フェイスマスク着用に伴うストレスに対するアロマは有効か?
COVID-19のパンデミックでは、ウイルスの空気感染を防ぐため、患者や健康な人にフェイスマスクが推奨されました。これに伴い、マスク着用中にストレスを感じる人が増加しました。COVID-19流行の収束は困難であることから、定期的なマスク着用が求められる背景から、マスク着用に伴うストレスを軽減する方法が求められています。
そこで今回は、マスクにアロマシールを貼ることによるストレス緩和効果を調べたランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験では、62人の大学生を対象に二重盲検ランダム化比較試験が行われました。参加者はランダムに2群に振り分けられ、試験期間中1日1回マスクにシールを貼るよう指示されました。介入群はアロマシール使用群と呼ばれ、柑橘系の癒し効果を期待してオレンジライムのエッセンシャルオイルを染み込ませたアロマシールが用いられました。一方、非介入グループはプラセボシール使用グループと呼ばれ、アロマを使用せずに同じシールが使用されました。
本試験の主要評価項目はDASS-21(Depression, Anxiety, and Stress Scale-21)であり、副次評価項目はマスク着用に伴う息苦しさの評価とWHO-5(World Health Organization Five Well-Being Index)でした。
試験結果から明らかになったことは?
DASS-21総スコア | 最小二乗平均差の群間差 (95%CI) | 効果サイズ |
1週目 | −4.70 (−8.55 〜 −0.86) p=0.02 | 0.63 |
2週目 | −2.61 (−5.10 〜 −0.12) p=0.04 | 0.54 |
アロマシール使用群では、介入2週目までにDASS-21総スコアと抑うつスコアがベースライン値と比較して有意な改善を示しました。
DASS-21スコアのベースラインからの変化:プラセボシール使用群と比較して、アロマシール使用群では、総スコア(p=0.02、効果量:0.63)、抑うつ(p=0.004、効果量:0.76)、ストレス(p=0.02、効果量:0. 63)スコアのベースライン値からの変化は、介入1週目までで、総スコア(p=0.04、効果の大きさ:0.54)および抑うつ(p=0.04、効果の大きさ:0.54)スコアの変化は、介入2週目まででした。
また、アロマシール使用群では、プラセボシール使用群と比較して、マスク着用時の息苦しさの発生が減少しました。
マスク着用に伴う不快感の改善:アロマシール使用群の平均息苦しさスコアは、ベースライン時、介入1週目、2週目でそれぞれ2.48±1.09、1.74±0.89、1.84±0.86であり、多くの患者で「どちらかといえば息苦しい」から「あまり息苦しくない」に変化したことが示されました。逆に、プラセボシール使用群では、ベースライン時、1週目、2週目の平均息苦しさスコアはそれぞれ2.37±0.93、2.17±0.79、2.30±0.92であり、マスク着用時の息苦しさに有意な変化は認められませんでした。さらに、アロマシール使用群はプラセボシール使用群に比べ、1週間後および2週間後の時点において、ベースラインからの平均息苦しさスコアの変化において0.5ポイントの有意差を示しました(p=0.004、効果量:それぞれ0.78および0.77)。
さらに、WHO-5質問票の「落ち着きとリラックスを感じた」という項目を評価したところ、アロマシール使用群はプラセボ群よりも有意に高いスコアを示しました。WHO-5評価尺度による精神的健康の評価:WHO-5の各項目の平均点は、プラセボ群と比較して介入群で高いことが観察されました。アロマシールの使用が参加者の精神的健康状態に影響を与えたかどうかを判定するため、介入2週目のスコアを用いてベースラインからのWHO-5スコアの変化が評価されました。アロマシール使用群では、プラセボシール使用群と比較して、W2(穏やかでリラックスした気分で過ごした時間)に統計学的に有意な改善がみられました(p=0.02、効果量:0.64)。
有害事象の報告:61人の参加者について安全性が評価された。介入期間中のシール使用日数は、アロマ使用群およびプラセボシール使用群でそれぞれ週5.6±1.2日および5.4±1.3日であり、61人全員が介入期間の2週間を完了しました。アロマ使用群とプラセボシール使用群でそれぞれ1件(3.2%)の有害事象が報告されました。有害事象はいずれも軽度で、2日後には消失しました。両群の有害事象について、シール使用再開後に同じ症状が再発することはなく、シール使用との因果関係は認められませんでした。
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マスク着用に伴うストレス(煩わしさ)を軽減できる方法が求められています。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、オレンジライム精油を含むアロマシールを使用することは、マスク着用時の精神的ストレスの緩和や息苦しさの軽減に有効であり、その結果、メンタルヘルスが改善される可能性があることが示されました。ただし、試験に参加した被験者の平均年齢は21歳であり、小児や高齢者への効果は不明です。
また、主要評価項目であるDASS-21について、過去に報告されたCOPD患者を対象にDASS-21のMCIDを検討した試験では、実臨床で効果が得られるのは5ポイントであることが報告されています。対象患者が異なるため、外挿性は高くないと考えられますが、1つの参考にできると考えられます。本試験では、群間差が4.7ポイントであり、ある程度の効果は期待できそうです。とはいえ、短期的な介入効果であること、2週目には2.61ポイントと効果減弱が示されていることから、長期的な効果は期待できなさそうです。
どのような対象者で持続的な効果が期待できるのか、個々人の好みに合わせたアロマ使用による効果検証など、まだまだ検証が求められる領域であると考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、オレンジライム精油を含むアロマシールを使用することは、マスク着用時の精神的ストレスの緩和や息苦しさの軽減に有効であり、その結果、メンタルヘルスが改善される可能性がある。
根拠となった試験の抄録
背景:COVID-19のパンデミックでは、ウイルスの空気感染を防ぐため、患者や健康な人にフェイスマスクが推奨された。そのため、マスク着用中にストレスを感じる人が増加した。本研究では、マスクにアロマシールを貼ることによるストレス緩和効果を調べた。
方法:62人の大学生を対象に二重盲検ランダム化比較試験を行った。参加者はランダムに2群に振り分けられ、試験期間中1日1回マスクにシールを貼るよう指示された。
主要評価項目はDASS-21(Depression, Anxiety, and Stress Scale-21)で、副次評価項目はマスク着用に伴う息苦しさの評価とWHO-5(World Health Organization Five Well-Being Index)であった。介入群はアロマシール使用群と呼ばれ、柑橘系の癒し効果を期待してオレンジライムのエッセンシャルオイルを染み込ませたアロマシールを使用した。一方、非介入グループはプラセボシール使用グループと呼ばれ、アロマを使用せずに同じシールを使用した。
結果:アロマシール使用群では、介入2週目までにDASS-21総スコアと抑うつスコアがベースライン値と比較して有意な改善を示した。さらに、アロマシール使用群では、プラセボシール使用群と比較して、マスク着用時の息苦しさの発生が減少した。さらに、WHO-5質問票の「落ち着きとリラックスを感じた」という項目を評価したところ、アロマシール使用群はプラセボ群よりも有意に高いスコアを示した。
DASS-21による抑うつ、不安、ストレスの評価:本研究では、抑うつ、不安、ストレスを評価するDASS-21を用いた。ベースライン時、1週間後、2週間後の評価において、アロマシール使用群のスコアは減少傾向を示した。DASS-21スコアのベースラインからの変化を以下に要約する。プラセボシール使用群と比較して、アロマシール使用群では、総スコア(p=0.02、効果量:0.63)、抑うつ(p=0.004、効果量:0.76)、ストレス(p=0.02、効果量:0. 63)スコアのベースライン値からの変化は、介入1週目までで、総スコア(p=0.04、効果の大きさ:0.54)および抑うつ(p=0.04、効果の大きさ:0.54)スコアの変化は、介入2週目までであった。
マスク着用に伴う不快感の改善:アロマシール使用群の平均息苦しさスコアは、ベースライン時、介入1週目、2週目でそれぞれ2.48±1.09、1.74±0.89、1.84±0.86であり、多くの患者で「どちらかといえば息苦しい」から「あまり息苦しくない」に変化したことが示された。逆に、プラセボシール使用群では、ベースライン時、1週目、2週目の平均息苦しさスコアはそれぞれ2.37±0.93、2.17±0.79、2.30±0.92であり、マスク着用時の息苦しさに有意な変化は認められなかった。さらに、アロマシール使用群はプラセボシール使用群に比べ、1週間後および2週間後の時点において、ベースラインからの平均息苦しさスコアの変化において0.5ポイントの有意差を示した(p=0.004、効果量:それぞれ0.78および0.77)。
WHO-5評価尺度による精神的健康の評価:WHO-5の各項目の平均点は、プラセボ群と比較して介入群で高いことが観察された。アロマシールの使用が参加者の精神的健康状態に影響を与えたかどうかを判定するため、介入2週目のスコアを用いてベースラインからのWHO-5スコアの変化を評価した。アロマシール使用群では、プラセボシール使用群と比較して、W2(穏やかでリラックスした気分で過ごした時間)に統計学的に有意な改善がみられた(p=0.02、効果量:0.64)。
有害事象の報告:61人の参加者について安全性が評価された。介入期間中のシール使用日数は、アロマ使用群およびプラセボシール使用群でそれぞれ週5.6±1.2日および5.4±1.3日であり、61人全員が介入期間の2週間を完了した。アロマ使用群とプラセボシール使用群でそれぞれ1件(3.2%)の有害事象が報告された。有害事象はいずれも軽度で、2日後には消失した。両群の有害事象について、シール使用再開後に同じ症状が再発することはなく、シール使用との因果関係は認められなかった。
結論:オレンジライム精油を含むアロマシールを使用することは、マスク着用時の精神的ストレスの緩和や息苦しさの軽減に有効であり、その結果、メンタルヘルスが改善される可能性がある。
引用文献
Evaluating the effectiveness of applying aroma seals to masks in reducing stress caused by wearing masks: A randomized controlled trial
Nobuyuki Wakui et al. PMID: 37971989 PMCID: PMC10653515 DOI: 10.1371/journal.pone.0294357
PLoS One. 2023 Nov 16;18(11):e0294357. doi: 10.1371/journal.pone.0294357. eCollection 2023.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37971989/
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