廃用性筋萎縮に対するサプリメントの効果は?
入院中の長期安静やギプス固定などで運動が制限されると、筋肉は減少(筋萎縮)し、筋力低下・機能低下につながります。これを廃用性筋萎縮と呼びます。
栄養介入としての サプリメント(たんぱく質、アミノ酸、クレアチンなど) が、廃用時の筋量・筋力低下を防げるかは臨床的に重要なテーマです。
今回ご紹介する論文は、この疑問に対して ランダム化比較試験(RCT)の統合解析(メタ解析) を行い、廃用性筋萎縮に対するサプリメント介入の効果を評価しています。
試験結果から明らかになったことは?
◆研究の目的と方法
✔ 目的
廃用(筋不使用)によって生じる筋量および筋力の低下に対して、サプリメントが予防効果を持つかを評価する。
✔ 方法
- 20件のRCT(合計 339名)を含むメタ解析(年齢 20〜70歳、女性約22%含む)。
- 主なアウトカム:
- 筋力(標準化平均差 SMD)
- 下肢の除脂肪量(leg lean mass、WMD)
- 二次アウトカム:
- 筋横断面積(CSA)
- 筋線維型分布
- 最大有酸素能力
- 筋容積(volume)
- バイアス評価:Cochrane Risk of Bias ツール
- 異質性:I²指標を用いた解析
◆結果

主要アウトカム
📌 筋力(muscle strength)
- 全体のメタ解析:サプリメントは筋力低下を防がなかった
- 統合効果:SMD 0.19(95%CI −0.04 ~ 0.42, p=0.11)
→ 有意差なし(効果なし)
📌 下肢除脂肪量(lean leg mass)
- 全体のメタ解析:サプリメントは下肢の除脂肪量低下を有意に抑制
- 統合効果:WMD 0.20kg(95%CI 0.09~0.31, p=0.0003)
→ 約0.20kgの保護効果が認められた
📌 サブグループ解析(lean mass)
- アミノ酸群:WMD 0.20kg(95%CI 0.08~0.31, p=0.0007)
- その他栄養素群:WMD 0.32kg(95%CI −0.19 ~ 0.82, p=0.22) → 有意差なし
二次アウトカム
- 筋横断面積(CSA):SMD 0.10(95%CI −0.20 ~ 0.41, p=0.55)
- 筋線維型分布(Type I):WMD 1.00%(95%CI −4.58 ~ 6.58, p=0.73)
- 筋線維型分布(Type II):WMD −1.27%(95%CI −4.58 ~ 6.58, p=0.49)
- 最大有酸素能力:SMD −0.03(95%CI −0.45 ~ 0.38, p=0.88)
- 筋容積(muscle volume):WMD −33.19mm³(95%CI −86.78 ~ 20.40, p=0.22)
主要な所見のポイント
📌 サプリメントは廃用時の下肢除脂肪量(lean leg mass)の低下を有意に抑制する
→ 約0.20kgの効果量が確認されています。
📌 筋力やCSA、筋容積・筋線維組成・最大有酸素能力には効果なし
→ 筋の機能面・形態面での効果は得られていません。
📌 アミノ酸サプリメント群で効果が持続的に見られたが、その他栄養素(クレアチン、O-3脂肪酸など)は有意性が認められませんでした。
試験の限界
この研究結果を読み解く上で、以下の重要な限界があります:
- サンプルサイズが総計339名と小さい
→ 各RCTの被験者数は10〜30名で、統合解析でも多数の比較で統計的検出力が不足する可能性。 - サプリメントの種類が混在している
→ たんぱく質、アミノ酸、β-HMB、クレアチン、オメガ-3脂肪酸などが混在し、どの成分が有効かの因果は不明。 - アウトカム評価方法のばらつき
→ 筋力・lean mass・CSAなど測定法がRCT間で一定でなく、比較困難。 - 期間やモデルのバラつき
→ 廃用モデル(ベッドレスト、ギプス固定など)、介入期間、参加者特性も異なり、一般化に制約。 - 二次アウトカムの研究数が少ない
→ CSA・筋線維・有酸素能力・容積の評価は対象研究が少なく、信頼性が限定的。
まとめ
- 下肢の除脂肪量(lean leg mass)はサプリメントで改善傾向があり、特にアミノ酸群で有意な効果が認められました。
- 筋力や筋容積、CSA、筋線維分布、最大有酸素能力には有意な効果なし。
- サプリメントは筋量減少の一部を抑える可能性はあるものの、機能向上までには至らないと解釈できます。
今後は、より大規模かつ標準化されたRCTが求められます。たとえば、特定成分単独の効果比較やホモジニアスなアウトカム評価が必要です。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験のシステマティックレビュー・メタ解析の結果、栄養補助食品が筋力、筋活動面積(CSA)、筋線維の種類の分布、最大有酸素能力、または筋肉量に及ぼす影響はなさそうであった。
根拠となった試験の抄録
目的: 栄養補助食品が筋肉不使用時の筋肉量と筋力の低下を予防できるかどうかを評価するために、既存のランダム化比較試験 (RCT) の系統的レビューとメタ分析を実施しました。
方法: PubMed、Embase、Cochrane、Scopus、Web of Science、CINAHLのデータベースから、言語および時間制限なしで廃用性筋萎縮に対する栄養補助食品の効果を評価するRCTを検索した。主要評価項目として筋力と脚除脂肪体重を用いた。副次評価項目として筋断面積(CSA)、筋線維タイプ分布、最大有酸素能力、および筋肉量を用いた。バイアスのリスクは、コクラン共同体のバイアスのリスクツールを用いて評価した。異質性はI2統計量指標を用いて検定した。介入群と対照群から結果指標の平均値と標準偏差を抽出し、効果サイズと95%信頼区間を有意水準P<0.05で算出した。
結果: 合計339名を対象とした20件のランダム化比較試験(RCT)が対象となった。その結果、サプリメントは筋力、筋面積(CSA)、筋線維の分布、最大有酸素能力、筋量に影響を与えないことが示された。しかし、サプリメントは脚の除脂肪体重に対して保護効果を示した。
結論: 栄養補助食品は筋委縮脚の筋肉量を改善する可能性があるが、筋力、CSA、筋繊維タイプの分布、最大有酸素能力、または筋肉を使わない間の筋肉量に影響を及ぼす傾向は見られなかった。
システマティックレビュー登録: https://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/#recordDetails、識別子: CRD42022370230
キーワード: 栄養補助食品、廃用性筋萎縮、脚の除脂肪体重、メタ分析、筋力
引用文献
Do dietary supplements prevent loss of muscle mass and strength during muscle disuse? A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials
Hua Ye et al. PMID: 37252241 PMCID: PMC10210142 DOI: 10.3389/fnut.2023.1093988
Front Nutr. 2023 May 11:10:1093988. doi: 10.3389/fnut.2023.1093988. eCollection 2023.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37252241/


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