扇風機の効果はどのくらいなのか?
夏の猛暑時に「扇風機を使うのは良いのか、それとも危険なのか?」という疑問を持つ方は多いでしょう。特に高齢者は体温調節が難しく、熱中症リスクが高いため、扇風機の使い方には注意が必要です。
米国疾病対策センター(CDC)は、気温32℃を超える環境では扇風機の使用を控えるよう注意喚起しています。しかし、実際の影響については科学的データが充分ではありませんでした。
今回ご紹介する研究は、高齢者における扇風機使用の効果を詳細に検証したものです。
試験結果から明らかになったことは?
■研究の背景
CDCの勧告では「32℃以上の環境で扇風機を使うと体温上昇を招く可能性がある」とされています。ただし、過去の研究では湿度や体質によって扇風機の影響は異なることが報告されていました。本研究は、高齢者(冠動脈疾患の有無を含む)を対象に、湿度の高い環境(38℃・湿度60%)と乾燥した環境(45℃・湿度15%)における扇風機使用の影響を比較したものです。
■研究の方法
- 対象者:平均年齢68歳、冠動脈疾患あり27名・なし31名(計58名)
- 試験デザイン:クロスオーバー試験(二次解析)
- 環境条件:
- 湿潤環境:38℃・湿度60%(計4条件:扇風機なし、扇風機のみ、皮膚の水濡れ、扇風機+水濡れ)
- 乾燥環境:45℃・湿度15%(冠動脈疾患ありの参加者のみ、扇風機なし・皮膚の水濡れを比較)
- 評価項目:
- 直腸温度(体温)
- 発汗量
- 温熱感・快適性(スコア評価)
■研究結果
湿潤環境(38℃・60%湿度)
- 体温:扇風機使用でわずかに低下(−0.1℃、有意差あり)
- 発汗:扇風機で増加(+57 mL/h)、皮膚の水濡れで減少(−67 mL/h)
- 主観評価:扇風機、皮膚の水濡れ、併用のいずれも温熱感と快適性を改善
👉 湿度が高い状況では扇風機は有益で、体温の上昇を防ぎつつ快適性を高めることが示されました。
乾燥環境(45℃・15%湿度)
- 体温:扇風機使用で上昇(+0.3℃、有意差あり)
- 発汗:扇風機で大幅に増加(+270 mL/h)、皮膚の水濡れでは減少(−121 mL/h)
- 主観評価:扇風機は温熱感・快適性ともに悪化、皮膚の水濡れは温熱感を改善
👉 非常に乾燥した環境では扇風機は逆効果で、脱水や熱中症リスクを高める可能性があることが示されました。
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本研究は、CDCの勧告に反して「高温多湿環境では扇風機がむしろ有益である」ことを示しました。一方で、極端に高温で乾燥した環境(45℃・15%湿度)では扇風機が体温を上げ、快適性を損なうため不適切です。皮膚の水濡れは両環境で発汗を抑え、熱ストレスを軽減する効果がありました。
ただし、実験は短時間(3時間)の室内試験で行われており、現実の屋外環境や長時間の曝露では結果が異なる可能性があります。高齢者や持病のある方は、扇風機を使用する際に「湿度と気温の条件」を考慮することが重要です。
日本は高温多湿な環境であるため、扇風機の効果は高い可能性があります。とはいえ、地域ごとの環境や患者背景により扇風機の効果は変化する可能性があります。エアコンと併用したり、定期的で適度な水分摂取を行うなど、扇風機だけに頼らず、手段の一つとしてエアコンを取り入れるとよいでしょう。
続報に期待。

✅まとめ✅ クロスオーバー試験の事後解析の結果、扇風機の使用は極端に高温で乾燥した環境(45℃・15%湿度)を除いて、有益に作用することが示唆された。実世界での検証が求められる。
根拠となった試験の抄録
このクロスオーバー試験の二次分析では、極度の暑さの中で扇風機の使用が高齢者の体温、発汗、温度感覚にどのような影響を与えるかを調査した。
引用文献
Thermal and Perceptual Responses of Older Adults With Fan Use in Heat Extremes: A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial
Georgia K Chaseling et al. PMID: 40728792 PMCID: PMC12308431 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2025.23810
JAMA Netw Open. 2025 Jul 1;8(7):e2523810. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.23810.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40728792/
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