― 大規模レセプトデータから読み解く疫学(BMC Infect Dis. 2026)
臨床疑問
日本における帯状疱疹(HZ)と帯状疱疹後神経痛(PHN)の発生率はどの程度で、年齢・季節・合併症リスクにどのような特徴があるのか?
研究の背景
帯状疱疹はVZVの再活性化により発症し、PHN、入院、眼合併症、神経合併症などを伴うことがある。日本では高齢化が進む一方で、研究期間中は帯状疱疹ワクチンの公的助成が限定的であり、ワクチン戦略を検討するための疫学データが求められていた。
PICO
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| P | 日本のレセプトデータベース対象者 |
| I | 帯状疱疹発症 |
| C | 年齢・性別・年度・季節別比較 |
| O | HZ発生率、PHN発生率、入院リスク、PHNリスク |
試験デザイン
大規模レセプトデータベースを用いた疫学研究。DeSC Healthcareのデータを用い、2014年4月から2023年3月までのHZおよびPHNを解析した。HZはICD-10コードB02に加え、診断後3日以内の全身性抗ウイルス薬処方で定義された。PHNはHZ診断後30〜180日のPHN診断コードまたは関連薬剤処方で定義された。
試験結果
全体の発生率
| アウトカム | 標準化発生率 |
|---|---|
| HZ | 9.58 / 1,000人年 |
| PHN | 1.00 / 1,000人年 |
年次推移
| アウトカム | 年間変化率 |
|---|---|
| HZ | 1.16%増加(95%CI 0.52–2.00) |
| PHN | 0.99%増加(95%CI 0.09–3.04) |
年齢別発生率
| 年齢 | HZ | PHN |
|---|---|---|
| 40–49歳 | 7.17 | 0.37 |
| 50–59歳 | 9.73 | 0.78 |
| 60–69歳 | 13.96 | 1.78 |
| 70–79歳 | 17.99 | 2.97 |
| ≥80歳 | 18.81 | 2.98 |
HZ後の合併症リスク
| アウトカム | 標準化リスク |
|---|---|
| 入院 | 4.8% |
| PHN | 10.4% |
70歳以上では、50–59歳と比較して、入院およびPHNのリスク比がおおむね2〜3倍高かった。
季節性
HZは夏に多く、varicella(水痘)発生率との明確な関連は少なかった。
抗ウイルス薬使用割合の推移(2014–2022年)
全体傾向(重要ポイント)
- アメナメビルが2017年以降急増し、2022年には最多(44.6%)
- バラシクロビルは減少傾向(50.1% → 38.7%)
- ファムシクロビルも減少(34.3% → 10.9%)
- アシクロビル(内服・注射)は一貫して低下
年次別データ(%)
| 薬剤 | 2014 | 2017 | 2020 | 2022 |
|---|---|---|---|---|
| アメナメビル | 0.0 | 10.4 | 36.0 | 44.6 |
| バラシクロビル | 50.1 | 54.5 | 42.8 | 38.7 |
| ファムシクロビル | 34.3 | 25.3 | 13.7 | 10.9 |
| アシクロビル(内服) | 9.9 | 4.8 | 3.7 | 3.0 |
| アシクロビル(注射) | 4.5 | 4.4 | 3.5 | 2.7 |
| ビダラビン | 1.3 | 0.5 | 0.3 | 0.2 |
試験の限界(批判的吟味)
- レセプトデータ研究であり、診断コードの妥当性に限界がある
- HZワクチン接種情報が含まれていない
- PHNは診断コードと薬剤処方で定義され、痛みの持続を直接評価できない
- アセトアミノフェン単独使用例やメコバラミン+アセトアミノフェン併用冷などはPHNとして拾えない可能性
- 重症度、皮疹部位、疼痛スコアなどの臨床情報は評価できない
コメント(結果の解釈)
本研究では、日本におけるHZおよびPHNの発生率が年齢とともに増加し、特にPHNでは加齢の影響がより強いことが示された。HZ後のPHNリスクが10.4%、入院リスクが4.8%であった点は、ワクチン戦略や公的助成対象年齢を考えるうえで重要なデータである。
一方で、PHN定義はレセプトベースであり、軽症例や市販薬のみで対応した症例は過小評価される可能性がある。
また、抗ウイルス薬の使用傾向については次のようにとらえられる。2017年以降にアメナメビルが急速に普及(従来主流であったバラシクロビルは徐々にシェア低下)。ファムシクロビルも同様に減少。アシクロビルは全体として使用頻度が低いまま推移。
まとめ
- 日本のHZ発生率は9.58 / 1,000人年
- PHN発生率は1.00 / 1,000人年
- HZ、PHNともに年齢とともに増加
- PHNでは加齢の影響がより強い
- HZ後のPHNリスクは10.4%、入院リスクは4.8%
- HZは夏に多く、水痘発生とは明確に連動しなかった
これまでの報告と同様の傾向が示されました。一方、ワクチンの効果については、本研究結果からは不明です。
補足的な結果ですが、抗ウイルス薬の使用傾向が明らかとなりました。比較的新しい薬剤であるアメナメビルの使用量が増加しています。服用回数が少なく、腎機能低下症例にも使用しやすい反面、高コストであることから患者の置かれた状況や意向を確かめる必要性があります。
継続して追っていきたいテーマです。
続報に期待。

✅まとめ✅ 日本レセプトデータベースの解析の結果、帯状疱疹(HZ)と帯状疱疹後神経痛(PHN)の発生率はそれぞれ9.58 / 1,000人年、PHN発生率は1.00 / 1,000人年だった。いずれも加齢の影響により発生率が増加し、特にHZでは加齢の影響がより強かった。HZ後のPHNリスクは10.4%、入院リスクは4.8%だった。HZは夏に多く、水痘発生とは明確に連動しなかった。
根拠となった試験の抄録
背景: 帯状疱疹(HZ)は世界的な公衆衛生上の懸念事項である。帯状疱疹ワクチン接種は帯状疱疹とその合併症の両方を減少させることが期待されているが、ワクチン接種戦略を策定するための包括的な疫学的データは不足している。
方法: 我々は、2014年4月から2023年3月までの日本の診療報酬請求データベースの大規模分析を実施し、帯状疱疹(HZ)および帯状疱疹後神経痛(PHN)の標準化発生率を調査した。また、HZ後の入院およびPHNのリスクを評価し、全国的なサーベイランスデータを用いて水痘の発生率を分析した。
結果: 全体的な標準化発生率は、帯状疱疹(HZ)で1,000人年あたり9.58、帯状疱疹後神経痛(PHN)で1,000人年あたり1.00でした。2014年から2023年にかけて、これらの発生率は増加し、推定年間変化率はHZで1.16%(95%信頼区間、0.52~2.00)、PHNで0.99%(0.09~3.04)でした。HZの発生率は年齢とともに着実に増加し、40~49歳では7.17、50~59歳では9.73、60~69歳では13.96、70~79歳では17.99、80歳以上では18.81でした。加齢の影響はPHNでより顕著であり、それぞれの発症率は0.37、0.78、1.78、2.97、2.98であった。帯状疱疹後の入院およびPHNの全体的なリスクはそれぞれ4.8%および10.4%であり、70歳以上の人のリスク比は50~59歳の人の約2~3倍高かった。帯状疱疹の発症率は夏季に高く、水痘の発症率との関連性はほとんど見られなかった。
結論: 今回の研究結果は、帯状疱疹とその合併症を予防するための戦略を策定する上で、個人および政策立案者にとって有益な情報を提供するものである。
補足情報: オンライン版には、10.1186/s12879-026-12534-0 で入手可能な補足資料が含まれています。
キーワード: 請求データベース、疫学、帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、水痘帯状疱疹ウイルス
引用文献
Epidemiology of herpes zoster and postherpetic neuralgia in Japan: analysis of a large-scale claims database
Maho Adachi-Katayama et al. PMID: 41519725 PMCID: PMC12882626 DOI: 10.1186/s12879-026-12534-0
BMC Infect Dis. 2026 Jan 10;26(1):287. doi: 10.1186/s12879-026-12534-0.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41519725/

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