骨折後の血栓予防にはアスピリンと低分子ヘパリン、どちらが良いのか?
骨折患者に対する血栓予防として、診療ガイドラインでは低分子ヘパリンが推奨されていますが、アスピリンと比較した有効性に関する臨床試験は不足しています。
そこで今回は、骨折後の血栓予防薬としてアスピリンと低分子ヘパリンを比較検討したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
この実用的な多施設共同ランダム化非劣性試験において、手術を受けた四肢(股関節から中足、肩から手首まで)の骨折を有する18歳以上の患者、あるいは骨盤または寛骨臼の骨折を有する患者が登録されました。患者は入院中、低分子ヘパリン(エノキサパリン)30mgを1日2回投与する群と、アスピリン81mgを1日2回投与する群にランダムに割り付けられました。退院後は、各病院の臨床プロトコールに従って血栓予防薬を継続投与しました。
本試験の主要転帰は、90日目におけるあらゆる原因による死亡でした。副次的転帰は、非致死的肺塞栓症、深部静脈血栓症、出血性合併症でした。
試験結果から明らかになったことは?
合計12,211例の患者が、アスピリン投与(6,101例)または低分子ヘパリン投与(6,110例)にランダムに割り付けられました。平均年齢(±SD)は44.6±17.8歳で、静脈血栓塞栓症の既往は0.7%、がんの既往は2.5%でした。
アスピリン群 | 低分子ヘパリン群 | 差(96.2%信頼区間) | |
死亡 | 47例(0.78%) | 45例(0.73%) | 0.05%(-0.27~0.38) P<0.001 非劣性マージン:0.75% |
深部静脈血栓症 | 2.51% | 1.71% | 0.80%、95%CI 0.28~1.31) |
肺塞栓症 | 1.49% | 1.49% | – |
患者は平均8.8±10.6回の院内血栓予防薬の投与を受け、退院時に中央値で21日分の血栓予防薬を処方されました。死亡は、アスピリン群で47例(0.78%)と低分子ヘパリン群で45例(0.73%)が発生しました(差 0.05%、96.2%信頼区間 -0.27~0.38;P<0.001、非劣性マージン:0.75%)。
深部静脈血栓症は、アスピリン群で2.51%、低分子ヘパリン群で1.71%に発生しました(差 0.80%、95%CI 0.28~1.31)。
肺塞栓症(各群1.49%)、出血性合併症、その他の重篤な有害事象の発生率は、両群でほぼ同様でした。
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骨折患者に対する血栓予防として、診療ガイドラインでは低分子ヘパリンが推奨されています。しかし、低分子ヘパリン(例:エノキサパリン)の用法・用量は「通常、エノキサパリンナトリウムとして、1回2000IUを、原則として12時間毎に1日2回連日皮下注射する。」とされており、患者にとって負担が大きいため、より負担の少ない代替薬が求められています。
さて、本試験結果によれば、手術歴のある四肢骨折や骨盤・寛骨臼骨折の患者の死亡予防において、アスピリンによる血栓予防は、低分子ヘパリンに劣らず、90日死亡率も低いことが示されました。
低用量アスピリンとして、本試験では81mgが使用されており、経口投与が可能であることから患者の負担軽減につながると考えられます。
✅まとめ✅ 手術歴のある四肢骨折や骨盤・寛骨臼骨折の患者の死亡予防において、アスピリンによる血栓予防は、低分子ヘパリンに劣らず、90日死亡率も低いと考えられた。
根拠となった試験の抄録
背景:骨折患者に対する血栓予防として、臨床ガイドラインでは低分子ヘパリンが推奨されているが、アスピリンと比較した有効性に関する臨床試験は不足している。
方法:この実用的な多施設共同ランダム化非劣性試験において、手術による治療を受けた四肢(股関節から中足、肩から手首まで)の骨折を有する18歳以上の患者、あるいは骨盤または寛骨臼の骨折を有する患者を登録した。患者は入院中、低分子ヘパリン(エノキサパリン)30mgを1日2回投与する群と、アスピリン81mgを1日2回投与する群にランダムに割り付けられた。退院後は、各病院の臨床プロトコールに従って血栓予防薬を継続投与した。
主要転帰は、90日目におけるあらゆる原因による死亡とした。副次的転帰は、非致死的肺塞栓症、深部静脈血栓症、出血性合併症であった。
結果:合計12,211例の患者が、アスピリン投与(6,101例)または低分子ヘパリン投与(6,110例)にランダムに割り付けられた。平均年齢(±SD)は44.6±17.8歳で、静脈血栓塞栓症の既往は0.7%、がんの既往は2.5%であった。患者は平均8.8±10.6回の院内血栓予防薬の投与を受け、退院時に中央値で21日分の血栓予防薬を処方された。死亡は、アスピリン群 47例(0.78%)と低分子ヘパリン群 45例(0.73%)で発生した(差 0.05%、96.2%信頼区間 -0.27~0.38;P<0.001、非劣性マージン:0.75パーセントポイント)。深部静脈血栓症は、アスピリン群で2.51%、低分子ヘパリン群で1.71%発生した(差 0.80パーセントポイント、95%CI 0.28~1.31)。肺塞栓症(各群1.49%)、出血性合併症、その他の重篤な有害事象の発生率は、両群でほぼ同じであった。
結論:手術歴のある四肢骨折や骨盤・寛骨臼骨折の患者において、アスピリンによる血栓予防は、死亡予防において低分子ヘパリンに劣らず、深部静脈血栓症や肺塞栓症の発症率が低く、90日死亡率も低いと考えられた。
資金提供:Patient-Centered Outcomes Research Institute
ClinicalTrials.gov番号:NCT02984384
引用文献
Aspirin or Low-Molecular-Weight Heparin for Thromboprophylaxis after a Fracture
Robert V O’Toole et al. METRCグループ。PMID: 36652352 DOI: 10.1056/NEJMoa2205973
N Engl J Med. 2023 Jan 19;388(3):203-213. doi: 10.1056/NEJMoa2205973.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36652352/
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