骨盤底筋トレーニングは過活動膀胱患者でも有効?
パーキンソン病(PD)では過活動膀胱(OAB)症状が高頻度にみられ、排尿切迫感・頻尿・夜間頻尿などが生活の質(QOL)を大きく低下させます。
しかし、薬物療法には抗コリン作用による認知機能低下や転倒リスクが伴うため、より安全な選択肢が求められています。
今回紹介するRCTは、薬物療法(ソリフェナシン)と行動療法(骨盤底筋トレーニング)を直接比較したもので、行動療法の非劣性を検証しています。
試験結果から明らかになったことは?
研究デザイン
- ランダム化非劣性試験(12週間)
- 試験群:行動療法(看護師指導による骨盤底筋訓練+切迫感抑制指導)
- 対照群:ソリフェナシン(5mg→最大10mg)
対象者
- 米国VA(退役軍人病院)に通院するPD患者77名(平均年齢:71.3歳)
- OABスコア ≥7点(ICIQ-OAB)
- 認知機能(MOCA)18点以上
試験結果から明らかになったことは?
■ 主要評価項目:ICIQ-OABスコアの変化(12週時点)
スコア(平均±SD) | 有意検定(非劣性) | 非劣性評価 | |
---|---|---|---|
ソリフェナシン群(n=41) | 5.8 ± 2.4 | — | — |
行動療法群(n=36) | 5.5 ± 2.0 | P=0.02 | 非劣性を証明(15%マージン内) |
→ 両群とも臨床的に有意な症状改善がみられ、行動療法はソリフェナシンに非劣性と判定されました。
■ 有害事象(安全性)
有害事象 | ソリフェナシン群 | 行動療法群 |
---|---|---|
口渇 | 多い | 少ない |
転倒 | 多い | 少ない |
→ 抗コリン薬特有の副作用が目立ち、行動療法の安全性が示唆される結果
コメント
◆臨床的意義
パーキンソン病では認知機能やバランス能力の低下があるため、薬物による副作用がQOLをさらに損なう可能性があります。
今回のRCTでは、非薬物的介入(行動療法:骨盤底筋トレーニング)でもOAB症状の改善が可能であり、薬に劣らない効果を示すことが明らかになりました。
→ 初期治療として行動療法を優先的に検討する価値が十分あると考えられます。
◆試験の限界
- 試験参加者の多くが男性(84%)かつ米国退役軍人であり、女性や一般市民への外挿には注意
- 試験期間は12週間と短期で、長期的な効果の持続性は不明
- 行動療法は介入者(看護師)の熟練度に依存する可能性がある
◆今後の検討課題
- 女性PD患者や高齢者における行動療法の有効性
- より長期的なOABコントロールの維持効果の評価
- 在宅・遠隔支援での行動療法の実装可能性
- ソリフェナシン以外の薬剤(ミラベグロンなど)との比較検討
抗コリン作用を有する薬剤ソリフェナシンとの比較が適切かどうかに疑問が残るところではありますが、これは過活動膀胱患者におけるソリフェナシン有効性・安全性のエビデンス、診療ガイドラインの推奨などを踏まえた結果であると考えられます。過活動膀胱患者に対して、抗コリン薬の中ではソリフェナシンの有効性が高いことから診療ガイドラインで推奨されています。
今後は、β3受容体作動薬との比較検証や併用療法の効果検証が求められます。より安全性の高い治療方法の有効性・安全性評価が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、パーキンソン病における過活動膀胱の症状改善において、行動療法が薬物療法に非劣性であることを示唆している。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性: パーキンソン病(PD)における過活動膀胱(OAB)の症状は負担が大きく、薬物治療の副作用はPD関連病状の悪化につながる可能性があります。骨盤底筋運動に基づく行動療法は、薬物の副作用を回避します。
目的: パーキンソン病患者のOAB症状に対する行動療法とソリフェナシン薬物療法の非劣性を評価する。
試験デザイン、設定、および参加者: 行動療法とソリフェナシンを比較する12週間のランダム化非劣性試験は、2018年から2023年にかけて、米国退役軍人省の4つの医療システムにおいて実施された。適格な参加者は、運動障害神経科医によりパーキンソン病(PD)と診断され、国際失禁相談質問票OABモジュール(ICIQ-OAB)症状スコア7以上(範囲:0~16点、高スコアは症状の悪化を示す)、かつモントリオール認知機能評価(MOCA)スコア18以上(範囲:0~30点)の参加者であった。参加者は、性別、登録場所、OAB重症度、パーキンソン病(PD)運動症状重症度で層別化した後、1:1でランダム化された。解析は2023年10月から2024年4月まで実施された。
介入: 行動療法は看護師によって実施され、骨盤底筋訓練と衝動抑制戦略が含まれた。ソリフェナシン療法は1日5mgから開始され、必要に応じて1日10mgまで漸増された。
主要評価項目および評価基準: 主要評価項目は、12週時点のICIQ-OABスコアであり、群間比較において15%の非劣性マージン内で評価された。有害事象は8週間にわたり2週間ごとに評価され、12週時点で再度評価された。
結果: PD患者77名(男性65名 [84%]、平均年齢 71.3 [SD 8.9]歳、PD罹患年数 6.6 [SD 5.8]年)を行動療法群(n=36)または薬物療法群(n=41)にランダムに割り付けた。73名が試験を完了した(薬物療法群では4名が脱落)。ベースライン時の患者特性は群間で均衡しており、MOCAスコア(平均:薬物療法群 23.9 [SD 3.1]、行動療法群 24.8 [SD 3.3])およびICIQ-OABスコア(平均:薬物療法群 9.1 [SD 1.7]、行動療法群 8.5 [SD 1.4])が認められた。ランダム化後12週時点で、ICIQ-OABスコアは両群とも臨床的に有意な改善を示し、事前非劣性マージン15%以内でした(平均スコア:薬物群 5.8 [SD 2.4]、行動群 5.5 [SD 2.0]、P=0.02)。口渇と転倒は、行動群と比較して薬物群でより多く報告されました。
結論と関連性: 本ランダム化非劣性試験の結果は、PDにおけるOAB症状の改善において、行動療法が薬物療法に非劣性であることを示唆している。これらの知見は、PDにおける排尿症状の臨床ガイドラインにおいて、行動療法を初期治療選択肢として考慮する上で役立つ可能性がある。
試験登録: ClinicalTrials.gov 識別子 NCT03149809
引用文献
Behavioral Compared With Drug Therapy for Overactive Bladder Symptoms in Parkinson Disease: A Randomized Noninferiority Trial
Camille P Vaughan et al. PMID: 40658410 PMCID: PMC12261112 (available on 2026-07-14) DOI: 10.1001/jamaneurol.2025.1904
JAMA Neurol. 2025 Jul 14:e251904. doi: 10.1001/jamaneurol.2025.1904. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40658410/
コメント