延(相対リスク 0.90、95%信頼区間 0.56〜1.45;2試験;6,118人)とは関連しなかった。妊娠中のメトホルミン使用は、非服用群と比較した場合、運動スコア(平均差 0.30、95%信頼区間 -1.15 ~ 1.74;3研究;714人)や認知スコア(平均差 -0.45、95%信頼区間 -1.45~0.55;4研究;734人)の変化とは関連していなかった。組み入れられた研究は質が高く、バイアスのリスクは低いと判断された。
結論:メトホルミンの胎内曝露は、14歳までの小児における神経発達の有害な転帰とは関連していないようである。これらの知見は、妊娠中のメトホルミン使用を検討している臨床医や妊婦に安心感を与えるものである。
キーワード:小児の発達、妊娠糖尿病、メトホルミン、子孫
引用文献
Metformin in pregnancy and childhood neurodevelopmental outcomes: a systematic review and meta-analysis
Hannah G Gordon et al. PMID: 38460832 DOI: 10.1016/j.ajog.2024.02.316
Am J Obstet Gynecol. 2024 Mar 7:S0002-9378(24)00430-7. doi: 10.1016/j.ajog.2024.02.316. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38460832/
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