リキシセナチドはパーキンソン病に有効なのか?
糖尿病治療に用いられるグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1 RA)であるリキシセナチドは、パーキンソン病モデルマウスにおいて神経保護作用を示しました。しかし、実臨床における検証は充分ではありません。
そこで今回は、パーキンソン病患者の運動障害の進行に対するリキシセナチドの効果を評価した第2相二重盲検ランダム化プラセボ対照試験の結果をご紹介します。対象はパーキンソン病と診断されて3年未満であり、症状治療のために安定した用量の薬物投与を受けており、運動合併症のない参加者でした。試験参加者は、リキシセナチドまたはプラセボを12ヵ月間毎日皮下投与する群に1:1の割合でランダムに割り付けられ、その後2ヵ月のウォッシュアウト期間が設けられました。
本試験の主要エンドポイントは、MDS-UPDRS(Movement Disorder Society-Unified Parkinson’s Disease Rating Scale)パートIII(スコアの範囲は0~132で、スコアが高いほど運動障害が強いことを示す)のベースラインからの変化で、12ヵ月後の投薬中の患者で評価されました。
副次的エンドポイントとしては、6ヵ月、12ヵ月、14ヵ月時点の他のMDS-UPDRSサブスコアとレボドパ相当量が含まれました。
試験結果から明らかになったことは?
合計156人が登録され、78人が各群に割り付けられました。ベースライン時のMDS-UPDRSパートIIIスコアは両群とも約15点でした。
MDS-UPDRS part IIIのスコア | リキシセナチド群 | プラセボ群 | 群間差 (95%信頼区間 ) |
ベースライン | 約15点 | 約15点 | – |
12ヵ月後の変化 | -0.04点 | 3.04点 | 差 3.08 (0.86~5.30) P=0.007 |
12ヵ月後、MDS-UPDRS part IIIのスコアはリキシセナチド群で-0.04点(改善を示す)、プラセボ群で3.04点(障害の悪化を示す)変化しました(差 3.08、95%信頼区間 0.86~5.30;P=0.007)。
2ヵ月のウォッシュアウト期間を経た14ヵ月後の投薬中止状態におけるMDS-UPDRS運動スコアの平均は、リキシセナチド群で17.7点(95%信頼区間 15.7~19.7)、プラセボ群で20.6点(95%信頼区間 18.5~22.8)でした。
その他の副次的エンドポイントに関する結果は両群間に大きな差はありませんでした。
吐き気はリキシセナチド投与群の46%にみられ、嘔吐は13%にみられました。
コメント
グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1 RA)であるリキシセナチドは、神経保護作用を有している可能性があります。
さて、ランダム化比較試験の結果、初期のパーキンソン病患者において、リキシセナチド療法は第2相試験で12ヵ月時点の運動障害の進行をプラセボより抑制しました。一方で、嘔気(46%)・嘔吐(13%)等の消化器系の副作用が高頻度で認められました。
ちなみに、MDS-UPDRS(part III)のMCID推定値は最小限ではあるものの臨床的に適切な改善を検出した場合は -3.25ポイント、悪化を観察した場合は4.63ポイントであることが報告されています。
より長期的に観察することで、リキシセナチド療法の有効性が示される可能性があり、第3相試験の結果が待たれます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、初期のパーキンソン病患者において、リキシセナチド療法は第2相試験で12ヵ月時点の運動障害の進行をプラセボより抑制したが、消化器系の副作用を伴った。
根拠となった試験の抄録
背景:糖尿病治療に用いられるグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1 RA)であるリキシセナチドは、パーキンソン病モデルマウスにおいて神経保護作用を示した。
方法:この第2相二重盲検ランダム化プラセボ対照試験では、パーキンソン病患者の運動障害の進行に対するリキシセナチドの効果を評価した。パーキンソン病と診断されて3年未満で、症状治療のために安定した用量の薬物投与を受けており、運動合併症のない参加者を、リキシセナチドまたはプラセボを12ヵ月間毎日皮下投与する群に1:1の割合でランダムに割り付け、その後2ヵ月のウォッシュアウト期間を設けた。
主要エンドポイントは、MDS-UPDRS(Movement Disorder Society-Unified Parkinson’s Disease Rating Scale)パートIII(スコアの範囲は0~132で、スコアが高いほど運動障害が強いことを示す)のベースラインからの変化で、12ヵ月後の投薬中の患者で評価された。副次的エンドポイントとしては、6ヵ月、12ヵ月、14ヵ月時点の他のMDS-UPDRSサブスコアとレボドパ相当量が含まれた。
結果:合計156人が登録され、78人が各群に割り付けられた。ベースライン時のMDS-UPDRSパートIIIスコアは両群とも約15点であった。12ヵ月後、MDS-UPDRS part IIIのスコアはリキシセナチド群で-0.04点(改善を示す)、プラセボ群で3.04点(障害の悪化を示す)変化した(差 3.08、95%信頼区間 0.86~5.30;P=0.007)。2ヵ月のウォッシュアウト期間を経た14ヵ月後の投薬中止状態におけるMDS-UPDRS運動スコアの平均は、リキシセナチド群で17.7点(95%信頼区間 15.7~19.7)、プラセボ群で20.6点(95%信頼区間 18.5~22.8)であった。その他の副次的エンドポイントに関する結果は両群間に大きな差はなかった。吐き気はリキシセナチド投与群の46%にみられ、嘔吐は13%にみられた。
結論:初期のパーキンソン病患者において、リキシセナチド療法は第2相試験で12ヵ月時点の運動障害の進行をプラセボより抑制したが、消化器系の副作用を伴った。パーキンソン病患者におけるリキシセナチドの効果と安全性を明らかにするためには、より長期で大規模な試験が必要である。
資金提供:フランス保健省 他
試験登録:ClinicalTrials.gov番号, NCT03439943
引用文献
Trial of Lixisenatide in Early Parkinson’s Disease
Wassilios G Meissner et al. PMID: 38598572 DOI: 10.1056/NEJMoa2312323
N Engl J Med. 2024 Apr 4;390(13):1176-1185. doi: 10.1056/NEJMoa2312323.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38598572/
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