厳格な血糖コントロールは集中治療室の在院日数や死亡率低下には影響しない?(RCT; TGC-Fast試験; N Engl J Med. 2023)

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ICU患者に対する厳格な血糖コントロールの有益性は?

集中治療室(ICU)患者における厳格な血糖コントロールの有益性と有害性の両方について、ランダム化比較試験によって示されています。この要因として、早期の非経口栄養の使用やインスリン誘発性重症低血糖のばらつきがあげられます。

これらの要因が、血糖コントロールの矛盾を説明しているのかもしれませんが、充分に検討されていません。

そこで今回は、ICU入室時に、患者を緩やかな血糖コントロール(血糖値が215mg/dL超[11.9mmol/L超]の場合にのみインスリンを開始)または厳格な血糖コントロール(LOGIC-Isulinアルゴリズムを使用して血糖値を80~110mg/dL[4.4~6.1mmol/L]に目標設定)にランダムに割り付けし、厳格な血糖コントロールによる患者予後への影響について検証したランダム化比較試験の結果(TGC-Fast試験)をご紹介します。非経口栄養は両群とも1週間中止されました。プロトコールの遵守率はグルコース測定基準に従って決定されました。

本試験の主要転帰はICUでの治療が必要であった期間であり、死亡を競合リスクとして考慮した上で、ICUから生存退院するまでの期間に基づいて算出されました;90日死亡率は安全性の転帰でした。

試験結果から明らかになったことは?

ランダム化を受けた9,230例の患者のうち、4,622例が緩やかな血糖コントロール群に、4,608例が厳格な血糖コントロール群に割り付けられました。朝の血糖値の中央値は、緩やかな血糖コントロール群で140mg/dL(四分位範囲 122~161)、厳格な血糖コントロール群で107mg/dL(四分位範囲 98~117)でした。

ハザード比(95%CI)
厳格な血糖コントロール vs. 緩やかな血糖コントロール群
ICUでの治療が必要であった期間ハザード比 1.00
0.96~1.04
P=0.94

重度の低血糖は緩やかな血糖コントロール群で31例(0.7%)、厳格な血糖コントロール群で47例(1.0%)にみられました。ICUでの治療が必要であった期間は両群で同程度でした(厳格な血糖コントロールにより早期退院が可能となるハザード比 1.00、95%信頼区間 0.96~1.04;P=0.94)。90日後の死亡率も同様でした(緩やかな血糖コントロール群では10.1%、厳格な血糖コントロール群では10.5%、P=0.51)。

事前に規定された8つの副次的転帰を解析した結果、新たな感染症の発生率、呼吸器および血行動態のサポート期間、生存退院までの期間、ICUおよび入院中の死亡率は両群で同程度でしたが、重度の急性腎障害および胆汁うっ滞性肝機能障害は厳格な血糖コントロール群の方が少ないことが示唆されました。

コメント

血糖コントロールの程度については議論が分かれています。どのような患者で利益の最大化が見込めるのか、検証が求められています。

さて、ランダム化比較試験の結果、早期非経口栄養を受けていない重症患者において、厳格な血糖コントロールはICUケアの必要期間や死亡率に影響を及ぼしませんでした。

外来患者だけでなく、ICU患者においても厳格な血糖コントロールは有益ではないようです。感染症リスクを高めることから、血糖コントロールは必要であるものの、コントロールの程度はほどほどで良さそうです。

doctors and nurses in a hospital

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、早期非経口栄養を受けていない重症患者において、厳格な血糖コントロールはICUケアの必要期間や死亡率に影響を及ぼさなかった。

根拠となった試験の抄録

背景:集中治療室(ICU)患者における厳格な血糖コントロールの有益性と有害性の両方が、ランダム化比較試験によって示されている。早期の非経口栄養の使用やインスリン誘発性重症低血糖のばらつきがこの矛盾を説明しているのかもしれない。

方法:ICU入室時に、患者を緩やかな血糖コントロール(血糖値が215mg/dL超[11.9mmol/L超]の場合にのみインスリンを開始)または厳格な血糖コントロール(LOGIC-Isulinアルゴリズムを使用して血糖値を80~110mg/dL[4.4~6.1mmol/L]に目標設定)にランダムに割り付けた;非経口栄養は両群とも1週間中止した。プロトコールの遵守率はグルコース測定基準に従って決定された。
主要転帰はICUでの治療が必要であった期間とし、死亡を競合リスクとして考慮した上で、ICUから生存退院するまでの期間に基づいて算出した;90日死亡率は安全性の転帰であった。

結果:ランダム化を受けた9,230例の患者のうち、4,622例が緩やかな血糖コントロール群に、4,608例が厳格な血糖コントロール群に割り付けられた。朝の血糖値の中央値は、緩やかな血糖コントロール群で140mg/dL(四分位範囲 122~161)、厳格な血糖コントロール群で107mg/dL(四分位範囲 98~117)であった。重度の低血糖は緩やかな血糖コントロール群で31例(0.7%)、厳格な血糖コントロール群で47例(1.0%)にみられた。ICUでの治療が必要であった期間は両群で同程度であった(厳格な血糖コントロールにより早期退院が可能となるハザード比 1.00、95%信頼区間 0.96~1.04;P=0.94)。90日後の死亡率も同様であった(緩やかな血糖コントロール群では10.1%、厳格な血糖コントロール群では10.5%、P=0.51)。事前に規定された8つの副次的転帰を解析した結果、新たな感染症の発生率、呼吸器および血行動態のサポート期間、生存退院までの期間、ICUおよび入院中の死亡率は両群で同程度であったが、重度の急性腎障害および胆汁うっ滞性肝機能障害は厳格な血糖コントロール群の方が少ないことが示唆された。

結論:早期非経口栄養を受けていない重症患者において、厳格な血糖コントロールはICUケアの必要期間や死亡率に影響を及ぼさなかった。

資金提供:Research Foundation-Flanders他

試験登録番号:ClinicalTrials.gov番号 NCT03665207

引用文献

Tight Blood-Glucose Control without Early Parenteral Nutrition in the ICU
Jan Gunst et al. PMID: 37754283 DOI: 10.1056/NEJMoa2304855
N Engl J Med. 2023 Sep 28;389(13):1180-1190. doi: 10.1056/NEJMoa2304855.
— 読み進める https://www.jwatch.org/na56606/2023/09/28/tight-glucose-control-didnt-affect-intensive-care-unit

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