DOAC・ワルファリンの服薬遵守率は“80%で十分”ではない?|最新エビデンスが示す「最適アドヒアランス閾値」を解説(人口ベースコホート研究; J Thromb Haemost. 2025)

photo of person holding capsule 02_循環器系
Photo by Polina Tankilevitch on Pexels.com
この記事は約6分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

服薬アドヒアランス “80%ルール” は本当に妥当なのか?

心房細動(AF)における脳卒中予防の柱となる 経口抗凝固薬(OAC:ワルファリン/DOAC)
長年、服薬アドヒアランスの基準として「PDC 80%(服薬遵守率80%)」が使用されてきました。しかし、この “80%ルール” (80%基準)は 臨床的に妥当であるか検証されたことがない という問題が指摘されてきました。

今回ご紹介する大規模コホート研究は、
服薬アドヒアランスは「本当に80%で十分なのか?」
を初めて実データで検証した研究です。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景

OACの服薬遵守は、AF患者の脳梗塞・全身塞栓症・死亡など多くのアウトカムに影響します。しかし従来の「80%基準」は、主に他領域の薬の慣習から引用されたもので、AFの抗凝固療法として適切かどうかは不明でした。

この研究では、OAC投与中のAF患者 44,172人 を対象に、

  • ワルファリン(VKA)
  • DOAC(ダビガトラン・リバーロキサバン・アピキサバン等)
    の服薬遵守率(PDC)がどの程度でアウトカムと最も強く関連するのかを評価しました。

◆研究概要

項目内容
研究デザイン後ろ向きコホート研究
対象患者カナダ・ブリティッシュコロンビア州の行政データ(1996–2019)に基づく、AF新規診断 + OAC新規開始患者
対象者数44,172例
曝露(Exposure)OACのPDC(Proportion of Days Covered)90日間
評価したアウトカム脳卒中、全身塞栓症、出血、死亡など
主解析Cox回帰モデル + LASSOで閾値候補を抽出し、最適閾値を特定

◆主な結果

◆ DOACとVKAの「最適アドヒアランス閾値」

薬剤最適PDC閾値概要
DOACPDC 0.90(90%)最もアウトカム改善と関連
VKA(ワルファリン)PDC 0.85–0.95アウトカムによって最適値がやや変動

◆ DOACのほうが「閾値以上 vs 以下」でのアウトカム差が大きい

薬剤閾値以上でのアウトカム改善
DOAC脳卒中リスク 19–52% 減
VKA多くのアウトカムで有意差なし
(最適閾値は0.85–0.95の範囲)

◆ 従来の「80%ルール」は不適切

研究では、
PDC 0.80(80%)は、最適閾値と比べてモデル適合もアウトカム改善度も劣る
ことが明確に示されました。


結果の解釈

  • DOACは高い服薬遵守率が特に重要
    → 90%を下回ると脳卒中リスクが明確に増加
  • VKAは治療強度(INR管理)に依存するため、PDC単独での閾値はやや不明瞭
  • 従来の「80%でOK」は、臨床イベントとの関連からみると妥当とは言えない

試験の限界

  • 観察研究であるため、交絡の残存は否定できない
  • PDCはあくまで「薬を受け取った日数」であり、実際の服用行動を完全には反映しない
  • データはカナダの行政情報であり、他国の医療制度にそのまま当てはまるか不明
  • INR値などの治療強度の詳細を反映できない(VKAに特に影響)

今後の課題

  • DOACの服薬不遵守パターン(飲み忘れの連続 vs 散発)によるアウトカム差の検討
  • 他地域や前向き試験での閾値再検証
  • PDC90日以外の評価期間(30日、180日など)の臨床的妥当性の検討

コメント

◆まとめ

DOAC・ワルファリンの「最適アドヒアランス閾値」は80%より高かった。

本研究の結論は明確です:

🔍 DOAC:PDC <0.90 が非遵守の基準として妥当

🔍 VKA:PDC <0.90 または <0.95 を基準候補として再検討が必要

「80%あれば十分」という従来の基準は、
脳卒中予防という臨床的アウトカムと整合していない
ことが示されました。

抗凝固療法では、1回の飲み忘れが重大な結果につながる可能性があるため、
指導においても
なるべく毎日欠かさない
という重要性をあらためて見直す必要があります。

ただし、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

pexels-photo-1339873.jpeg

✅まとめ✅ 人口ベースコホート研究の結果、最適なアドヒアランス閾値は従来想定されていたよりも高く、特にDOACにおいては臨床転帰と強く関連していることが明らかとなった。DOACについては服薬遵守率90%、VKAについては転帰に応じて90%または95%にOAC非アドヒアランスの定義を更新することを検討した方が良さそうである。

根拠となった試験の抄録

背景: 心房細動 (AF) による脳卒中を予防するための経口抗凝固薬 (OAC) の遵守は、従来、処方された用量の 80% を服用することと定義されていますが、この閾値は臨床的に検証されていません。

目的: AF 患者の臨床イベントリスクと最大限に関連する OAC 遵守閾値を特定し、従来の 80% 閾値と比較しました。

方法: 本研究は、カナダのブリティッシュコロンビア州の人口ベースの行政データに基づき、1996年から2019年の間にAFと新規診断され、OACを初めて使用した患者の後ろ向きデータを用いたコホート研究である。アウトカムイベント発生前または追跡調査終了前の90日間におけるOAC使用日数割合(PDC)を主な曝露量としてCox比例ハザードモデルを用い、LASSO推定係数パスを適用して候補閾値を特定し、アウトカムの観点から最適な閾値を特定した。

結果: 44,172人の患者が対象となった。全てのアウトカムにおいて、VKAの最適閾値はPDC 0.85~0.95であったのに対し、DOACの最適閾値は0.9であった。閾値を上回るアウトカムハザード低減率は、VKAよりもDOACの方が大きかった(DOAC:脳卒中リスク19~52%低減、VKA:ほとんどのアウトカムで有意差なし)。PDC 0.8の閾値は、特定された最適閾値と比較して、モデルの適合性とアウトカム効果に劣っていた。

結論: 最適なアドヒアランス閾値は従来想定されていたよりも高く、特にDOACにおいては臨床転帰と強く関連している。これらの結果は、DOACについてはPDC <0.9、VKAについては転帰に応じてPDC <0.9または<0.95にOAC非アドヒアランスの定義を更新することを検討する根拠となる。

キーワード: 心房細動、大出血、服薬遵守、経口抗凝固薬、脳卒中

引用文献

Optimal adherence thresholds for oral anticoagulants in patients with atrial fibrillation using machine learning and population administrative data
Abdollah Safari et al. PMID: 41224177 DOI: 10.1016/j.jtha.2025.10.031
J Thromb Haemost. 2025 Nov 10:S1538-7836(25)00832-3. doi: 10.1016/j.jtha.2025.10.031. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41224177/

コメント

タイトルとURLをコピーしました