低カリウム血症の治療では「マグネシウム補正」が鍵?|ICU患者を対象としたRCTから学ぶ(DB-RCT; Crit Care Med. 1996)

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低カリウム血症と低マグネシウム血症との関連性は?

重症患者で低カリウム血症(血清K<3.5 mmol/L)が生じた場合、カリウム補正がうまくいかないことがあります。
その背景には「マグネシウム欠乏」が関与していることが知られています。マグネシウムが不足すると、腎尿細管でのカリウム再吸収が障害され、どれだけカリウムを投与しても体内に保持できません。

そこで今回は、外科系ICU患者を対象に、マグネシウム補給がカリウム保持に及ぼす影響を検証した二重盲検ランダム化比較試験(RCT)の結果をご紹介します。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景

臨床現場では、カリウム補充を行っても血清K値が上昇しない「カリウム抵抗性低カリウム血症」がしばしば見られます。この抵抗性は、細胞内K再取り込み障害や腎排泄増加など複数の要因によりますが、低マグネシウム血症が同時に存在するとカリウム保持が困難になることが知られています。

しかし、重症患者を対象にマグネシウム補正の実際の効果を検証したRCTは限られていました。


◆研究概要

項目内容
目的低カリウム血症を呈する重症患者において、マグネシウム補給が安全性・カリウム保持に与える影響を検討する
試験デザイン前向き・二重盲検・ランダム化・プラセボ対照試験
対象外科系ICU入院中の成人32例(血清K<3.5 mmol/L)
介入MgSO₄群:硫酸マグネシウム 2g(8mmol)を6時間ごと×8回静注
プラセボ群:5%ブドウ糖液を同スケジュールで投与
補正条件臨床的必要に応じ、K<3.5 mmol/LでK補給、Mg<1.8mg/dLでMg補給を実施
主要評価項目Mg・Kの血清濃度、尿排泄量、体内バランス、安全性
副次評価項目カリウム保持能(48時間の正味カリウムバランス)

◆試験結果(表)

評価項目MgSO₄群(n=17)プラセボ群(n=15)p値
血清Mg上昇(6時間後)有意上昇(p<0.0001)変化なし<0.0001
総Mg投与量(mg)1603 ± 124752 ± 215<0.0001
尿Mg排泄量(mg)1000 ± 156541 ± 68<0.0001
Mg正味バランス(mg)+612 ± 180+216 ± 217<0.005
総K投与量(mmol)245 ± 39344 ± 450.06(有意差なし)
正味Kバランス(48時間)+72 ± 32−74 ± 95<0.05
有害事象なし

マグネシウム補給により、カリウム保持が有意に改善。血清K値は同程度でも、Mg補給群ではK排泄が減少し、正味バランスがプラスに転じました。


◆試験の限界

  • 対象が外科ICUの小規模集団(n=32)であり、一般病棟や慢性疾患への外挿は限定的。
  • 主要評価が短期間(48時間)であり、長期的な電解質バランスの変化は不明。
  • Mg・K補充以外の因子(輸液量、栄養投与など)の影響を完全には除外できない。

◆今後の検討課題

  • 重症度や腎機能別のサブグループ解析による至適補正プロトコルの検討
  • 持続静注(continuous infusion)との比較
  • カリウム保持改善が臨床転帰(不整脈、筋力回復など)に及ぼす影響の評価

◆まとめ

本RCTの結果は、以下の重要な臨床的示唆を与えています:

  • マグネシウム補正は、カリウム保持を有意に改善する
  • Mg補給により、カリウムの尿中喪失が減少し、正味バランスがプラスに
  • 安全性上の問題は認められず、低K血症治療の補助として有用

したがって、低カリウム血症に直面した際は、まず血清Mg濃度を確認し、不足があれば同時補正を行うことが合理的です。
マグネシウム補給は、単なる電解質補正ではなく、カリウム治療の効果を引き出す「鍵」といえるでしょう。

ただし、小規模な研究結果であること、急性期の患者が対象であることから、試験結果の一般化については慎重に行う必要があります。とはいえ、これまでの多くのデータから、低カリウム血症時には低マグネシウム血症を確認せよ、と言われるぐらい一般化していることでもあります。

その実、有効性・安全性の定量的評価は限られています。マグネシウム補充がどの程度、治療期間や総カリウム投与量を減少できるのかなど、更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 硫酸マグネシウムは安全であり、循環血中マグネシウム濃度を有意に上昇させた。治療群では尿中マグネシウム損失量が多かったにもかかわらず、マグネシウム保持率は有意に良好であった。

根拠となった試験の抄録

目的: この研究の目的は、マグネシウム補充療法の安全性と有効性を評価し、低カリウム血症の重篤な患者におけるカリウム保持に対する効果を明らかにすることです。

試験デザイン: 前向き、二重盲検、ランダム化、プラセボ対照試験。

設定: 外科集中治療室(ICU)。

患者: 試験開始前24時間以内に低カリウム血症(カリウム値3.5 mmol/L未満)と診断された成人外科ICU患者32名が、本試験に参加した。患者はプラセボ(n=15)または硫酸マグネシウム(n=17)のいずれかに無作為に割り付けられた。各群から1名の患者が、全投与シリーズを完了できなかったため試験から除外された。

介入: 患者は、硫酸マグネシウム(2g、8mmol)またはプラセボ(5%ブドウ糖水溶液)のいずれかを、6時間ごとに30分かけて8回点滴投与された。試験期間中、高マグネシウム血症(マグネシウム濃度>2.8mg/dL [>1.15mmol/L])が認められた場合、次回の試験投与は延期された。試験期間中、臨床的に必要な場合、血清カリウム濃度が3.5 mmol/L未満または血清マグネシウム濃度が1.8mg/dL未満(<0.74mmol/L)の場合、カリウムおよびマグネシウムの定期的な補充は継続された。

測定と主な結果: 年齢、体重、および急性生理および慢性健康評価IIスコアが研究参加時に記録されました。各試験用量の投与直前に、マグネシウム、カリウム、重炭酸塩、pH、およびグルコースの測定のために採血され、前の6時間の尿の一部がマグネシウムおよびカリウムの測定に送られました。血清中のカルシウム、リン酸塩、尿素窒素、およびクレアチニンの濃度は毎日測定されました。経腸栄養、経管栄養、および補充輸液により投与されたマグネシウムおよびカリウムの量は、6時間間隔ごとに計算されました。尿中に排泄されたマグネシウムおよびカリウムの量も同様に評価しました。年齢、体重、急性生理および慢性健康評価IIスコア、または初期の血清マグネシウム濃度に関してグループ間に違いは見られませんでした。初期のカリウム、重炭酸塩、pH、カルシウム、リン酸塩、グルコース、血中尿素窒素、およびクレアチニン値はグループ間で違いはありませんでした。硫酸マグネシウムを投与された患者は、プラセボ群と比較して、また投与開始時(0時)の血清マグネシウム濃度と同様に、6時間時点で統計的に有意な上昇を示し(p<0.0001)、この差は試験期間を通じて維持されました。投与された元素マグネシウムの総量は、プラセボ群と比較して、治療群で有意に多く(1603 +/- 124mg vs. 752 +/- 215mg [65.7 +/- 5.8mmol vs. 30.8 +/- 8.8mmol]、p<0.0001)、尿中マグネシウム排泄量も同様に多かった(1000 +/- 156mg vs. 541 +/- 68mg [41.0 +/- 6.4mmol vs. 22.2 +/- 2.8mmol]、p<0.0001)。しかし、正味のマグネシウムバランス(体内の総マグネシウム – 尿中の総マグネシウム)は治療群の方が有意に正であった(612 +/- 180mg vs. 216 +/- 217mg [25.1 +/- 7.4mmol vs. 8.9 +/- 8.9mmol]、p<0.005)。治療群と対照群は血清カリウム濃度は同じで、投与されたカリウム量に差はなかった(それぞれ245 +/- 39mmol vs. 344 +/- 45mmol、p=0.06)が、治療群は0時間目と比較して30時間までに6時間あたりのカリウム補充量が少なくなった(p<0.05)。血清カリウム値は同じであったが、48時間の正味のカリウムバランスは治療群で正(+ 72 +/- 32mmol)、対照群では負であった(-74 +/- 95mmol、p<0.05)。硫酸マグネシウムの投与に伴う合併症はありませんでした。

結論: 上記のレジメンに従って投与された硫酸マグネシウムは安全であり、循環血中マグネシウム濃度を有意に上昇させた。治療群では尿中マグネシウム損失量が多かったにもかかわらず、マグネシウム保持率は有意に良好であった。

引用文献

Magnesium repletion and its effect on potassium homeostasis in critically ill adults: results of a double-blind, randomized, controlled trial
R J Hamill-Ruth et al.
Crit Care Med. 1996 Jan;24(1):38-45. doi: 10.1097/00003246-199601000-00009.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8565536/

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