降圧薬間で死亡リスクに差はあるのか?
高血圧は一般的な疾患であり、脳卒中などの心血管リスクの一因です。高血圧に対しては高圧薬による血圧コントロールが行われますが、治療の目標は将来にわたる心血管イベントの発生抑制(イベントの先送り)です。しかし、死亡率と罹患率に関する降圧治療の長期的な相対リスクは充分に理解されていません。
そこで今回は、サイアザイド(チアジド)系利尿薬、カルシウム拮抗薬(CCB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬のいずれかにランダムに割り付けられ、最長23年間追跡された試験参加者における主要および副次的転帰の試験後の長期リスクを明らかにすることを目的に実施されたランダム化比較試験の事後解析の結果をご紹介します。
本解析は、多施設ランダム化二重盲検能動比較臨床試験であるAntihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial(ALLHAT)の事前に規定された二次解析です。高血圧と診断され、他に少なくとも1つの冠動脈性心疾患危険因子を有する55歳以上の参加者を対象に、1994年2月23日から2017年12月31日まで最長23年間追跡されました。
試験参加者は、試験後の死亡率(N=32,804)および罹患アウトカム(N=22,754)について行政データベースとリンクされました。統計解析は2022年1月から2023年10月まで行われました。
試験参加者はサイアザイド系利尿薬(n=15,002)、CCB(n=8,898)、ACE阻害薬(n=8,904)のいずれかを投与される群にランダムに割り付けられ、試験中の追跡期間は約4~8年、試験後の受動的追跡期間は最長23年でした。
本試験の主要エンドポイントは心血管疾患(CVD)による死亡率でした。副次的アウトカムは全死亡、致死的CVDと非致死的CVDの複合(罹患率)、冠動脈性心疾患、脳卒中、心不全、末期腎疾患、癌の死亡率と罹患率の両方でした。
試験結果から明らかになったことは?
合計32,804例の参加者(平均年齢 66.9[SD 7.7]歳; 男性17,411例[53.1%]; 黒人11,772例[35.9%])を全死因死亡率について追跡調査し、22,754例のサブグループ(平均年齢 68. 7[SD 7.2]歳; 女性12,772例[56.1%];および黒人参加者8199人[36.0%])は、2017年まで致死的または非致死的CVDについて追跡されました(平均追跡期間 13.7[SD 6.7]年; 最大追跡期間 23.9年)。
(ランダム化から23年後) | 心血管疾患死亡率 (/100人) | 調整ハザード比 AHR (95%CI) |
利尿薬群 | 23.7 | Reference |
CCB群 | 21.6 | CCB vs. 利尿薬 AHR 0.97(0.89〜1.05) |
ACE阻害薬群 | 23.8 | ACE阻害薬 vs. 利尿薬 AHR 1.06(0.97〜1.15) |
100人当たりの心血管疾患死亡率は、ランダム化から23年後の時点で、利尿薬群、CCB群、ACE阻害薬群でそれぞれ23.7、21.6、23.8でした(調整ハザード比[AHR] CCB vs. 利尿薬で0.97 [95%CI 0.89〜1.05]、ACE阻害薬 vs. 利尿薬でAHR 1.06 [95%CI 0.97〜1.15])。
ほとんどの副次的転帰の長期リスクは3群で同様でした。利尿薬群と比較して、ACE阻害薬群では脳卒中死亡リスクが19%増加し(AHR 1.19 [95%CI 1.03〜1.37])、致死的・非致死的入院脳卒中合併リスクが11%増加しました(AHR 1.11 [95%CI 1.03〜1.20])。
コメント
高血圧に使用される治療薬は沢山ありますが、治療薬間の比較は充分に行われていません。
さて、ランダム化比較試験であるALLHAT試験の二次解析の結果、高血圧と冠動脈性心疾患の危険因子を有する成人集団を対象としたランダム化比較試験の二次解析において、CVD死亡率は3群間(チアジド系利尿薬 vs. Ca拮抗薬 vs. ACE阻害薬)で同程度でした。ただし、利尿薬群と比較して、ACE阻害薬群では脳卒中死亡リスクが19%増加し、致死的・非致死的入院脳卒中合併リスクが11%増加しました。とはいえ、あくまでも相関関係が示されたに過ぎません。また治療薬に用いられたのは、リシノプリル、クロルタリドン(日本では販売中止)、アムロジピンであり、他の治療薬間の比較は行われていません。したがって、本試験結果をもって、利尿薬が優れているとは結論づけられません。
続報に期待。
✅まとめ✅ 高血圧と冠動脈性心疾患の危険因子を有する成人集団を対象としたランダム化比較試験の二次解析において、CVD死亡率は3群間(チアジド系利尿薬 vs. Ca拮抗薬 vs. ACE阻害薬)で同程度であった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:死亡率と罹患率に関する降圧治療の長期的な相対リスクは充分に理解されていない。
目的:サイアザイド(チアジド)系利尿薬、カルシウム拮抗薬(CCB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬のいずれかにランダムに割り付けられ、最長23年間追跡された試験参加者における主要および副次的転帰の試験後の長期リスクを明らかにすること。
試験デザイン、設定、参加者:多施設ランダム化二重盲検能動比較臨床試験であるAntihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial(ALLHAT)の事前に規定された二次解析で、高血圧と診断され、他に少なくとも1つの冠動脈性心疾患危険因子を有する55歳以上の参加者を対象に、1994年2月23日から2017年12月31日まで最長23年間追跡した。試験参加者は、試験後の死亡率(N=32,804)および罹患アウトカム(N=22,754)について行政データベースとリンクされた。統計解析は2022年1月から2023年10月まで行った。
介入:試験参加者はサイアザイド系利尿薬(n=15,002)、CCB(n=8,898)、ACE阻害薬(n=8,904)のいずれかを投与される群にランダムに割り付けられ、試験中の追跡期間は約4~8年、試験後の受動的追跡期間は最長23年であった。
主要アウトカムと評価基準:主要エンドポイントは心血管疾患(CVD)による死亡率であった。副次的アウトカムは全死亡、致死的CVDと非致死的CVDの複合(罹患率)、冠動脈性心疾患、脳卒中、心不全、末期腎疾患、癌の死亡率と罹患率の両方であった。
結果:合計32,804例の参加者(平均年齢 66.9[SD 7.7]歳; 男性17,411例[53.1%]; 黒人11,772例[35.9%])を全死因死亡率について追跡調査し、22,754例のサブグループ(平均年齢 68. 7[SD 7.2]歳; 女性12,772例[56.1%];および黒人参加者8199人[36.0%])は、2017年まで致死的または非致死的CVDについて追跡された(平均追跡期間 13.7[SD 6.7]年; 最大追跡期間 23.9年)。100人当たりの心血管疾患死亡率は、ランダム化から23年後の時点で、利尿薬群、CCB群、ACE阻害薬群でそれぞれ23.7、21.6、23.8であった(調整ハザード比[AHR] CCB vs. 利尿薬で0.97 [95%CI 0.89〜1.05]、ACE阻害薬 vs. 利尿薬でAHR 1.06 [95%CI 0.97〜1.15])。ほとんどの副次的転帰の長期リスクは3群で同様であった。利尿薬群と比較して、ACE阻害薬群では脳卒中死亡リスクが19%増加し(AHR 1.19 [95%CI 1.03〜1.37])、致死的・非致死的入院脳卒中合併リスクが11%増加した(AHR 1.11 [95%CI 1.03〜1.20])。
結論と関連性:高血圧と冠動脈性心疾患の危険因子を有する成人集団を対象としたランダム化比較試験の二次解析において、CVD死亡率は3群間で同程度であった。ACE阻害薬は利尿薬と比較して脳卒中転帰のリスクを11%増加させ、この効果は試験期間を超えても持続した。
試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier. NCT00000542
引用文献
Mortality and Morbidity Among Individuals With Hypertension Receiving a Diuretic, ACE Inhibitor, or Calcium Channel Blocker: A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial
Jose-Miguel Yamal et al. PMID: 38048133 PMCID: PMC10696481 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2023.44998
JAMA Netw Open. 2023 Dec 1;6(12):e2344998. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.44998.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38048133/
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