― 米国Medicareコホート研究
臨床疑問(Clinical Question)
65歳以上の高齢者において、RSVワクチン接種はRSV感染に関連した血栓塞栓イベント(心筋梗塞・脳梗塞・静脈血栓塞栓症)を減少させるのか?
研究の背景
呼吸器ウイルス感染は心血管イベントのリスク上昇と関連することが知られている。
RSV感染では
- 心筋梗塞
- 虚血性脳卒中
- 静脈血栓塞栓症
の発生が増加する可能性が報告されている。
米国の監視研究では、RSVで入院した50歳以上の約22%が急性心血管イベントを経験したと報告されている。
2023年6月、米国ACIPは60歳以上へのRSVワクチン1回接種を推奨した。
RSVワクチンはRSV関連入院、RSV関連救急受診を減少させることが示されているが、RSV関連血栓塞栓イベントへの効果は十分に評価されていなかった。
本研究はこの点を検証することを目的とした。
PICO
P:65歳以上のMedicare受給者
I:RSVワクチン接種
C:未接種
O:RSV関連血栓塞栓イベント
(心筋梗塞・虚血性脳卒中・静脈血栓塞栓症)
試験デザイン
- 研究タイプ:後ろ向きコホート研究
- データソース:Medicare claims
- 研究期間:2023年10月1日〜2024年3月30日
- 対象:65歳以上のMedicare受給者
解析対象
15,558,386人
追跡終了条件
- 血栓塞栓イベント発生
- 検閲イベント
- 研究終了
ワクチン接種は接種14日後から有効として扱われた。
解析方法
- Cox比例ハザードモデル
- 多変量調整
調整因子
- 年齢
- 性別
- 人種
- 社会的脆弱性指数
- 居住地域
- 基礎疾患
- 免疫抑制状態
- インフルエンザワクチン接種歴
- COVID-19ワクチン接種
試験結果から明らかになったことは?
全体のワクチン効果
| 群 | 人数 | 血栓塞栓イベント | 発生率(/10,000人年) | ワクチン効果 |
|---|---|---|---|---|
| 未接種 | 12,353,511 | 2,405 | 3.84 | 基準 |
| 接種 | 3,204,875 | 96 | 0.88 | 79%(95%CI 74–83) |
免疫状態別
| 群 | VE |
|---|---|
| 免疫抑制あり | 69%(95%CI 56–78) |
| 免疫正常 | 82%(95%CI 77–86) |
年齢別
| 年齢 | VE |
|---|---|
| 65–74歳 | 75%(95%CI 63–83) |
| ≥75歳 | 80%(95%CI 74–84) |
接種後時間
| 接種後期間 | VE |
|---|---|
| 14–59日 | 80% |
| 60–119日 | 79% |
| >120日 | 75% |
※最初の4か月では大きな効果低下は認められなかった。
ワクチン別
| ワクチン | VE |
|---|---|
| Arexvy(アレックスビー) | 76% |
| Abrysvo(アブリスボ) | 85% |
感度解析
| 解析 | VE |
|---|---|
| 追跡延長 | 78% |
| RSV流行期限定 | 79% |
| IPTW調整 | 71% |
全血栓塞栓イベント(RSV関連でない)
| 指標 | VE |
|---|---|
| 全原因血栓塞栓イベント | 21% |
試験の限界(批判的吟味)
本研究にはいくつかの制約がある。
第一に、対象はMedicareのA・B・D保険加入者に限定されており、米国の65歳以上全体を完全に代表しているとは限らない。
第二に、ワクチン接種およびアウトカムの判定は行政請求データ(claims data)に基づいているため、ワクチン接種の未記録、RSV診断の誤分類が起こる可能性がある。
第三に、多変量調整を行っているものの、残余交絡(residual confounding)の可能性がある。例えば喫煙歴などの未測定因子が影響している可能性がある。
第四に、全原因血栓塞栓イベントでもVEが0ではなく21%となったことから、アウトカム誤分類や交絡の影響が存在する可能性が示唆されている。
最後に、本研究では心筋梗塞、脳卒中、静脈血栓塞栓症など個別アウトカムごとの解析を行う十分な統計的パワーがなかった。
コメント(臨床的解釈)
本研究は1500万人以上の大規模コホートを用いてRSVワクチンの心血管イベントへの影響を評価した点が特徴である。
結果から、
- RSV関連血栓塞栓イベント
- 心筋梗塞
- 脳梗塞
- 静脈血栓塞栓症
のリスクが低下する可能性が示唆された。
これはインフルエンザワクチン、COVID-19ワクチンが心血管イベントを減少させるという研究結果とも整合的である。
呼吸器ウイルス感染が炎症や凝固系を活性化させることを考えると、感染予防による二次的な心血管保護効果と解釈できる可能性がある。
まとめ
65歳以上のMedicare受給者約1500万人を対象とした解析で、RSVワクチンはRSV関連血栓塞栓イベントを79%減少させた。
この効果は年齢、免疫状態、ワクチン種類にかかわらず概ね一貫していた。
RSVワクチンは呼吸器感染予防だけでなく心血管イベント予防の可能性も示唆される。
ワクチン接種の効果において、人種差はほとんどないと考えられますが、有害事象(副反応)は異なる可能性があります。日本人においても同様の結果が示されるのか、更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 米国のコホート研究の結果、RSVワクチンはRSV関連血栓塞栓イベントを79%減少させた。この効果は年齢、免疫状態、ワクチン種類にかかわらず概ね一貫していた。RSVワクチンは呼吸器感染予防だけでなく心血管イベント予防の可能性も示唆された。
根拠となった試験の抄録
我々は、2023年10月1日から2024年3月30日の間に米国で登録された、地域在住の65歳以上のメディケア受給者を対象に、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)関連血栓塞栓症に対するRSVワクチンの有効性を評価した。RSVワクチンは、ワクチン接種と同じシーズンにおいて、RSV関連血栓塞栓症を予防した(有効性79% [95%信頼区間74%~83%])。
キーワード: 米国、呼吸器合胞体ウイルス、血栓塞栓症、ワクチン有効性、ワクチンで予防可能な疾患、ウイルス
引用文献
Effectiveness of RSV Vaccines against RSV-Associated Thromboembolic Events
Ryan E Wiegand et al. PMID: 41714840 PMCID: PMC12928231 DOI: 10.3201/eid3202.251520
Emerg Infect Dis. 2026 Feb;32(2):246-249. doi: 10.3201/eid3202.251520.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41714840/

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