オミクロンおよびデルタ変異株に対するCOVID-19 mRNAワクチンの有効性は?
SARS-CoV-2感染症(COVID-19)の拡大に歯止めがかかりません。特に2021年〜2022年にかけてはデルタ、そしてオミクロン変異株により感染者数および死亡者数の増加が引き起こされています。
COVID-19に対する予防対策の一つとしてワクチンがあげられ、開発も積極的に行われています。これまでにさまざまなタイプのワクチンが使用されていますが、特にmRNAベースのCOVID-19ワクチンの有効性の高さが報告されています。しかし、オミクロンおよびデルタ変異株に対するmRNAワクチンの有効性(感染予防あるいは感染による入院の予防)については充分に検討されていません。
そこで今回は、オミクロンあるいはデルタに対するCOVID-19 mRNAワクチン接種の有効性について検証した試験陰性症例対照研究の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
大規模かつ多様な研究集団には、SARS-CoV-2検査陽性例26,683例が含まれ、S遺伝子ステータスによってバリアントが決定されました(デルタ 16%、オミクロン 84%:2021年12月6日から2021年12月31日の間に採取された検体の検査結果)。
ワクチン効果 (95%CI) | mRNA-1273ワクチン 1回接種によるワクチン効果(VE) | 2回接種によるVE | 3回接種時によるVE |
全体 | 対デルタ感染 56.7% (40.7〜68.4%) 対オミクロン感染 20.4% (9.5〜30.0%) | ||
接種後14~60日 | 対デルタ感染 93.7% (92.2~94.9%) 対オミクロン感染 71.6% (69.7~73.4%) | ||
接種後60日超 | 対デルタ感染 86.0% (78.1~91.1%) 対オミクロン感染 47.4% (40.5~53.5%) | ||
接種後14〜90日 | 対デルタ感染 80.2% (68.2~87.7%) 対オミクロン感染 44.0% (35.1〜51.6%) | ||
接種後91~180日 | 対デルタ感染 68.9% (60.1~75.8%) 対オミクロン感染 23.5% (16.4~30.0%) | ||
接種後181~270日 | 対デルタ感染 63.7% (59.8~67.2%) 対オミクロン感染 13.8% (10.2~17.3%) | ||
270日超 | 対デルタ感染 61.3% (55.0~66.7%) 対オミクロン感染 5.9% (0.4~11.0%) |
14〜90日後のオミクロン感染に対するmRNA-1273ワクチン2回接種のワクチン効果は44.0%(95%CI 35.1〜51.6%)でしたが、その後すぐに減少し増した。
14~60日および60日超におけるワクチン3回接種時のワクチン効果は、デルタ感染に対して93.7%(92.2~94.9%)および86.0%(78.1~91.1%)、オミクロン感染に対してそれぞれ71.6%(69.7~73.4%)および47.4%(40.5~53.5%)となり、オミクロン感染に対しては、14日および60日後にVEが上昇しました。
免疫不全者のオミクロン感染に対するワクチン3回接種時のワクチン効果は29.4%(0.3~50.0%)でした。また、デルタまたはオミクロンによる入院に対するワクチン3回接種のワクチン効果は、調査対象者全体で99%以上でした。
コメント
COVID-19 mRNAワクチン接種によるデルタおよびオミクロン感染に対する効果を検証した試験です。最近報告が増えている “test negative case-contorol design” です。検査陰性症例対照研究では、健康志向バイアス等、ランダム化比較試験や前向き観察研究で入り込みやすいバイアスリスクを低くすることができます。
さて、本試験結果によれば、特に免疫不全者において、デルタ感染に対するCOVID-19 mRNAワクチンによる3回接種の有効率は高く、持続的でした。一方で、オミクロン感染に対するワクチンの有効率は、デルタ感染と比較して低いことが明らかになりました。これまでの報告と矛盾しません。やはりオミクロンに対するワクチンの有効性は下がるようです。とはいえ、デルタまたはオミクロン感染による入院に対するワクチンの効果は全体で99%以上と高い値が維持されていました。ワクチン接種による重症化リスクを抑える効果は疑いようがありません。
ワクチンの有効性については、副反応(日本以外では有害事象と表記)とのリスクベネフィット検証というよりは、副反応に注目が集まりやすいですが、COVID-19後遺症(long COVID-19)などの持続的な症状を抑える効果も期待できることから、ネガティブな情報だけに惑わされず、社会全体、予後などの長期的な視点を持ちことが重要であると考えます。
これまでの研究報告も踏まえると、ワクチン接種は継続的に行った方が賢明であると考えられます。
✅まとめ✅ 特に免疫不全者において、デルタ感染に対するCOVID-19 mRNAワクチンによる3回接種の有効率は高く、持続的であったが、オミクロン感染に対する有効率は低いことが明らかになった。一方、デルタまたはオミクロン感染による入院に対する効果は全体で99%以上と高い値が維持されていた。
根拠となった試験の抄録
背景:SARS-CoV-2 Omicron (B.1.1.529) 変異株は、免疫逃避の可能性を持つ高い感染性を持っている。
目的・方法:我々は、OmicronまたはDeltaの感染および入院に対するmRNA-1273のワクチン効果(VE)を評価するために、試験陰性ケースコントロール研究を実施した。
結果:大規模かつ多様な研究集団には、SARS-CoV-2検査陽性例26,683例が含まれ、S遺伝子ステータスによってバリアントが決定された(Delta 16%、Omicron 84%)。14〜90日後のOmicron感染に対する2回投与のVEは44.0%(95%CI 35.1〜51.6%)であったが、すぐに減少した。14~60日および60日超の3回投与時のVEは、Delta感染に対して93.7%(92.2~94.9%)および86.0%(78.1~91.1%)、Omicron感染に対してそれぞれ71.6%(69.7~73.4%)および47.4%(40.5~53.5%)となり、Omicron感染に対しては、14日および60日後にVEが上昇した。免疫不全者におけるオミクロン感染に対する3回投与時のVEは29.4%(0.3~50.0%)であった。また、DeltaまたはOmicronによる入院に対する3回投与のVEは、調査対象者全体で99%以上であった。
考察:特に免疫不全者において、Delta感染症に対する3回投与の有効率は高く、持続的であったが、Omicron感染症に対する有効率は低いことが明らかになった。しかし、mRNA-1273の3回投与VEは、DeltaおよびOmicronの変異体による入院に対して高い有効性を示した.
引用文献
Effectiveness of mRNA-1273 against SARS-CoV-2 Omicron and Delta variants
Hung Fu Tseng et al. PMID: 35189624 DOI: 10.1038/s41591-022-01753-y
Nat Med. 2022 Feb 21. doi: 10.1038/s41591-022-01753-y. Online ahead of print.
— 読み進める www.nature.com/articles/s41591-022-01753-y
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