オミクロン変異株(BQ.1.1およびXBB.1.5)に対する抗ウイルス薬の効果は?
ニルマトレルビル(リトナビルでブースト)とモルヌピラビルは、現在米国やその他の国々で、軽症から中等症のCOVID-19を有し、重症化への進行リスクが高い非入院患者の治療に使用されています。これら2つの経口抗ウイルス薬と、新しいSARS-CoV-2 Omicron(オミクロン)亜型、特にBQ.1.1およびXBB.1.5の感染による入院および死亡との関連は不明です。
そこで今回は、比較的新しいオミクロン亜型に感染した患者において、ニルマトレルビルまたはモルヌピラビルの使用と入院および死亡のリスクとの関連を評価するために実施されたコホート研究の結果をご紹介します。
本試験は、2022年4月1日から2023年2月20日までにCleveland ClinicでCOVID-19の診断を受けた患者(この間にオミクロン亜型はBA.2からBA.4/BA.5へ、次にBQ.1/BQ.1.1へ、最後にXBB/XBB.1.5へと進化した)で、重症化するリスクが高い患者を対象としたコホート研究であり、診断後90日まで追跡調査が行われました。追跡データ収集の最終日は2023年2月27日でした。曝露はニルマトレルビル(リトナビルでブースト)またはモルヌピラビルによる治療でした。
本試験の主要アウトカムは死亡までの期間、副次的アウトカムは入院または死亡までの期間でした。ニルマトレルビルまたはモルヌピラビルの使用と各アウトカムとの関連は、人口統計学的因子、社会経済的状態、COVID-19診断日、併存する病状、COVID-19ワクチン接種の有無、SARS-CoV-2感染の既往で調整したハザード比(HR)で測定されました。
試験結果から明らかになったことは?
患者数は6,886例(65歳以上 29,386例[42.7%];男性 26,755例[38.9%];非ヒスパニック系白人 51,452例[74.7%])でした。
ニルマトレルビルによる治療を受けた患者 22,594例中30例、モルヌピラビルによる治療を受けた患者 5,311例中27例、および無治療の患者 40,962例中588例が、オミクロン感染後90日以内に死亡しました。
調整後ハザード比 aHR | ニルマトレルビル | モルヌピラビル |
死亡 | aHR 0.16(95%CI 0.11〜0.23) | aHR 0.23(95%CI 0.16〜0.34) |
入院または死亡 | aHR 0.63(95%CI 0.59〜0.68) | aHR 0.59(95%CI 0.53〜0.66) |
死亡の調整後HRは、ニルマトレルビルで0.16(95%CI 0.11〜0.23)、モルヌピラビルで0.23(95%CI 0.16〜0.34)でした。入院または死亡の調整後HRは、ニルマトレルビルで0.63(95%CI 0.59〜0.68)、モルヌピラビルで0.59(95%CI 0.53〜0.66)でした。
両薬剤と両転帰との関連は、年齢、人種および民族、COVID-19診断日、ワクチン接種の有無、既往感染の有無、および併存疾患によって定義されたサブグループ全体で観察されました。
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一本鎖RNAであるSARS-CoV-2は様々な変異を続けており、2023年時にはオミクロン変異株を中心とした感染流行が続いています。関心の高い亜型として特にBQ.1.1およびXBB.1.5があげられ、これらの変異株に対する対策が求められます。
さて、米オハイオ州クリーブランドのCleveland Clinicで行われたコホート研究の結果、ニルマトレルビルまたはモルヌピラビルのいずれかを使用することが、オミクロン感染患者における死亡率および入院の減少に関連することが示唆されました。両薬剤は重症COVID-19に進行するリスクが高い非入院患者の治療に使用できると考えられます。
ただし、本試験はコホート研究であることから、やや過大に示された結果であると考えられます。得られた結果は割り引いておいた方が良いでしょう。
今後もSARS-CoV-2変異株が出現し、定期的に流行が繰り返されると考えられます。抗ウイルス薬の効果についても定期的な検証が求められます。続報に期待。
✅まとめ✅ コホート研究の結果、ニルマトレルビルまたはモルヌピラビルのいずれかを使用することが、オミクロン感染患者における死亡率および入院の減少に関連することを示唆している。両薬剤は重症COVID-19に進行するリスクが高い非入院患者の治療に使用できる。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:ニルマトレルビル(リトナビルでブースト)とモルヌピラビルは、現在米国やその他の国々で、軽症から中等症のCOVID-19を有し、重症化への進行リスクが高い非入院患者の治療に使用されている。これら2つの経口抗ウイルス薬と、新しいSARS-CoV-2 Omicron(オミクロン)亜型、特にBQ.1.1およびXBB.1.5の感染による入院および死亡との関連は不明である。
目的:新しいオミクロン亜型に感染した患者において、ニルマトレルビルまたはモルヌピラビルの使用と入院および死亡のリスクとの関連を評価すること。
試験デザイン、設定、参加者:2022年4月1日から2023年2月20日までにCleveland ClinicでCOVID-19の診断を受けた患者(この間にオミクロン亜型はBA.2からBA.4/BA.5へ、次にBQ.1/BQ.1.1へ、最後にXBB/XBB.1.5へと進化した)で、重症化するリスクが高い患者を対象としたコホート研究であり、診断後90日まで追跡調査を行った。追跡データ収集の最終日は2023年2月27日であった。
曝露:ニルマトレルビル(リトナビルでブースト)またはモルヌピラビルによる治療。
主要アウトカムと評価基準:主要アウトカムは死亡までの期間であった。副次的転帰は入院または死亡までの期間であった。ニルマトレルビルまたはモルヌピラビルの使用と各アウトカムとの関連は、人口統計学的因子、社会経済的状態、COVID-19診断日、併存する病状、COVID-19ワクチン接種の有無、SARS-CoV-2感染の既往で調整したハザード比(HR)で測定した。
結果:患者数は6,886例(65歳以上 29,386例[42.7%];男性 26,755例[38.9%];非ヒスパニック系白人 51,452例[74.7%])であった。ニルマトレルビルによる治療を受けた患者 22,594例中30例、モルヌピラビルによる治療を受けた患者 5,311例中27例、および無治療の患者 40,962例中588例が、オミクロン感染後90日以内に死亡した。死亡の補正後HRは、ニルマトレルビルで0.16(95%CI 0.11〜0.23)、モルヌピラビルで0.23(95%CI 0.16〜0.34)であった。入院または死亡の調整後HRは、ニルマトレルビルで0.63(95%CI 0.59〜0.68)、モルヌピラビルで0.59(95%CI 0.53〜0.66)であった。両薬剤と両転帰との関連は、年齢、人種および民族、COVID-19診断日、ワクチン接種の有無、既往感染の有無、および併存疾患によって定義されたサブグループ全体で観察された。
結論と関連性:これらの知見は、ニルマトレルビルまたはモルヌピラビルのいずれかを使用することが、年齢、人種および民族、ウイルス株、ワクチン接種の有無、既往感染の有無、または併存疾患にかかわらず、オミクロン感染患者における死亡率および入院の減少に関連することを示唆している。したがって、両薬剤は重症COVID-19に進行するリスクが高い非入院患者の治療に使用できる。
引用文献
Nirmatrelvir or Molnupiravir Use and Severe Outcomes From Omicron Infections
Dan-Yu Lin et al. PMID: 37733342 PMCID: PMC10514733 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2023.35077
JAMA Netw Open. 2023 Sep 5;6(9):e2335077. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.35077.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37733342/
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