人工呼吸器関連肺炎に対する抗生物質の最適な投与期間は?(Open-RCT; REGARD-VAP試験; Lancet Respir Med. 2024)

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人工呼吸器関連肺炎(VAP)に対する抗生物質の投与期間の比較

人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、死亡率の増加、入院期間の延長、過剰な抗生物質の使用、ひいては抗菌薬耐性の増加と関連しています。しかし、抗生物質の短期間治療との比較は充分に行われていません。

そこで今回は、VAPに対する実用的で個別化された短期コースの抗生剤治療戦略が、通常治療と比較して劣っていないかどうかを確認することを目的とした第4相ランダム化比較試験(REGARD-VAP試験)の結果をご紹介します。

本試験は、ネパール、シンガポール、タイの6病院39集中治療室で行われた個別ランダム化非盲検階層的非劣性-優越性試験です。米国疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention National Healthcare Safety Network)のVAP基準を満たし、48時間以上機械的人工呼吸を受けており、培養指示抗生物質が投与された成人(年齢18歳以上)が登録されました。培養陰性の症例では、各微生物学検査室から報告された地域の病院のアンチバイオグラムまたは一般的な地域のガイドラインに従って経験的な抗生物質の選択が行われました。

試験参加者は、48時間の解熱と血行動態の安定まで評価され、その後、試験実施施設ごとに層別化された可変のサイズ(8、10、12)の順列化されたブロックを介して、個別化された短期コース治療(7日以下、最短で3~5日)または通常治療(8日以上、正確な期間は主治医が決定)にランダムに割り付けられました(1:1)。肺炎再発の独立評価者および試験参加者は治療割り付けについてマスクされましたが、臨床医はマスクされませんでした。

本試験の主要アウトカムは、死亡または肺炎再発の60日複合エンドポイントでした。非劣性マージンは12%と事前に規定され、intention-to-treat集団(ランダム化された全試験参加者)およびper-protocol集団(ランダム化された全試験参加者のうち、適格基準を満たし、抗生物質中止の適合基準を満たし、割り付け群で規定された期間抗生物質を投与された集団)の両方に基づく解析で満たされなければなりませんでした。

試験結果から明らかになったことは?

2018年5月25日~2022年12月16日の間に461例が登録され、短期コース治療群(n=232)または通常治療群(n=229)にランダムに割り付けられました。年齢中央値は64歳(IQR 51〜74)、181例(39%)が女性でした。1例の離脱者を除いた460例がintention-to-treat解析に組み入れられました(短期コース群231例、通常ケア群229例);435例が割り付けられた治療を受け、適格基準を満たし、per-protocol集団に組み入れられました。

VAPの指標エピソードに対する抗生物質治療期間の中央値は、短期コース群で6日(IQR 5~7)、通常ケア群で14日(10~21)でした。

短期治療群通常治療群リスク差
(片側95%CI)
死亡または肺炎再発の60日複合エンドポイント231例中95例
(41%)
229例中100例
(44%)
リスク差 -3%
-∞ ~ 5%
非劣性が満たされた

短期治療群では231例中95例(41%)が主要転帰を達成したのに対し、通常治療群では229例中100例(44%)でした(リスク差 -3%、片側95%信頼区間 -∞ ~ 5%)。per-protocol集団においても結果は同様でした。

通常治療と比較した優越性は確立されませんでしたが、短期コース抗生物質治療の非劣性は解析で満たされました。

Per-protocol集団において、抗生物質の副作用は通常治療群224例中86例(38%)、短期コース群211例中17例(8%)に発現しました(リスク差 -31%、95%CI -37 ~ -25%;p<0.0001)。

コメント

人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、患者転帰への影響が大きいだけでなく、治療に伴う抗生物質の使用量にも影響しています。しかし、抗生物質の短期間治療による有効性・安全性の比較検討は充分に行われていません。

さて、非盲検ランダム化比較試験の結果、成人の人工呼吸器関連肺炎患者において、臨床的反応に基づく個別化された抗生剤投与期間の短縮は、60日死亡率および肺炎再発率の点で、より長い治療期間よりも劣っておらず、抗生剤の使用量および副作用の大幅な減少に関連していました。

優越性までは示されませんでしたが、少なくとも短期コース群(治療期間6日)と通常ケア群(14日)とで同様の転帰が、また副作用については大きな差があったことから、患者背景によっては短期間治療を行うことで副作用リスクの大幅な低減が期待できます。ただし、主要評価項目は複合アウトカムであり、個々のアウトカムを確認する必要があります。また、国や地域で抗生物質治療の内容が異なることから、結果の解釈には充分に注意する必要があります。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 成人の人工呼吸器関連肺炎患者において、臨床的反応に基づく個別化された抗生剤投与期間の短縮は、60日死亡率および肺炎再発率の点で、より長い治療期間よりも劣っておらず、抗生剤の使用量および副作用の大幅な減少に関連していた。

根拠となった試験の抄録

背景:人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、死亡率の増加、入院期間の延長、過剰な抗生物質の使用、ひいては抗菌薬耐性の増加と関連している。この第4相ランダム化試験では、VAPに対する実用的で個別化された短期コースの抗生剤治療戦略が、通常治療と比較して劣っていないかどうかを確認することを目的とした。

方法:ネパール、シンガポール、タイの6病院39集中治療室で、個別ランダム化非盲検階層的非劣性-優越性試験を実施した。米国疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention National Healthcare Safety Network)のVAP基準を満たし、48時間以上機械的人工呼吸を受けており、培養指示抗生物質が投与された成人(年齢18歳以上)を登録した。培養陰性の症例では、各微生物学検査室から報告された地域の病院のアンチバイオグラムまたは一般的な地域のガイドラインに従って経験的な抗生物質の選択が行われた。参加者は、48時間の解熱と血行動態の安定まで評価され、その後、試験実施施設ごとに層別化された可変のサイズ(8、10、12)の順列化されたブロックを介して、個別化された短期コース治療(7日以下、最短で3~5日)または通常治療(8日以上、正確な期間は主治医が決定)にランダムに割り付けられた(1:1)。肺炎再発の独立評価者および参加者は治療割り付けについてマスクされたが、臨床医はマスクされなかった。
主要アウトカムは、死亡または肺炎再発の60日複合エンドポイントであった。非劣性マージンは12%と事前に規定され、intention-to-treat集団(無作為化された全試験参加者)およびper-protocol集団(ランダム化された全試験参加者のうち、適格基準を満たし、抗生物質中止の適合基準を満たし、割り付け群で規定された期間抗生物質を投与された集団)の両方に基づく解析で満たされなければならなかった。本試験はClinicalTrials.govに登録されており、登録番号はNCT03382548である。

調査結果:2018年5月25日~2022年12月16日の間に461例が登録され、短期コース治療群(n=232)または通常治療群(n=229)にランダムに割り付けられた。年齢中央値は64歳(IQR 51〜74)、181人(39%)が女性であった。1名の離脱者を除いた460例がintention-to-treat解析に組み入れられた(短期コース群231例、通常ケア群229例);435例が割り付けられた治療を受け、適格基準を満たし、per-protocol集団に組み入れられた。VAPの指標エピソードに対する抗生物質治療期間の中央値は、短期コース群で6日(IQR 5~7)、通常ケア群で14日(10~21)であった。短期治療群では231例中95例(41%)が主要転帰を達成したのに対し、通常治療群では229例中100例(44%)であった(リスク差 -3%、片側95%信頼区間 -∞ ~ 5%)。per-protocol集団においても結果は同様であった。通常治療と比較した優越性は確立されなかったが、短期コース抗生物質治療の非劣性は解析で満たされた。per-protocol集団において、抗生物質の副作用は通常治療群224例中86例(38%)、短期コース群211例中17例(8%)に発現した(リスク差 -31%、95%CI -37 ~ -25%;p<0.0001)。

解釈:成人のVAP患者を対象とした本試験において、臨床的反応に基づく個別化された抗生剤投与期間の短縮は、60日死亡率および肺炎再発率の点で、より長い治療期間よりも劣っておらず、抗生剤の使用量および副作用の大幅な減少に関連していた。VAPに対する個別化された短期間の抗生剤投与は、高資源および資源に乏しい環境における副作用の負担と抗生剤耐性のリスクを軽減するのに役立つ可能性がある。

資金提供:英国医学研究評議会、シンガポール国立医学研究評議会

翻訳:抄録のタイ語およびネパール語訳は補足資料の項を参照のこと。

引用文献

Individualised, short-course antibiotic treatment versus usual long-course treatment for ventilator-associated pneumonia (REGARD-VAP): a multicentre, individually randomised, open-label, non-inferiority trial
Yin Mo et al. PMID: 38272050 DOI: 10.1016/S2213-2600(23)00418-6
Lancet Respir Med. 2024 Jan 22:S2213-2600(23)00418-6. doi: 10.1016/S2213-2600(23)00418-6. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38272050/

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