― 第III相ランダム化比較試験:クエン酸第一鉄ナトリウムとの比較(Int J Hematol. 2021)
臨床疑問(Clinical Question)
鉄欠乏性貧血(IDA)患者において、クエン酸第二鉄水和物(Ferric Citrate Hydrate: FC、商品名リオナ)は、従来のクエン酸第一鉄ナトリウム(Sodium Ferrous Citrate: SF、商品名フェロミア)と同等の造血効果を維持しながら、消化器副作用を軽減できるのでしょうか?
研究の背景
鉄欠乏性貧血(Iron Deficiency Anemia:IDA)は世界で最も頻度の高い貧血であり、経口鉄剤が第一選択治療です。
しかし、日本で広く使用されているクエン酸第一鉄ナトリウム(商品名フェロミア)、硫酸鉄(商品名フェロ・グラデュメット)、フマル酸第一鉄(商品名フェルム)などの二価鉄製剤(ferrous iron)では、悪心、嘔吐、腹痛、便秘などの消化器症状が約30%に認められ、服薬アドヒアランス低下の大きな原因となっています。
一方、クエン酸第二鉄水和物(Ferric Citrate Hydrate:FC)は、日本では慢性腎臓病患者のリン吸着薬(商品名リオナ)として使用されており、鉄補充作用も有することが知られています。
そこで本研究では、FCをIDA治療薬として使用した場合、従来の鉄剤と同等以上の有効性と、より良好な消化器忍容性が得られるかを検証しました。
研究デザイン
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 多施設・ランダム化・二重盲検・実薬対照・非劣性第III相試験 |
| 施設 | 日本50施設 |
| 対象 | 20歳以上の鉄欠乏性貧血患者 |
| 患者数 | 517例 |
| 介入① | FC 500 mg/日(約120 mg鉄) |
| 介入② | FC 1000 mg/日(約240 mg鉄) |
| 対照 | SF 100 mg/日 |
| 治療期間 | 7週間 |
| 主要評価項目 | Hb変化量 |
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P | 鉄欠乏性貧血患者517例 |
| I | クエン酸第二鉄水和物500または1000 mg/日 |
| C | クエン酸第一鉄ナトリウム100 mg/日 |
| O | Hb改善、安全性、消化器副作用 |
患者背景
- 平均年齢:約41歳
- 女性:約99.8%
- 閉経前女性:約99%
- 子宮筋腫・子宮腺筋症など婦人科疾患が主な原因
試験結果から明らかになったことは?

① Hb改善(主要評価項目)
| 群 | Hb上昇量(LSM) |
|---|---|
| FC 1000 mg | +3.29 g/dL |
| SF | +3.11 g/dL |
| 差 | +0.18 g/dL(95%CI −0.01 〜 0.37) |
FC 1000 mgはSFに対して非劣性が証明されました。
| 群 | Hb上昇量 |
|---|---|
| FC 500 mg | +2.75 g/dL |
| SF | +3.11 g/dL |
FC 500 mgでも非劣性を達成しました。
② Hb目標値達成率
| 群 | 7週時点のHb目標達成率 |
|---|---|
| FC1000 mg | 79.1% |
| SF | 72.1% |
| FC500 mg | 51.5% |
ロジスティック解析ではFC1000 mgでOR 1.80(95%CI 1.33–2.43)となり、最も高い目標達成率を示しました。
③ 消化器副作用
悪心
| 群 | 発現率 |
|---|---|
| FC500 mg | 15.5% |
| FC1000 mg | 10.5% |
| SF | 32.7% |
嘔吐
| 群 | 発現率 |
|---|---|
| FC500 mg | 5.2% |
| FC1000 mg | 1.2% |
| SF | 15.2% |
悪心・嘔吐はいずれもFC群で有意に少なくなりました。
④ 下痢
| 群 | 発現率 |
|---|---|
| FC500 mg | 24.1% |
| FC1000 mg | 27.9% |
| SF | 23.4% |
下痢は群間差を認めませんでした。
研究者の考察
著者らは、二価鉄製剤では腸管内で遊離したFe²⁺がフリーラジカル産生を介して悪心・嘔吐を引き起こす可能性を指摘しています。
一方、FCは三価鉄(Fe³⁺)として投与され、腸管で還元されて吸収されるため、腸管内での遊離Fe²⁺量が少ない、フリーラジカル産生が少ないことが、悪心・嘔吐の減少につながった可能性が考察されています。なお、この機序は著者らによる仮説であり、本試験で直接検証されたものではありません。
研究の限界(批判的吟味)
本研究は質の高い第III相RCTですが、以下の点に注意が必要です。
① 女性がほぼ全例
- 99.8%が女性
- 男性への一般化は限定的
② 日本人のみ
- 日本人IDA患者を対象
- 他民族への外的妥当性は不明
③ 観察期間が7週間
- 長期投与時の有効性・安全性は評価されていない
④ 軽症〜中等症IDAが中心
- Hb 7〜11 g/dLが対象
- 重症例や炎症性貧血には適用できない
⑤ 製薬企業主導試験
- Japan Tobacco社が実施した試験であり、結果の解釈では資金提供元による潜在的影響も考慮する必要があります。
まとめ
- FC 500 mg・1000 mgはいずれもSFに対してHb改善効果で非劣性
- FC1000 mgはHb目標達成率が最も高かった
- 悪心・嘔吐はFCで有意に少なかった
- 下痢はSFと同程度
- 全体として忍容性に優れた経口鉄剤である可能性
今回用いられたクエン酸第一鉄ナトリウム(Sodium Ferrous Citrate: SF、商品名フェロミア)は100mgです。嘔気嘔吐などの忍容性が低い患者では50mgが使用されることもあるため、本試験結果だけをもってクエン酸第二鉄水和物(Ferric Citrate Hydrate: FC、商品名リオナ)の方が優れているとは言えません。
とはいえ、クエン酸第一鉄ナトリウムの忍容性が低い場合には、クエン酸第二鉄水和物が有用な選択肢となるのかもしれません。貯蔵鉄の回復には比較的長期間を要するため、副作用対策は重要です。一方、低用量の鉄剤にビタミンCと併用することで
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、クエン酸第二鉄水和物はIDAの治療に十分な有効性を持ち、悪心および嘔吐のリスクが低い経口鉄剤となる可能性を秘めている。
根拠となった試験の抄録
経口鉄剤は鉄欠乏性貧血(IDA)の第一選択治療薬として用いられますが、消化器系の副作用により患者が適切に服薬を継続することが困難です。そこで私たちは最近、IDA患者を対象に、クエン酸第二鉄水和物(FC)の2つの用量とクエン酸第一鉄ナトリウム(SF)の有効性および安全性を評価する無作為化二重盲検第3相非劣性試験を実施しました。その結果、ベースラインから7週目までのヘモグロビン濃度の変化に関して、FCの500mg/日および1000mg/日はいずれもSFの100mg/日に対して非劣性であることが示されました。ロジスティック回帰分析の結果、7週目に目標ヘモグロビン濃度(男性患者では13.0 g/dL以上、女性患者では12.0 g/dL以上)を達成した患者の累積割合は、FC 1000 mg/日投与群で最も高く、次いでSF 100 mg/日投与群、FC 500 mg/日投与群の順であった。FCのいずれの投与量も、鉄欠乏性貧血(IDA)患者において忍容性が良好であった。悪心および嘔吐の発生率は、FC投与群の方がSF投与群よりも有意に低かった。結論として、FCはIDAの治療に十分な有効性を持ち、悪心および嘔吐のリスクが低い経口鉄剤となる可能性を秘めている。
キーワード: クエン酸第二鉄水和物;消化器系の副作用;鉄欠乏性貧血;日本;経口鉄剤
引用文献
Efficacy and safety of ferric citrate hydrate compared with sodium ferrous citrate in Japanese patients with iron deficiency anemia: a randomized, double-blind, phase 3 non-inferiority study
Norio Komatsu et al. PMID: 3371902 PMCID: PMC10917848 DOI: 10.1007/s12185-021-03123-9
Int J Hematol. 2021 Jul;114(1):8-17. doi: 10.1007/s12185-021-03123-9. Epub 2021 Mar 15.
― 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33719027/


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