経口抗凝固薬により骨折リスクは異なるのか?
ビタミンKは、プロトロンビン等の血液凝固因子を活性化し、①血液凝固を促すだけでなく、骨たんぱく質オステオカルシンの活性化を介し、②骨形成を調節します。またビタミン K依存性たんぱく質Matrix Gla Protein(MGP)活性化による③動脈の石灰化を防ぐことが過去の研究で示唆されています(in vitro研究)。
経口抗凝固薬であるワルファリンはビタミンKの作用を阻害することにより、抗凝固作用を示しますが、骨形成抑制による骨折リスク、動脈の石灰化の亢進について懸念が残っています。
2型糖尿病患者は、骨代謝の減衰と骨微細構造の障害により、骨折リスクが高くなることが報告されています。しかし、心房細動(AF)を併発した2型糖尿病患者において、ワルファリンと非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)の骨折発生に対する比較効果については充分に検討されていません。
そこで今回は、香港病院局の電子データベースから特定した2005年から2019年の間にワルファリンまたはNOACの投与を開始した2型糖尿病とAFを有する成人のレトロスペクティブ、傾向スコア重み付け、人口ベースコホート研究の結果をご紹介します。
本試験の主要アウトカムは、主要な骨粗鬆症性骨折(股関節、臨床的椎体、上腕骨近位部、手首)の複合でした。ハザード比(HR)はCox比例ハザード回帰モデルで算出しました。
試験結果から明らかになったことは?
心房細動に合併した2型糖尿病患者15,770例(NOAC投与 9,288例、ワルファリン投与 6,482例)が対象でした。
(中央値20ヵ月) | NOAC群 | ワルファリン群 | 調整後の累積発生率 (vs. ワルファリン) |
201例 [2.2%] | 350例 [5.4%] | HR 0.80 (95%CI 0.64〜0.99) P=0.044 |
中央値20ヵ月の追跡期間中に551例(3.5%)が主要な骨粗鬆症性骨折を認めました(NOAC群 201例[2.2%]、ワルファリン群 350例[5.4%])。調整後の累積発生率は、NOAC使用者のほうがワルファリン使用者よりも低いことが示されました(HR 0.80; 95%CI 0.64〜0.99; P=0.044)。
サブグループ解析では、NOAC使用者はワルファリン使用者と比較して、性別、年齢、HbA1c、糖尿病罹病期間、重症低血糖歴のいずれにおいても主要骨粗鬆性骨折に対する一貫した予防効果を示しました。
コメント
ビタミンK拮抗作用を有するファルファリンは、その作用機序から骨折リスクの懸念が残っています。しかし、このリスクは基礎研究の結果に基づいているため、実臨床における検証が求められています。
さて、本試験結果によれば、心房細動を合併した2型糖尿病患者において、NOAC使用はワルファリン使用よりも主要な骨粗鬆症性骨折のリスクが低い可能性が示されました。ただし、試験デザインから相関関係が示されたに過ぎません。
とはいえ、他のコホート研究においても、NOAC使用集団と比較して、ワルファリン使用集団において骨折リスク増加が示されていますので、研究間の一貫性はある程度示されていると考えられます。
どのような患者集団において、より骨折リスクが一般的となるのか検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 心房細動を合併した2型糖尿病患者において、NOAC使用はワルファリン使用よりも主要な骨粗鬆症性骨折のリスクが低いかもしれない。
根拠となった試験の抄録
目的:2型糖尿病患者は、骨代謝の減衰と骨微細構造の障害により、骨折リスクが高い。心房細動(AF)を併発した2型糖尿病患者において、ワルファリンと非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)の骨折発生に対する比較効果はまだ明らかにされていない。
研究デザインおよび方法:香港病院局の電子データベースから特定した2005年から2019年の間にワルファリンまたはNOACの投与を開始した2型糖尿病とAFを有する成人のレトロスペクティブ、傾向スコア重み付け、人口ベースコホート研究である。
主要アウトカムは、主要な骨粗鬆症性骨折(股関節、臨床的椎体、上腕骨近位部、手首)の複合であった。ハザード比(HR)はCox比例ハザード回帰モデルで算出した。
結果:心房細動に合併した2型糖尿病患者15,770例(NOAC投与 9,288例、ワルファリン投与 6,482例)が対象であった。中央値20ヵ月の追跡期間中に551例(3.5%)が主要な骨粗鬆症性骨折を認めた(NOAC群 201例[2.2%]、ワルファリン群 350例[5.4%])。調整後の累積発生率は、NOAC使用者のほうがワルファリン使用者よりも低かった(HR 0.80; 95%CI 0.64〜0.99; P=0.044)。サブグループ解析では、NOAC使用者はワルファリン使用者と比較して、性別、年齢、HbA1c、糖尿病罹病期間、重症低血糖歴のいずれにおいても主要骨粗鬆性骨折に対する一貫した予防効果を示した。
結論:心房細動を合併した2型糖尿病患者において、NOAC使用はワルファリン使用よりも主要な骨粗鬆症性骨折のリスクが低いことが示された。骨の健康の観点から、NOACは好ましい抗凝固薬である可能性がある。
引用文献
Evaluation of Fracture Risk Among Patients With Type 2 Diabetes and Nonvalvular Atrial Fibrillation Receiving Different Oral Anticoagulants
David Tak Wai Lui et al. PMID: 36126158 DOI: 10.2337/dc22-0664
Diabetes Care. 2022 Sep 20;dc220664. doi: 10.2337/dc22-0664. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36126158/
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