クロピドグレル代謝と遺伝子多型 ― 日本人に多い「CYP2C19 LOFアレル」と臨床的意義(ブログ管理者によるレビュー; 2025年版)

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1. クロピドグレルの代謝機構とCYP2C19の役割

クロピドグレルはプロドラッグであり、体内で肝臓の薬物代謝酵素によって活性体に変換されて初めて抗血小板作用を発揮します。この活性化は以下の2段階の酸化過程を経て行われます。

  • 第1段階:クロピドグレル → 2-oxo-clopidogrel
    • 主に CYP1A2, CYP2B6, CYP2C19 が関与
  • 第2段階:2-oxo-clopidogrel → 活性代謝物(H4*)
    *プラビックスのインタビューフォームの表記
    • CYP2B6, CYP2C9, CYP2C19, CYP3A4 など複数の酵素が関与

なかでも CYP2C19 は両段階で中心的な役割を担っており、遺伝的な機能低下(loss-of-function: LOF)アレルを有する場合、活性代謝物の生成量が低下し、抗血小板効果が不十分になる可能性があります【Kazui et al., 2010; Mega et al., 2009】。

重要ポイント
CYP2B6やCYP3A4も補助的に寄与しますが、現時点のエビデンスでは臨床転帰に対してCYP2C19ほど明確な影響は示されていません。したがって、抗血小板療法の効果予測ではCYP2C19多型が最も重要な指標となります。


2. 日本人に多いCYP2C19 LOFアレルとその頻度

民族ごとにCYP2C19の遺伝子多型頻度は異なり、東アジア人(日本人、中国人、韓国人など)ではLOFアレルの頻度が高いことが知られています。以前の報告(1999年)では、CYP2C19のPoor Metabolizer(PM)が18.8~25.5%でしたが、現在も同様の頻度であるのか明らかとなっていません。

そこで情報更新を目的としたレビューを実施しました。以下にレビュー結果をまとめていきます。

まず、2009年、2011年時点の報告では、日本人におけるCYP2C19のPMは15~20%でした【Mega et al., 2009; CPIC Guideline 2011】。

CYP2C19 アレル型機能日本人における頻度(代表値)
*1正常機能約35〜45%
*2 / *3機能低下約55〜65%(LOFアレル保有率)
PM(代謝不良者)両アレルがLOF約15〜20%

このような背景から、日本人ではクロピドグレルの効果が遺伝的に低下している可能性が相対的に高いと考えられます。

さらに、2025年に発表された大規模な人種カテゴリー研究において、以下の結果が示されています【Horng-Ee Vincent Nieh et al., 2025】。これまでの報告よりも低下しているようにみえますが、ほど同様と捉えてよいでしょう。

CYP2C19 アレル型*2*3*17
日本人における頻度26.7~35.19.1~15.61.1

3. 臨床的意義と治療選択への影響

複数の臨床研究により、CYP2C19 LOFアレル保有者では:

  • 活性代謝物濃度が低下し、抗血小板作用が不十分となる
  • 心血管イベント(心筋梗塞・ステント血栓症など)のリスクが高まる可能性(異なる結果が示されている)
  • プラスグレルやチカグレロルといった代謝非依存型抗血小板薬への切り替えで効果改善が得られる

といった知見が報告されています【Mega et al., 2009; Scott et al., 2011】。


4. CYP2B6についての補足

CYP2B6も代謝過程の一部に関与しますが、寄与率はCYP2C19より低く、またCYP2B6多型と臨床転帰の明確な関連を示すエビデンスは現時点で存在していません。そのため、臨床的な意思決定においてはCYP2C19多型が最も重要と考えられます【Kazui et al., 2010】。


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✍️ まとめ

  • クロピドグレルの活性化には複数のCYP酵素が関与するが、CYP2C19が主要な役割を担う。
  • 東アジア人ではLOFアレルの保有率が高く、日本人における代謝不良者(PM)は約15〜20%。
  • CYP2B6など他の酵素も代謝には関与するが、臨床転帰への影響は限定的であり、治療戦略ではCYP2C19遺伝子多型の評価が重要である。

ここまでCYP2C19のLOFアレルについて情報をまとめてきましたが、この影響度はどのくらいなのでしょうか。筆者の周囲の話とはなりますが、実臨床でクロピドグレル使用にあたってCYP2C19遺伝子多型をルーティンに測定している施設はありません(一部の大学病院で特定の患者に実施している症例は確認)。また、CYP2C19のLOFアレルを有している患者(特にPM)で、必ずしもクロピドグレル使用で転帰不良となるわけではありません。つまり、転帰に影響する要因は多く、患者背景やおかれた環境により大きく異なることから、CYP2C19のLOFアレル保有のみの判断基準で最善の治療を提供することは困難です。

現在ではプラスグレルやチカグレロルという選択肢があることから、クロピドグレルを選択しないパターンが増えてくるのかもしれません。

引き続き、CYP2C19のLOFアレル保有の頻度をモニタリングしつつ、クロピドグレル治療を行う上で患者転帰にどのような要因が影響するのかキャッチアップしていきたいところです。

続報に期待。


📚 参考文献

  1. Kazui M, et al. Drug Metab Dispos. 2010;38(1):92-9. [PMID: 19812348]
  2. Mega JL, et al. N Engl J Med. 2009;360(4):354-62. [PMID: 19106084]
  3. Scott SA, et al. Clinical Pharmacogenetics Implementation Consortium (CPIC) Guidelines for CYP2C19 and Clopidogrel. Clin Pharmacol Ther. 2011;90(2):328-32. [PMID: 21716271]
  4. CPIC Guideline Supplementary Data. https://files.cpicpgx.org
  5. Horng-Ee Vincent Nieh, et al. J Pers Med. 2025;15(7):274. [PMID: 40710391]

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