厳格な血糖コントロールの再検討:血糖降下作用と主要有害心血管イベントの発生に関連性はあるのか?(RCTのSR&MA; Diabetes Obes Metab. 2022)

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2型糖尿病患者の主要有害心血管イベント(MACE)予防におけるHbA1c低下に相関はあるのか?

2型糖尿病の治療は、血糖コントロールですが、これは糖尿病に特徴的な合併症や糖尿病に起こりやすい併発症の発症、増悪を防ぐことで、健康人と変わらない生活の質(quality of life:QOL)を保ち、健康人と変わらない寿命を全うするためです。つまり血糖コントロールは手段であり、目的は健康人と変わらない寿命を全うすることにあります(糖尿病診療ガイドライン2019より一部改変)。心血管イベントの発生を抑制することは、米国や英国などでは一般的な治療戦略に組み込まれますが、日本人は白人と比較して、ベースラインの心血管リスクが低いことから、あまり重要視されていない”印象”です。

糖尿病治療薬(抗糖尿病薬)により、心血管イベント抑制効果について検証された試験(Cardiovascular outcome trial, CVOT)の結果に差があります。多くの薬剤でプラセボに対する非劣性が示されています。一方、優越性まで示されている薬剤は限られており、GLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬が該当します。試験が実施された年代や参加者集団が異なることから、クラスエフェクトなのか否かについて結論は得られていません。

これまでの報告によれば、早期の厳格な血糖コントロールは微小血管合併症の発生を抑制するものの、大血管合併症については、一部のイベントでのみ発生抑制効果が示されており、結果の一貫性は示されていません。

そこで今回は、2型糖尿病(T2D)患者の主要有害心血管イベント(MACE)予防におけるヘモグロビンA1c(HbA1c)低下および抗糖尿病薬使用の重要性を明らかにすることを目的に実施された、ランダム化比較試験の因果関係付き有向非巡回グラフを用いたシステマティックレビューの結果をご紹介します。

本試験では、成人T2D患者における低血糖リスクの少ない抗糖尿病薬の相対的な有効性と安全性を評価しました。本試験の対象となったのは、大規模ランダム化比較試験でした。HbA1c低下とその後の大血管および細小血管イベントのリスクとの関連を検討するために混合効果メタ回帰が実施されました。また、抗糖尿病薬とMACEの関係において、HbA1c低下による媒介作用の可能性についても評価されました。

試験結果から明らかになったことは?

155,610例の参加者からなる18件のプラセボ対照試験が含まれました。治療効果はほとんどの有害事象で抗糖尿病薬のクラスによって異なり、異質性が高いことが示されました(I2 63.7〜95.8%)。

平均HbA1c低下率
DPP-4阻害薬0.30%
SGLT2阻害薬0.46%
GLP-1受容体作動薬0.58%
チアゾリジン系薬剤0.60%

平均HbA1c低下率は、DPP-4阻害薬が最も低く(0.30%)、次いでSGLT2阻害薬(0.46%)であり、そしてGLP-1受容体作動薬(0.58%)とチアゾリジン系薬剤(0.60%)で最も高いことが示されました。

MACEの相対リスクの低下は、薬物クラスで調整した後でも、達成されたHbA1cの減少が大きいほど有意に関連していました(β -0.3182、95%CI -0.5366 〜 -0.0998; p=0.0043)。

HbA1c低下を制御すべき媒介と考えた場合、特定の抗糖尿病治療によるMACEに対する有益な効果は認められませんでした(χ2=1.4494;p=0.6940)。

HbA1c低下を媒介とする割合は、これらの抗糖尿病薬で50.0%~63.5%でした。

コメント

抗糖尿病薬による血糖降下作用と心血管イベントとの関連性については結論が得られていません。特定の薬効群によって心血管イベントの発生抑制効果が得られたのか、血糖降下作用に伴う心血管イベントの発生抑制効果が得られたのか、検証することが求められます。

さて、本試験結果によれば、抗糖尿病薬の主な効果は、血糖値の低下に起因すると考えられ、一般に使用する薬剤に依存しないようでした。MACEリスクの低減効果は、低血糖リスクの少ない抗糖尿病薬によってもたらされるHbA1c減少の程度に比例していました。つまり、血糖降下薬の種類に関わらず、血糖降下作用が大きいほど、MACEの発生リスクが低下することになります。

本試験で用いられた手法(Causal Directed Acyclic Graph)について少し調べてみました。Directed acyclic graph(DAG)は、日本語では、有向非巡回グラフと呼ばれます。これは数学のグラフ理論という分野における一つの閉路のない有向グラフのことを指しています。因果推論では、変数の関係を考えることが主要な観点になります。今回の試験ではCasal DAGs(因果的有向非巡回グラフ)が用いられており、これによって変数間に関連が示された場合、このCausal DAGsでは「集団内において少なくとも一人は直接的な因果関係(Directed Causal effect)がある」ということを表しています。ただし、このDAGsの難しい点として、①その効果が予防的なものか、有害であるのかという効果の方向性を表現できない、②その効果の大きさを示すことが出来ない、③複数の原因の相互的な作用を表現できない点があげられます。

ランダム化比較試験においては、因果関係(Causation)があれば相関(Association)もある、因果関係がないからといって相関がないわけではない、以上の2点を抑えておく必要があります。本試験結果から、薬効群に関係なく血糖降下作用が大きいほどMACEリスクの低減が得られることが明らかとなりました。しかし、未知の交絡因子を調整しきれていない可能性があります。追試が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 抗糖尿病薬の主な効果は、血糖値の低下に起因すると考えられ、一般に使用する薬剤に依存しないようであった。MACEリスクの低減効果は、低血糖リスクの少ない抗糖尿病薬によってもたらされるHbA1c減少の程度に比例していた。

根拠となった試験の抄録

目的:2型糖尿病(T2D)患者の主要有害心血管イベント(MACE)予防におけるヘモグロビンA1c(HbA1c)低下および抗糖尿病薬使用の重要性を明らかにした。

材料と方法:成人T2D患者における低血糖リスクの少ない抗糖尿病薬の相対的な有効性と安全性を評価した現代の大規模ランダム化比較試験の最新のシステマティックレビューを実施した。HbA1c低下とその後の大血管および細小血管イベントのリスクとの関連を検討するために混合効果メタ回帰を行った。抗糖尿病薬とMACEの関係において、HbA1c低下による媒介作用の可能性を評価した。

結果:155,610例の参加者からなる18件のプラセボ対照試験が含まれた。治療効果はほとんどの有害事象で抗糖尿病薬のクラスによって異なり、異質性が高かった(I2 63.7〜95.8%)。平均HbA1c低下率は、DPP-4阻害薬が最も低く(0.30%)、次いでSGLT2阻害薬(0.46%)であり、そしてGLP-1受容体作動薬(0.58%)とチアゾリジン系薬剤(0.60%)で最も高いことが示された。MACEの相対リスクの低下は、薬物クラスで調整した後でも、達成されたHbA1cの減少が大きいほど有意に関連していた(β -0.3182、95%CI -0.5366 〜 -0.0998; p=0.0043)。HbA1c低下を制御すべき媒介と考えた場合、特定の抗糖尿病治療によるMACEに対する有益な効果は認められなかった(χ2=1.4494;p=0.6940)。HbA1c低下を媒介とする割合は、これらの抗糖尿病薬で50.0%~63.5%であった。

結論:抗糖尿病薬の主な効果は、血糖値の低下に起因すると考えられ、一般に使用する薬剤に依存しない。MACEのリスク軽減は、低血糖の危険性の少ない抗糖尿病薬によってもたらされるHbA1cの減少の大きさに比例していた。

キーワード:抗糖尿病薬、心血管イベント、ジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬、グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬、ヘモグロビンA1c、メタ解析、ピオグリタゾン、危険因子、ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害剤、2型糖尿病

引用文献

Revisiting “Intensive” Blood Glucose Control: A Causal Directed Acyclic Graph-guided Systematic Review of Randomized Controlled Trials
Chi-Jung Huang et al. PMID: 35848464 DOI: 10.1111/dom.14819
Diabetes Obes Metab. 2022 Jul 18. doi: 10.1111/dom.14819. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35848464/

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