血圧をどこまで下げるべきか?
高血圧患者に対して、収縮期血圧(SBP)を130mmHg未満に厳格にコントロールすることで、心血管疾患(CVD)のリスクが下がることは知られています。しかしその一方で、腎機能が悪化する可能性も指摘されており、特に慢性腎臓病(CKD)を有さない患者における安全性については、十分なデータがありませんでした。
本研究は、中国農村地域で実施された大規模クラスターRCT「CRHCP試験」のサブ解析です。CKDを有さない高血圧患者において、厳格な血圧管理が腎機能に与える影響と心血管アウトカムを検討しています。
試験結果から明らかになったことは?
研究デザイン
- オープンラベル・エンドポイント盲検化のクラスターRCT(二次解析)
- 対象:推算GFR(eGFR)≧60mL/min/1.73m²のCKDを有さない高血圧患者
- 割付:
・介入群:130/80mmHg未満を目標に管理(非医師の地域医療者による支援介入)
・通常治療群:一般的な降圧治療(地域の通常ケア)
アウトカム
- 主要腎アウトカム:eGFRが30%以上低下し、かつ60未満に到達
- 主要心血管アウトカム(複合):心血管死、脳卒中、心筋梗塞、心不全の合算
対象者数
- 33,332人(平均年齢 62.8歳、女性 61.3%)
- eGFR 60~90:7,562人に腎アウトカム評価を実施
- フォローアップ期間:36か月
試験結果から明らかになったことは?
■ 腎アウトカム(eGFR低下):eGFRが30%以上低下し、かつ60未満に到達
グループ | 発生数 | リスク比(RR) [95%CI] | 有意差 |
---|---|---|---|
介入群 | 121人 | 1.17 [0.82–1.62] | P=0.36 |
通常群 | 101人 | — | — |
■ 心血管アウトカム(複合):心血管死、脳卒中、心筋梗塞、心不全の合算
グループ | 発生数(年間発生率) | ハザード比(HR) [95%CI] | 有意差 |
---|---|---|---|
介入群 | 210人(2.0%/年) | 0.57 [0.47–0.68] | P < 0.001 |
通常群 | 346人(3.3%/年) | — | — |
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◆臨床的意義
この試験は、CKDを有さない高血圧患者において、収縮期血圧を130mmHg未満に厳格に管理しても腎機能障害のリスクは有意に増加せず、むしろ心血管イベントを大幅に抑制できるという重要なエビデンスを提供しています。
近年の血圧ガイドラインでも強調されている「厳格な血圧管理の恩恵」を、CKDを有さない人にも安心して適用できる可能性が示唆されます。
◆試験の限界
- サブ解析であり、主要アウトカムとして設計されていない
- 腎アウトカムはeGFR 60〜90のサブグループ(7,562人)に限定
- 血清クレアチニン値に基づくeGFR変化のみで腎障害を評価しており、アルブミン尿などの指標は含まれていない
- 中国農村部の高血圧患者を対象としており、他国・他民族への外挿には注意が必要
◆今後の検討課題
- より長期的な腎機能・末期腎不全(ESKD)のリスク評価
- アルブミン尿など腎障害のより感度の高い指標を用いた解析
- アジア人以外の人種や地域での再現性の検証
- 厳格な血圧管理が及ぼす認知機能・QOLへの影響の評価
あくまでも仮説生成的な結果ではありますが、慢性腎臓病を有さない患者において、厳格な血糖コントロールは腎機能低下を示さないようです。もしかすると、SGLT-2阻害薬のように、治療初期の一時的なGFR低下が引き起こされるのかもしれません。
より長期的な検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の2次解析の結果、慢性腎臓病のない患者において、厳格な血圧コントロールは複合心血管疾患アウトカムの発現率低下と関連していたが、腎障害リスクの上昇とは関連していなかった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性: 厳格な血圧(BP)コントロールは主要な心血管イベントの減少に効果的です。しかし、収縮期血圧の低下が腎障害につながるかどうかについては、依然として議論が続いています。
目的: 慢性腎臓病のない高血圧患者における徹底的な血圧コントロールと腎臓および心血管疾患の結果との関連性を明らかにする。
試験デザイン、設定、および参加者: 本研究は、2018年5月8日から2023年3月15日まで中国の326の村で実施された、オープンラベル、盲検エンドポイントのクラスターランダム化試験である中国農村高血圧管理プロジェクト(CRHCP)の二次解析です。ベースラインの推定糸球体濾過量(eGFR)が60 mL/min/1.73m²以上の患者を、eGFRレベルに応じて層別化し、介入群または通常ケア群にランダムに割り付けました。
暴露: 非医師地域の医療専門家が、130/80 mmHg未満のBP治療目標を達成するためにトレーニングを受けた後、多面的な介入プログラムを実装しました。
主なアウトカムと評価項目: 腎アウトカムは、eGFRが30%低下して60 mL/min/1.73m²未満になったことと定義しました。複合心血管アウトカムには、心血管死、脳卒中、心筋梗塞、心不全が含まれました。
結果: ベースラインのeGFRが60mL/min/1.73m²以上の患者33,332名が本サブグループ解析に含まれた(平均年齢62.8[SD 9.1]歳、女性61.3%)。36ヶ月の追跡調査後、eGFRが60~90 mL/min/1.73m²の参加者7,562名のうち、介入群では121名、通常ケア群では101名(リスク比1.17、95%信頼区間 0.82~1.62、P=0.36)が腎転帰を経験したが、統計的に有意ではなかった。心血管アウトカムに関しては、介入群では210人(年間2.0%)、通常ケア群では346人(年間3.3%)が複合心血管疾患アウトカムを示し、2群間の差は統計的に有意であった(ハザード比 0.57、95%CI 0.47~0.68、P<0.001)。
結論と関連性: CRHCP研究のこの二次解析は、慢性腎臓病のない患者において、厳格な血圧コントロールは複合心血管疾患アウトカムの発現率低下と関連していたが、腎障害リスクの上昇とは関連していなかったことを示唆している。これらの知見は、慢性腎臓病のない患者における厳格な血圧コントロールの実施を支持するさらなるエビデンスを提供する。
試験登録: ClinicalTrials.gov 識別子 NCT03527719
引用文献
Intensive Systolic Blood Pressure Reduction and Kidney and Cardiovascular Outcomes: A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial
Guozhe Sun et al. PMID: 40643915 PMCID: PMC12254891 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2025.19604
JAMA Netw Open. 2025 Jul 1;8(7):e2519604. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.19604.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40643915/
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